6話:傷み始めたイチゴ
↓↓これまでのあらすじ↓↓
ナレーション:
街がオニペイに染まり始めてから、一週間が過ぎた。
便利さと引き換えに、街の温もりは薄れ、人々の目から輝きが消え、かつての活気は影を潜めていった──。
商店街・夕暮れ
シャッターが下りた店が目立つ商店街。
桃李は歩きながら、かつて賑やかだった通りが静まり返っていることに胸を痛めていた。
桃李(心の声)
(この街から、色が消えていく……。)
その時、懐かしい声が耳に届く。
おばあちゃん
「あら、モモくん。」
振り返ると、いつもの八百屋のおばあちゃんが、少し疲れた表情で立っていた。
桃李
「おばあちゃん!最近見ないと思ったら……どうしたの?」
おばあちゃん(微笑みながらも力なく)
「ごめんねぇ。もう店を閉めることにしたの。」
桃李(驚いて)
「えっ!? なんで!?」
八百屋のおばあちゃん
「オニペイで買い物する人が増えてねぇ。あたしの店なんか誰も来なくなっちゃったの。それに……私も楽な方がいいかなって。」
桃李
「……そんな。」
なんて返せば良いか言葉が見つからない。
おばあちゃんは、どこか諦めたような笑みを浮かべながら続けた。
八百屋のおばあちゃん
「みんなもう料理なんてめんどくさがってしないから、野菜も腐っていくばかりでねぇ……。
」
「なんだか悲しいけど、これも時代なのかしらね。」
桃李(声を震わせながら)
「そんな……。おばあちゃんの野菜、みんな大好きだったのに……。」
おばあちゃんは、裏から一箱のいちごを持ってきて、桃李に差し出した。
八百屋のおばあちゃん
「これ、お母さんと食べて?少し痛んでいるところもあるけど地元の農家さんが作ったとっても美味しいイチゴよ!」
桃李(受け取りながら)
「……ありがとうございます。でも、こんなの……悲しすぎますよ。」
おばあちゃんは言葉を返さず、ただ寂しそうに微笑んで去っていった。その背中が、小さく見えた。
帰り道・夜の公園
桃李は帰り道、公園のベンチに腰を下ろし、箱いっぱいのいちごを見つめながら思いにふけっていた。夜風が冷たく、周りには誰もいない。
桃李(独り言のように)
「……みんな、どうしてこんなに変わっちまったんだ……。」
いちごを一つ手に取るが、口に入れる気になれない。少し痛んだイチゴがこの街を物語っているようだった。
ふと後ろを振り返るとそこにはオニペイのバッジをつけた黒服の男が一人、スマートフォンに向かって話し込んでいる。
桃李はそっと近づき、物陰に隠れながら耳を澄ませた。
オニペイ配布員(小声で)
「……ええ、データの収集は順調です。はい、登録者の購買履歴も解析済みです。」
しばらく間が空き、電話の相手の声が漏れ聞こえることはないが、配布員の声は続く。
オニペイ配布員
「はい、コンバージョンレートは予想をはるかに上回っています。次のフェーズでは、オニペイのトークンを、IoTネットワークに接続し最適化を測ります。」
桃李(心の声)
(……IoTネットワーク?なんの話だ?)
配布員の声はますます低くなり、不気味さを増していく。
オニペイ配布員
「ええ……ターゲット層は完全に依存状態に移行しています。すべてのAPI接続が正常に稼働中……最終的なアルゴリズム調整も完了しました。」
桃李(心の声)
(……アルゴリズム?こいつら、何をしようとしてる?)
配布員は一度周囲を見回し、声を潜める。
オニペイ配布員
「はい、全てはNWOのシナリオ通りにです。ご安心ください。」
桃李はその言葉に一瞬息を飲む。
だが、その直後、
「おい、今日のプロモーションはどうだった?」
聞き覚えのある声が桃李の背後から迫ってきた。
配布員は慌てた様子で電話を切り、幹部の方を向き話を続ける。
オニペイ配布員
「は、はい!ターゲット層の登録率は予想を大幅に上回っています。オニペイは街全体に浸透しつつあります。」
幹部は満足げに頷き、口元に不気味な笑みを浮かべる。
オニペイ幹部
「よし、上出来だ。明日も頼むぞ……ギュフフ。」
その場に漂う不気味な空気を残しながら、幹部は配布員を引き連れて公園を後にする。
幹部たちが立ち去った後、桃李は静かにその場を抜け出し、公園のベンチに腰を下ろした。冷たい風が頬を撫でる中、聞いた話を整理し始める。
桃李(心の声)
(……データ収集、コンバージョン?依存状態なんて言ってたよな?。これはやはり仕組まれた事なんだ!NWOのシナリオ通りってまだ序章ってことかよ……。)
ナレーション:
桃李の脳裏には、八百屋のおばあちゃんや金太郎の変化が頭をよぎる。
桃李(心の声)
(オニペイを使った人たちは、みんな変わり始めてる。それに、あの幹部の不気味な笑い……何か裏があるに違いない。)
桃李は拳を握りしめ、深く息を吸い込む。
桃李
「俺が調べないと、この街が完全におかしくなる……!」
6話おわり