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4話:二人の夢
商店街を抜け、二人はマルイを抜け、七井橋通りへと進んだ。
「やっと、息が吸えるね!」
サクラの表情に、微笑みが戻る。
「さっきの商店街、あれ普通じゃなかったよな。何か…悪夢を見ていたみたいだな。」
ところが、街の異変はこれだけではなかった。
井の頭公園口にある、スターバックスコーヒーに立ち寄った二人を待っていたのは、信じられない光景だった。
店内は異常な混雑で、普段以上の人が溢れかえっていた。店員たちは困り果てた様子で、満席どころか大行列になった人々をさばききれていない。
ショーケースは空っぽで、テラスには、食い散らかした後が散乱していた。まるで獣の群れに襲われたかのようなありさまだ。
「…もう無理。他にしよう。」
桃李がうんざりしたように言い、サクラも小さくうなずいた。
井の頭恩賜公園にある小さな商店の横にある自動販売機で飲み物を買う2人。
木々が風に揺れる音がどこか安心感を与える。池の水面には夕陽光が反射し、穏やかな揺らめきを見せていた。
池に掛かる橋を渡り、弁財天の方面に少し歩いたところのベンチで腰をかけた。
「ここは、いつも通りでよかったね!」
サクラは安堵の表情を見せ桃李に話しかける。
「そうだなー」
2人:「・・・」
少し間を空け、サクラが話し始めた。
「ねぇ、進路のことなんだけど…桃李はどうするの?」
桃李はペットボトルのキャップを閉めながら、夕焼け空を見上げる。
ふと考え込むように間を置いた後、言葉を選ぶように答えた。
「特に決めてない。正直、どこでもいいかな。作れる場所さえあれば、それでいいかな。」
「そっか。桃李らしいね。」
サクラは微笑みながら、どこか安心したような顔を見せた。
「サクラは?」
桃李に質問をされたサクラは、唐突に明るい声を上げる。
「私はね、パリに行こうと思うの。」
桃李は、驚き目を丸くした。
「パリ?また急だな。」
サクラは少し照れたように笑い、語り出す。
「パリでスイーツを勉強してね、吉祥寺1番のスイーツ屋を開くのが夢なんだー。」
唐突過ぎた答えに、桃李理解が追いつかず、ペットボトルの蓋を指で弾きながら、興味なさそうに尋ねる。
「なんかアイデアあるの?」
「まだ具体的には分からないけど…マカロンが好きだから、それを中心にやりたいなって。でも、マカロンだけだと厳しそうだよね、たぶん。」
桃李は少し考え、冗談混じりで答える。
「真っ黒クロスケとコラボしたマカロンとか売れんじゃね?…知らんけど。」
サクラはあきれた顔で桃李の肩を軽く叩いた。
「それじゃ私の力じゃないじゃん!そうじゃなくてさ、自分の力で、吉祥寺から日本のスイーツ文化を変えたいんだよぅ。」
桃李はまたもや唐突な答えに、飲んでいたレモンスカッシュを吹き出しそうになる。
「お前、そこまで考えてんのか!」
「すげぇじゃん、」
「なんか…俺も考えないと、本気でニートになるな。」
「だったら大学は出ておけば?」
サクラは冗談っぽく言いながらも、その目は真剣だった。
桃李は苦笑しながら首を横に振る。
「行くなら美大だけど、金がかかるからな。結局やりたいことがはっきりしてなきゃ、奨学金で詰むだけだろ。」
「…だからって、闇バイトとかやめてね。」
サクラが真剣な顔で言うと、桃李は面倒くさそうに首を振った。
「それはないよ。でもなぁ、実家を継ぐ訳でもなければ、将来なんて宇宙みたいに漠然としてて。人生が変わるきっかけ?みたいなのがあれば決まるんだろけど、方向性みたいなのに悩むんよね。」
「人の役に立つことができたらいいけど…どうすればいいか分かんねぇ。」
すると、サクラは桃李をじっと見つめ…
「私、パリに行ってもいいかな…?」
桃李は怪訝そうに眉をひそめる。
「なんで俺に聞くんだよ。もしかして、急に弱気になった?もしかして、ついてきて欲しいの?」
「そうじゃなくてさ…桃李のことが心配なんだよ。」
その言葉に桃李は目を丸くし、次いで苦笑いを浮かべた。
「なんでお前に心配されなきゃいけないんだよ。俺には母ちゃんもいるし、パリだろうがどこだろうが行けばいいだろ。」
サクラは唇を少し尖らせ、呟いた。
「だから違うってば!(…桃李のバカ)」
桃李は半ば笑いながら言葉を返す。
「ってかさ、なんで誘った?フランス語なんて俺分かんねぇし。やっぱ、サクラ1人で行くのが怖いんだろ?」
「だから、そうじゃないって!!」
サクラは少し顔を赤らめながら、怒った声を出す。
「「Mon petit bêta ! Ne t'inquiète pas, tout va bien aller.」
(モン・プティ・ベータ!心配しないで、きっとうまくいくよ。)
「なんだそれ、意味わかんねーよ。」
「かゆっ、蚊に刺されたわ。」
時と共に辺りは、もう暗くなっていた。
桃李が足を掻きながらぼやくと、サクラはため息をつきながら、
「帰ろっか。」
二人が公園を後にしようとしたそのとき、桃李がふと夜空を見上げた。
「…なんだあれ。」
そこには、桃色小さな星の様なの光が動物園の方向へ流れていくのが見えた。光は静かに尾を引き、空の闇に溶け込んでいく。
「流れ星?」
サクラが足を止め、夜空を見上げる。
だが、桃李はその光をじっと見つめたまま、不安げな表情を崩さない。
「…何かがおかしい。」
桃李の胸に沸き上がる不安。
それは、この先に待ち受ける異変の前触れだったのかもしれない。
4話終わり
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