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7話:甘い果肉

真夜中ー
時計は明日を迎えていた。


桃李は、教科書や工具が散らかった机の前に座りこんでいた。
電気をつけることすら忘れた薄暗い部屋には、ノートパソコンのブルーライトだけが灯っていた

桃李(独り言)
「オニペイのネガティブな口コミがどうして一つもないんだ……。」

彼の手はキーボードを激しく叩く。

検索エンジンに思いつくだけのキーワードを入力してみるものの、出てくるのはオニペイを肯定する記事ばかりだった。


「情報は塗り替えられているようだった。いくら検索しても、真実には辿り着けない。」

桃李(独り言)
「何も出てこないなら、もうこれしかない……。」

桃李は少し考え込み、決意を固める。


彼が選んだのは、危険なほどに興味をそそる道だった。公式サイトに自ら足を踏み入れることだ。

桃李はブラウザを開き、「オニペイ 登録」と検索。

すぐに、オニペイを運営する「オニウェイ」の公式サイトが表示される。

画面表示(オニウェイ)
こちらのサービスは、完全招待制です。会員様からの招待コードをお受け取りください。」

桃李
「招待制……だと?」

ページをじっと見つめ、眉を寄せる。

だが、その好奇心はもう止まらない。

桃李はスマホを手に取り、深夜だということすら気にかけず、おもむろに電話をかけた。



…(着信音)



「おーい、桃李!どうしたんだよ、こんな時間に。」



明るい声の、主は「金太郎」だった。


桃李
「お前に頼みがある。オニペイの招待コード、俺にも送ってくれないか?」


金太郎(今までにないほどテンションが高い声)
「はぁ!?ついに桃李もやる気になったのか!いいぜいいぜ、すぐ送るよ!



桃李(心の声)
(こんな夜中なのに、このテンション……やっぱり、あいつずっとオニペイを?)

着信音:「ピロン」
すぐさま、LINEに招待コードが届く。



金太郎(メッセージ)
「これでお前もリッチな仲間入りだな!😁💰


桃李
「これが噂の『オニペイ』か……。」

彼は画面を見つめ、深呼吸をする。


桃李は招待コードを入力し、オニペイの公式サイトへアクセスする。

そこには下品な配色の派手な宣伝文句が並んでいた。

画面表示
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桃李
「……完全にヤバいだろ、これ。」

しかし桃李の心は、疑心暗鬼を超える興奮に覆われていた。

桃李(興奮した様子で)
「……よし、登録してみるか!」

適当な偽名と生年月日、住所やメールアドレスを使い登録を進めた。

桃李の脳裏は、悲劇のヒーローそのもの。
「悪に立ち向かう正義心」に潤っていた。




しかし、そこに立ちはだかったのは…


画面表示
『未成年の方は保護者の同意が必要です。』




桃李
「チッ……(舌打ち)」

ノートパソコンを激しく畳み、苛立ちを隠せない。

桃李(心の声)
(くそっ!なんなんだよ……俺が調べないと、この街がどうにかなっちまうのに。)



桃李は椅子を蹴り立ち上がり、窓際へ向かう。



カーテンを少し開き、夜空に浮かぶ満月をぼんやりと見つめる



桃李(心の声)
「……父さん。俺、こんな時どうすればいい?」


冷静さを取り戻すかのように、桃李は学習机の引き出しを開ける。

そして、奥から古いアルバムを取り出す。

アルバムには母の笑顔と幼い頃の桃李が写っていたが、そこに父の姿はなかった。


生後間もない、桃李。


若かりし母に抱かれている桃李。


祖父母や、母の姉家族に迎えられ
晴れ着を着て、お食い初めをしている桃李。


子供の日に着たであろう和風姿の桃李。


小学校の正門に立つ桃李。

何度見返しても父の存在は一切無かった。

「パタンッ…」

アルバムをそっと閉じる音が虚しく部屋に響いた。

桃李
「……父さんの写真、やっぱりどこにもないんだよな。」

何も出来なかった虚しさと、父へのを想いがさらに重なり、空虚な涙が目頭を熱くした。


(…コン、コンッ…)

桃李の部屋の外から、誰かがノックをした音が聞こえた。



「桃李?まだ起きてるの?」

桃李(驚き)
「!」

桃李は、アルバムを慌てて隠し、服の袖を強く引っ張り、目頭を拭った。

母(心配した様子で)
「まだ、勉強してたの…?無理は身体に毒よ?」

「入って良いかしら?」

扉を開け、母が笑顔で入ってくる。顔色は少し青白いが、優しさが溢れている。

桃李
「母さん……今起きたの?」


「今日、お医者さんでもらった薬が少し強かったみたいでね。…身体は、良くなったんだけど少し寝過ぎちゃったみたいなの!」

軽く手を振るように笑いながら、キッチンを指差す。


「それより、あのいちご、どうしたの?」

桃李
「ああ……八百屋のおばあちゃんが、店閉めるって。『最後だから』って、くれたんだ。よかったら、母さん食べて?」


「あなたに貰ったものなのに、私が食べたら悪いわ?」

桃李
「おばあちゃんは、母さんと食べてってさ」


「…そう。じゃぁ、せっかくだから一緒に食べない?」


桃李
「そうだね!おばあちゃんもそれが、本望かもね。」


「あらやだ、最後の言葉みたいに言わないで?」

桃李
「冗談抜きで、さ!」

桃李(おばあちゃんのマネをして)
「オニペイで買い物する人が増えてねぇ。あたしの店なんか誰も来なくなっちゃったの。それに……私も楽な方がいいかなって。」


「あの元気なおばあちゃんがそんな事言うわけないじゃない!桃李ったら(笑)」

「イチゴ洗ってくるから、キリのいいところでキッチンに来なさいね!」


桃李
(…確かに、あんな元気なおばあちゃんがオニペイなんかに負けちゃってるんだよな……。)

[深夜のキッチン]
小さなランプの光が、いちごを乗せた皿を照らしている。

母(元気な声で)
「ほら、食べなさい?こんな大きなイチゴがたくさん!」

母(心配した声で)
「売れ残るなんて、おばあちゃん注文し過ぎちゃったのかしら。まぁ良いわ? いただきましょ?」

桃李がいちごを一つ手に取り、ゆっくりと口に運ぶ。

桃李(驚いた声で)
「!!」

「母さん、これ凄く美味しい‼︎

「採れたてのいちごもいいけど、少し経ったいちごも、じっくり味がわかって良いね!母さんも、ほら食べて!!

母(笑顔で)
「あ!本当だ!!美味しい!」

そこには、純粋な親子の笑顔があった。




「案外、見えてるものだけが正解じゃないのかもしれないわね。」

静かに微笑む。


「表面的に判断するのは簡単だけど、本当のことって、表面だけじゃわからないものよ。」

その言葉に、一瞬戸惑いながらも何かを感じ取る桃李

母の言葉は哲学的でありながら、桃李の胸に深く響いた。

桃李(心の声)
(……オニペイも、表に見えるだけの情報じゃ全てがわからない。もっと、深く探る必要があるな…。)

母の微笑みと、甘いイチゴの後味を胸に、桃李は新たな決意を固める。

街の真実を、この手で暴き出すためにー

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