『貴方の色はなんですか?』第1話
突然ですが、僕。剣崎冬馬は、交通事故で二十八年の人生に幕を下ろしたわけですが。
――その日の死者のうち、無差別に抽出した五十四名の方々に〝蘇生〟を懸けて〝殺し合い〟を行わせる地獄の閻魔様もびっくりなデスゲームへと招待されることになりました。
そのルールは単純です。
参加者は前述の通り五十四名。ゲーム開始時、うち九名に〝色〟というものが与えられます。色にはそれぞれ特別な能力が付いておりゲームを有利に進めることが出来るだけでなく、蘇生に繋がるクリア条件にもなっているので、勝ちたいと思う人は絶対に手にしておきたいものでした。
ここで、このゲームの趣旨を先にお伝えします。
九つの色、全てを集めたたった一人が〝蘇生〟をもぎ取れる殺し合い。
初期段階での色の保有は、それだけで一歩他の参加者より有利に立ち回れる要素となるわけでした。
いくつか制約があります。
まず、参加者はお互いの色を知ることが出来ない。
そして、色を奪う方法は殺害による奪取のみ。
もしも、色を持たない参加者=色なしを殺害してしまった場合、加害者には重いペナルティが課せられる。
よって、慎重に見極めて手を下す必要がある。
その手段は二通りに絞られます。
暗殺 or 決闘です。
まずは暗殺。
こちらはいつでも発動させることが可能です。対象を定め、発動から制限時間以内に成功させなければ例えその後に殺めたとしても失敗。色を奪うことは行われません。
連続して発動させることも出来ないのでここぞという場面で使う必要がありますが、文字通り、ふいを突いた襲撃が行えるのは利点ですね。
対して決闘。
こちらはお互いの了承が必要であり、お互いの同意によって引き分けにすることも可能です。発動が宣誓という形になり、定められた範囲内での殺し合いが前提となります。
また、この場合、ペナルティは申請者のみに適用し、受諾者は仮に申請者が色なしであってもペナルティが発生しないという特徴があります。
もちろん、色を持つ相手であれば、申請者も受諾者も奪取することが可能です。
正当防衛が通用するのも決闘の良いところではありますが、お互いの了承が必要不可欠なので正々堂々といった立ち振る舞いが求められるのはいささか難点かもしれません。
何はともあれ、以上、この二種類の攻撃手段を使いこなし、誰よりも早く色を集めてゲームクリアをする。
それがこの箱庭世界で行われる、〝蘇生を懸けて色を奪い合うデスゲーム〟の大まかなルールだと主催者は語りました。
――――――。
――――。
――。
「貴方の色はなんですか?」
それはゲーム開始から、三日目の朝のこと。
突然、彼女は僕に話しかけてきました。
「え……?」
「私、赤色を持っているんです」
「……な、なにを考えているんですか……?」
彼女の名前は深月詩織。当時の僕は知りもしませんが、のちに、彼女は、「自殺したんです」と後ろめたそうに前世のことを打ち明けてくれます。
このデスゲームの都合上、自身の色を明かすという行為は非常にリスキーで、蘇生には繋がらないこと。
意味不明としか思えなかったこの言動も、いま振り返れば、だからこそと言えるのか――。
なんにせよ、初対面で彼女が取ったこの行動は、当時の僕からしてかなり不可解で、まるで理解の出来ないものでした。
「……やめておいたほうがいいですよ。ここは治安がだいぶ悪いですから」
「ふふ、そうなのかな」
「聞かなかったことにします」
「じゃあ、二人だけの秘密ですね」
「……それは、距離の詰め方が不気味ですよ」
彼女は不思議な方でした。しかしそうして、短く言葉を交わしていくにつれて、だんだんと、見えてくる人となりもあったんです。
彼女は戦わない人だ。
きっと、彼女は生き返りたいと思っていない。
それは、僕も同じではあるのですが。
……しかし、彼女と僕は決定的に違う立場にありました。
幸か不幸か、僕は色なしの状態でゲームをスタートすることで、デスゲームの中心から意図的に外れることが出来ています。結果としてこの街の郊外で、ひっそりと釣りをしていたりするわけです。
だけど、彼女は色を持っていた。
それは、命のやり取りから逃れられないことを意味しています。
ひどく残酷なことです。他の人からしてみれば、あまりにも羨ましいその色が、彼女にとってはただただ疎ましいものだった。
それ故の、行動だった。
「私、コミュニケーションが苦手なんです」
「僕も得意ではないですよ」
「すぐ、敬語を外しちゃう」
「……まあ、楽に話してください」
「お互い自己紹介しませんか?」
「はい。僕は剣崎冬馬と言います」
「私は深月詩織です。剣崎さんって、雰囲気が先生みたいですね」
「初めて言われましたけど」
「先生、って呼んでもいい?」
「困ります」
「先生」
「話を聞いてください」
――これが、僕と彼女の初めての出会いでした。
デスゲームでありながら世界の片隅でひっそりと始める、他愛もないようなひと時。
そして。
「いつか私たちも決断を強いられるのかな」
「まあ、このまま続けることはきっと不可能なんでしょうから」
そう遠くない未来において、必ず迎えなければいけない残酷な二つの選択肢から、目を逸らしている僕らの話。
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