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武器兵器調達課#136:  「ユーロファイター タイフーン」

今回は「ユーロファイター タイフーン」について見ていきましょう。

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「ユーロファイター タイフーン」: ヨーロッパの4か国(イギリス、ドイツ、イタリア、スペイン)が共同で開発した、高性能な多目的戦闘機です。その優れた機動性と高度なアビオニクスにより、現代の航空戦において重要な役割を果たしています。

開発の経緯

ユーロファイター計画は、1980年代に始まりました。当時、各国がそれぞれ独自に次世代戦闘機の開発を進めていましたが、コストや技術的な課題から、共同開発へと方向転換しました。当初は5か国(フランスも含む)が参加していましたが、フランスは独自の戦闘機開発(後のラファール)を選択し、4か国での共同開発となりました。

  • 目的: 将来の航空戦において、旧ワルシャワ条約機構の脅威に対抗できる高性能戦闘機を開発すること。特に、MiG-29やSu-27といったソ連製の高性能戦闘機に対抗することを意識していました。

  • 開発コンソーシアム: ユーロファイター GmbH という企業体が設立され、機体の製造はユーロファイター・ケーザ(現エアバス・ディフェンス・アンド・スペース)、エンジンはユーロジェット・ターボ GmbH が担当しました。

  • 初飛行: 試作機が1994年に初飛行し、その後、各国での試験を経て、2003年に最初の量産型が各空軍に引き渡されました。

設計の特徴

ユーロファイター タイフーンは、以下のような特徴を持つ先進的な設計が採用されています。

  • デルタ翼とカナード: 機体は、大きなデルタ翼とカナード(前翼)を持つ空力的に洗練された形状をしています。これにより、高い機動性と優れた操縦性を実現しています。特に、高G(重力加速度)環境下での旋回性能や、低速時の安定性に優れています。

  • 軽量構造: 機体には、炭素繊維複合材やアルミニウム・リチウム合金などの軽量素材が多用されています。これにより、高い強度を保ちながら軽量化を実現し、運動性能の向上に貢献しています。

  • スーパークルーズ能力: エンジン推力が大きく、アフターバーナーを使用せずに音速を超えるスーパークルーズ飛行が可能です。これにより、作戦行動範囲の拡大や、目標への迅速な到達が可能になります。

  • ステルス性への配慮: 完全なステルス戦闘機ではありませんが、レーダー反射断面積(RCS)を低減する設計が取り入れられています。機体の形状や素材、レーダー波吸収素材(RAM)の使用などにより、敵レーダーからの探知を困難にしています。

性能

ユーロファイター タイフーンは、非常に高い性能を誇ります。

  • 最大速度: マッハ2.0以上(高度11,000m以上)

  • スーパークルーズ速度: マッハ1.5以上

  • 戦闘行動半径: 1,390km以上

  • 最大上昇限度: 16,765m

  • 最大離陸重量: 23,500kg

  • エンジン: ユーロジェット EJ200 ターボファンエンジン × 2基 (推力:ドライ 60kN、アフターバーナー時 90kN)

  • 推力重量比: 約1.15 (燃料搭載量50%時)

兵装

ユーロファイター タイフーンは、多様な兵装を搭載可能です。空対空戦闘、空対地攻撃、対艦攻撃など、幅広い任務に対応できます。

  • 機関砲: 27mm マウザー BK-27 機関砲 × 1門(右翼付け根)

  • 空対空ミサイル:

    • AIM-9 サイドワインダー

    • AIM-132 ASRAAM

    • AIM-120 AMRAAM

    • ミーティア

  • 空対地ミサイル/爆弾:

    • ペイブウェイシリーズ レーザー誘導爆弾

    • JDAM GPS誘導爆弾

    • ストーム・シャドウ/SCALP EG 巡航ミサイル

    • トーラスKEP 350 巡航ミサイル

    • ブリムストーン 対地ミサイル

  • 対艦ミサイル:

    • AGM-84 ハープーン

    • マーテ

アビオニクスとシステム

ユーロファイター タイフーンは、高度なアビオニクスとシステムを搭載しており、パイロットの負担を軽減し、高い状況認識能力を提供します。

  • レーダー: ECR 90 キャプター レーダー(機械式走査)または、最新の E-SCAN レーダー(電子走査式)を搭載。E-SCAN レーダーは、より広い探知範囲、同時目標追尾能力、対電子妨害能力などに優れています。

  • DASS (防御支援サブシステム): 敵のレーダーやミサイルを探知・識別し、自動的にチャフやフレアを発射するなど、自己防御機能を提供します。

  • パイロット補助システム: 音声入力操縦システム(DVI)、ヘルメット装着型表示装置(HMSS)など、パイロットの操縦負荷を軽減し、状況認識能力を高めるシステムが搭載されています。

  • データリンク: リンク 16 などのデータリンクシステムにより、味方機や地上管制との間で戦術情報を共有できます。

運用状況

ユーロファイター タイフーンは、開発国の空軍(イギリス空軍、ドイツ空軍、イタリア空軍、スペイン空軍)をはじめ、オーストリア、サウジアラビア、オマーン、クウェート、カタールなど、多くの国で採用されています。

  • 実戦経験: リビア内戦、シリア内戦、イラクでのISIL掃討作戦など、多くの実戦に参加しており、高い作戦遂行能力を示しています。

  • 多目的運用: 当初は制空戦闘機としての性格が強かったですが、近年では空対地攻撃能力も強化され、多目的戦闘機として運用されています。

  • 継続的な能力向上: ユーロファイター タイフーンは、現在も継続的に能力向上が図られています。E-SCAN レーダーへの換装、新型ミサイルの統合、電子戦能力の強化など、常に最新の技術を取り入れ、進化を続けています。

派生型

ユーロファイター タイフーンには、いくつかの派生型が存在します。

  • トランシェ (Tranche): 開発・製造時期による分類で、トランシェ1、トランシェ2、トランシェ3A、トランシェ3B などがあります。トランシェが進むにつれて、アビオニクスや兵装搭載能力が向上しています。

  • タイフーンFGR4 (イギリス空軍): イギリス空軍向けの多目的能力向上型。

  • EF-2000 (ドイツ空軍、スペイン空軍、イタリア空軍): 各空軍の呼称。

  • 輸出仕様: 各国向けに仕様が異なる輸出仕様機も存在します。

長所と短所

長所:

  • 優れた機動性: デルタ翼とカナードによる高い旋回性能と運動性。

  • スーパークルーズ能力: アフターバーナーなしでの超音速飛行。

  • 多目的性: 制空、空対地、対艦攻撃など、多様な任務に対応可能。

  • 継続的な能力向上: 常に最新技術を取り入れ、進化を続けるポテンシャル。

短所:

  • 開発コスト: 共同開発のため、開発コストが膨大になった。

  • 調達コスト: 高性能機のため、調達コストが高い。

  • ステルス性: 完全なステルス戦闘機ではない。

まとめ

ユーロファイター タイフーンは、ヨーロッパが誇る高性能な多目的戦闘機であり、その優れた機動性と先進的なアビオニクスにより、現代の航空戦において重要な役割を果たしています。今後も継続的な能力向上が予定されており、長年にわたり各国の空軍の主力戦闘機として活躍することが期待されます。

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お値段は?

妙に高いのでした~

ユーロファイター タイフーンの価格は、購入する国や契約内容によって異なります。例えば、2009年に英国、ドイツ、イタリア、スペインの4ヶ国が112機のトランシェ3を共同調達した際の契約金額は約127億ドルで、1機あたりの導入費用は約1億1,300万ドル(約116億円)でした。

また、オーストリアがトランシェ1を15機導入した際の1機あたりの導入費用は約1.2億ドル(約124億円)、サウジアラビアがトランシェ2を72機導入した際の1機あたりの導入費用は約2億ドル(約207億円)、クウェートがトランシェ3を28機導入した際の1機あたりの導入費用は約3.2億ドル(約330億円)でした。

価格は契約内容や付随するサービス(訓練、弾薬、保守部品など)によって大きく変動するということですかね~

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