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次期季節予測システムJMA/MRI-CPS3の降水量バイアス

はじめに

前回の記事では、令和4年2月10日(木)から正式に運用開始される次期季節予測システムJMA/MRI-CPS3(配信資料に関する技術情報配信資料に関するお知らせ)の海面水温(SST)バイアスを調べました。この記事では、降水量のバイアスについて調べた結果をご紹介します。

季節予報において熱帯域の降水は、潜熱加熱による熱源として働き、熱帯域の大気循環や、さらに中高緯度域の大気循環へと影響するという点で、よく着目されます。

データの描画には注意しておりますが、誤りがあっても責任を負いかねます。また、私は気象庁関係者ではありませんし、当然ながら気象庁の公式見解ではないことを、あらかじめお断りしておきます。正式な特性の評価については、公式に問い合わせたわけではないですが、前回モデル更新時と同じであれば、来年度の季節予報研修テキストで解説がなされると思われます。

データ

CPS3の評価には、気象業務支援センターから提供されている6か月アンサンブル数値予報モデル再予報GPV(1.25度全球域)を使用しました。1991年から2020年までの30年分の再予報データが含まれており、1月につき2初期日が含まれており、1初期日のアンサンブル数は5メンバです。

比較に用いる降水量データは2種類を用いました。一つ目はGPCP Version 2.3です。GPCPはモデルの降水量の評価によく使われるデータで、衛星搭載マイクロ波放射計などの様々な衛星・地上観測から得られた降水量を統合したデータです。衛星ベースのデータは、衛星が通過した瞬間の降水量しか観測できず、放射輝度から降水量をリトリーブ(推定)する際に不確実性を含みます。このデータは2.5°格子ですが、CPS3やJRA-3Qと同じ1.25°格子へと内挿して使用しています。

もう一つのデータとして、JRA-3Qの2次元物理量平均値に含まれる降水量を使用しました。JRA-3Qは再解析データであり、全球で値があることから、CPS3の予測の降水量偏差を計算するときの平年値に利用されていると考えられます。再解析データは、観測データを同化しているとはいえ、予測モデルの持つ降水量の特性の影響をかなり受けたデータと言えます。

手法

  1. 再予報GPVに含まれる各初期値(1年につき24初期日が30年分)について、日別の降水量から月別の降水量を計算した後、全5メンバのアンサンブル平均を求めます。

  2. 同じ月の2初期日x30年分を平均し、翌月からの3か月平均降水量を求めます。ここでは予報対象期間を4季節分、12-2月(DJF)・3-5月(MAM)・6-8月(JJA)・9-11月(SON)について示します。

結果・考察

図1-4に4季節(DJF, MAM, JJA, SON)それぞれについて、降水量とデータ間の差を示します。4季節ともに特徴は似ているので、ここでは図1のDJFについて着目します。

まず、参照データとするGPCP(図1(a))とJRA-3Q(図1(c))について見てみます。基本的な降水の空間パターンはどちらも同じですが、JRA-3Qのほうが全体的に降水量が多いです。両者の差について図1(b)を見てみると、降水量が多い地域でJRA-3Qのほうが多い傾向にあります。このことは一般にGPCPと比べて再解析データの降水量は多い傾向にある(Sun et al. 2017, Figure 10)ことと整合的です。

次に、CPS3の予測について見てみます。図1(e)をみると、大まかな降水量の分布はGPCPやJRA-3Qと同じですが、降水量の多さについてはGPCPよりもJRA-3Qのほうに近いです。数値モデルで計算されたJRA-3Qの降水量に近いことは理解しやすいと思います。他にはニューギニア島やアンデス山脈などで強い降水が見られています。

降水量の生の値を見ただけだと差が分かりにくいため、対JRA-3Q(図1(d))や対GPCP(図1(f))で比較した図を見ています。参照データによる差があるため定量的な考察は難しいですが、降水量の多い場所や少ない場所が2枚の図で共通している部分について見ていきます。熱帯域のうち、ITCZやSPCZなど降水が多い地域ではCPS3はより多くの雨が降っている一方、ITCZとSPCZの間の降水が少ない地域では雨が少ない傾向にあります。

平成27年度季節予報研修テキストの第1.4.5図に示されたCPS2とGPCPの差を見ると、ITCZやSPCZで降水量が多い傾向は見られるものの、降水量が多い地域と少ない地域がまだらでより複雑なパターンをしています。全体的に多雨傾向のCPS3とはやや特性が異なるようです。

図1 DJF平均の降水量(mm/day)とデータ間の降水量の差。左列のパネルは (a) GPCP (c) JRA-3Q (e) CPS3 (リードタイム1か月) の降水量を表す。右列のパネルは (b) JRA-3Q と GPCP の差 (d) CPS3 と JRA-3Qの差 (e) CPS3 と GPCP の差を表す。
図2 図1と同じ、但しMAMについて
図3 図1と同じ、但しJJAについて
図4 図1と同じ、但しSONについて

まとめ

この記事では、気象庁の次期季節予測システムCPS3の再予報データを用いてGPCPとJRA-3Qに対する降水量の差を描画しました。GPCPよりもJRA-3Qのほうが全体的に降水量が多い傾向のため定量的な評価は難しいですが、CPS3はITCZやSPCZなどの降水量が多い地域で多雨傾向にあることが分かりました。

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