放駒部屋の歴史
令和3年12月24日に行われた理事会にて、停年を翌月に控えた若嶋津の12代二所ノ関は、稀勢の里の16代荒磯と名跡を交換し、荒磯部屋が新二所ノ関部屋に。旧二所ノ関の母体は部屋付きの放駒が受け継ぎ、新たに放駒部屋となることが決定(いずれも4年初場所から)。
去る初場所では、島津海が幕下2枚目で勝ち越し、早くも新部屋第1号の関取が誕生し、幸先の良いスタートを切ったと言えるだろう。
今回は、新放駒部屋と直接の繋がりはないものの、懐かしの部屋シリーズということで、平成25年2月に部屋を閉じ、芝田山部屋と合併した旧放駒部屋(元大関・魁傑)について書こうと思う。
部屋創設~花籠勢の吸収
元大関・魁傑の17代放駒は、引退からおよそ2年が経過した昭和56年2月1日付けで花籠部屋から独立して放駒部屋を創設。内弟子として移籍に同行したメンバーの中には、のちの横綱・大乃国(現芝田山 当時は幕下・大ノ国)がいた。
その後、大乃国は57年新十両→58年新入幕→59年には次期大関候補筆頭となり→60年秋場所には晴れて大関昇進を果たす。勢いづく新興部屋、ここで思いがけない出来事が…
60年末、金銭トラブル等の不祥事で廃業した12代花籠(横綱・輪島)の勢力を吸収、つまり独立元の所属力士・年寄・裏方等を一手に引き受けることとなったのだ。
最盛期
彼ら旧花籠勢の内、ベテランの三杉磯(現7代峰崎)は翌年中に引退するも、花乃湖(小結 のち13代花籠→退職)と花ノ国(幕内 現若者頭)は長く幕内で活躍し、駒不動も幕内1場所。他に花ノ藤、若ノ海、秀ノ花が十両昇進を果たしている。
昭和62年九州場所新横綱となった大乃国は、翌63年春場所、北勝海を相手に劇的な逆転優勝を飾るのだが、楽日1差での直接対決に持ち込むことが出来たのは、9日目に花乃湖があげた殊勲星あってこそ。「九重サンドイッチ作戦」の前にさんざん煮え湯を飲まされ続けた大乃国だが、この場所だけは例外だった。高齢新入幕・花ノ国の勝ち越し、秀ノ花の新十両昇進も含め、放駒部屋史上最高の場所と評しても過言ではないだろう。
衰退と渦中の理事長就任
やがて大乃国無念の引退(平成3年名古屋)。長く頑張っていた花ノ国もついに衰え、駒不動は強引な取り口がたたり、大成叶わずに土俵を去っていった(平成6~7年頃)。
こうして一旦関取は途絶えたが、師匠はまだまだ若く、所属力士も多いことから近々第二のピークは来るはず・・・
そう思っていたのに、よもや次の関取が21世紀に入るまで出ないとは。13年初場所の駒光(石出→駿傑)は、放駒部屋として駒不動以来、実に12年ぶりに生まれた新十両。そして、放駒部屋に入門した(花籠部屋への所属歴がない)力士として最初で最後の関取であった。
駿傑が平成20年に辞めて以降また関取不在となり、放駒の存在感は同年9月に就任した協会理事長としての舵取りにおいて表れはじめる。言わずとしれた八百長事件での強硬な手段には毀誉褒貶あるものの、この人以外にはなしえない辣腕ぶりであったと言えよう。
部屋閉鎖とその後
結局、師匠としては25年の部屋閉鎖および停年退職時までに新たな関取を出すこと能わず、冒頭記した通り、所属力士たちは芝田山部屋へ。かつて独立元の花籠勢をまるごと引き入れた放駒が、今度は自らの弟子を独立していった一番弟子へと託す。そのようにして一代限りの放駒部屋は終わった。
退職後の26年初場所、魁が新十両として土俵に上がる姿を見届けた後、5月に魁傑の元放駒は急逝。突然の報せに涙を流した若乃島が俄然奮起してこの場所を勝ち越し、初土俵から14年目でのスロー新十両を決めたシーンは何とも忘れがたい。
令和元年、現役力士としては旧放駒部屋最古参にあたる翔傑が通算1000回連続出場を達成。45歳となった現在も記録を伸ばし続け、2年春場所時点で1113回&160場所連続の皆勤が続く。
同様に34歳魁も初土俵以来休場なく110場所到達、同年生まれの龍勢旺も106場所で全休は2回だけ。
歿後8年を迎える今も、先代放駒親方の教えは遺弟子たちに脈々と受け継がれている。
なお、令和3年4月には、現役引退後、放駒部屋から独立していた7代峰崎が停年を機に部屋を閉鎖し、自身と所属力士が芝田山部屋へ移籍することを発表(部屋付親方や裏方の一部は高田川部屋、西岩部屋に分散)。
芝田山の花籠部屋入門で出会い、放駒部屋創設によって別れ、花籠部屋吸収によって再会、峰崎部屋創設によってまた別れた両者が、およそ30年後に再合流を果たしたのだから、何とも数奇な縁と言うべきか。
ともあれ、大ノ海の花籠部屋に入門した力士・年寄としては最後の1人(協会員としては呼出・克之が最後)となる芝田山のもと、協力しあって次代を担う後進を輩出してくれることを願いたい。
参考資料
小池謙一「年寄名跡の代々」放駒代々の巻 『相撲』平成元年12月号
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