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【掌編】胡蝶蘭は中間管理職(第4話)

「さむっ・・・」

呑んで帰るのはいいのだが、代行さんが僕を乗せずに車だけ運んで行ったのは、なんの冗談なんだろう。

いずれ気づいて引き返してくるだろうが、にしても寒すぎる。

今夜も星がとても綺麗で、凍てつく寒さの下に放置されたのは無意味なことではなく、

『この美しい世界をちゃんと見なさい』

どこかの神様がそう教えてくれているのだと思うのは、センチすぎるだろうか。

「にゃあ」

振り向くと、閉店後のお店の入り口の前にネコが丸くなって、啼いた。

『そのとおりよ』

そう告げているような不思議な表情をしている。

神秘性は真実よりも人を惹きつけるものだ。

すると、どこからともなく車のヘッドライトの明かりが僕の顔を照らし、うずくまっていたネコも、目を細め、恨めしそうに見上げた。

「あ!すみません。忘れてました(笑)」

やっと代行さんが忘れ物を(僕を!)取りに来てくれた。

「車、きたよ」と、あのネコは言いたかっただけかもしれないが、しつこいようだが、別に真実など知らなくても生きていける。

希望とは、絶望的なほどの無知であり、何の根拠も無い未来への神秘であり、生きるためには不可欠のもので、どんな苦しい状況でも、ただそれだけあれば生きていけるものだ。

【つづく】


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