タイトル作者【ペグ】タイトル【黒崎優斗殺人事件】

・タイトル作者【ペグ】
・タイトル【黒崎優斗殺人事件】


・番号【1】・文章作者【なかとー】

扉を開け、入り口から真っ直ぐ伸びる赤い絨毯の先を見る。玉座には、1人の男が、うなだれて座っていた。

普段と違う弱々しい姿に、あわてて近寄る。玉座への階段あたりで、ふと、赤い絨毯がより一層赤黒く染まっていることに気付く。

「国王!」

異常に思い、声をかけたが返事はない。椅子に座る国王、ジョン・万次郎からは生気を感じない。

「国王!」

再び声をかけるが、返事がない。瞬間、悟ってしまう。死んでいる。

そして、これは、国王ですらない。

「誰か!誰かおらぬか!」

大臣、シューベルバッハ・佐々木は、玉座に座る黒崎優斗の死体を前に、悲鳴にも似た声を上げた。

・番号【2】・文章作者【きくぞう】

「ボーーーッッツ!!!!」

真っ二つに勢い良く原稿用紙を引き裂き、女が叫んだ。3ヶ月間もの時間をかけて書き上げた作品を引き裂かれ、なかとーは愕然とする。

「ボツボツボーーッツ!!こんな小説、読めるかあ!!」

宙に舞う原稿用紙の中、鬼の形相で女が新米小説家であるなかとーを睨み付けた。

彼女の名はペグ。ペン1本で次々と名作を産み出し、奇跡の右手を持つと言われる大文豪家『黒崎優斗』を、まだ彼が無名だった頃に発掘し育て上げたと言われる敏腕編集者だ。

膝をつき、うなだれるなかとーにペグは残る原稿用紙を叩きつけた。

「大体ねえ、キャラクターにインパクトが無いのよ!ジョン万次郎だかシューベルバッハ佐々木だか知らないけど変な名前にすればウケるだろうって魂胆が見え見え!安直!甘過ぎ!キャラクターはねえ、躍動感なのよ!バッ!シュッ!ボン!なのよ!分かる?!」

身振り手振りを交えながら早口でまくし立てるペグに思わずたじろぐなかとー。

「それとストーリー!タイトルが『黒崎優斗殺人事件』なのに冒頭でいきなり殺してどうするの?!もっとためてためてあっと驚く展開からのドカーン!!よ!わかる?読者はねえ、想像もつかないような展開を求めてるのよ!シャシャシャ~からの~ドカーン!!よ!」

言っている意味を全く理解できなかったなかとーだが、とりあえずこの場をやり過ごすために適当な相づちを打つ。彼の悪い癖である。

「ったく…。『黒崎優斗殺人事件』だなんて大層なタイトルつけちゃって。中身がこれじゃあね。名前負けしてるのよ。あんたなんてねえ、彼の足元にも…」

そう言いかけてペグは口を閉じた。なかとーが恐ろしい殺気を発しながら、凄い形相で睨み付けていたからだ。

「な、なによアンタ。私に文句でも…」
「俺は小説王になる!!」
「はあえ?」

いきなりの突拍子もないなかとーの言葉に、ペグは気の抜けた声を出した。

「あ、あんたねえ、自分が何を言ってるのか分かってるの?小説王とは小説家の頂点の称号。それはすなわち、大文豪家である黒崎優斗を越えると言うことよ?」
「俺は小説王になる!!」
「ちょっと聞いてる?」
「俺は小説王になる!!」
「駄目だこりゃ」
「ホッホッホ、素晴らしいではないですか」

その時、部屋に一人の声がこだました。

週刊『ディアゴスティーミ』編集長、ヤマである。ニコニコと七福神のような満面の笑顔を浮かべながら、ヤマはなかとーのもとへやってきた。

「キミ、名前は?」

なかとーは答える。

「俺は小説王になる!」

・番号【3】・文章作者【ヤマ】

「ちょっと、聞いてるかな?」
「俺は小説王になる!」
「ちょっと…聞いて…」
「小説王に、俺は、なる!!」
「駄目だこりゃ」
「ホホーウ、面白いじゃないか」

その時、1人の声が響いた!

月刊「ラーメン大好き!」編集長のキックZONEだ!

「キミ、名前は?」

「俺は!…なかとーです」

そこは返事するんかい!
とペグもヤマも思ったが空気を読んで言わなかった。

「よろしく、なかとー君。これから俺がキミを黒崎優斗より有名な小説家にしてあげよう」

ペグがキックZONEへ尋ねる。

「本当に出来ると思っているんですか?
相手はあの黒崎優斗ですよ!?」

「出来るさ…」

キックZONEはニヤリと笑った。

「じゃあ…ちょっと屋上へ行こうか…」

そう言うとキックZONEは先に屋上へ向かった。

ペグは心配そうだ。

ヤマは出番を奪われて軽い放心状態である。

そんな2人を尻目になかとーは部屋を出た。

・番号【4】・文章作者【ペグ】

屋上に着いた途端、キックZONEはなかとーに笑顔で詰め寄った。

「なかとーさあん?僕はねぇ、怒ってるんですよ。怒り心頭ですよ。小説と俺どっちが大事なの?俺だよね?そうだよね?ね?ね?」

「え…あの、僕と知り合いでしたっけ?」

「酷い!酷すぎる!!それ長年の友に言う台詞ですか!?なかとーはほんっとーに血も涙もない人間ですよ。俺がどれだけなかとーを思おうがこのザマですよ。なかとーは俺の若い頃にそっくりですよ、ええ。俺はなかとーに同じ道を歩んで欲しくないわけ、わかる!?なかとーさんの為を思って言ってるんですよ。なかとーさん!?!?聞いてます!?!?!?なかとーさん!?!?!?」

ドスっ!

鈍い音が響き渡る。次の瞬間、キックZONEがドサっと地面に倒れ込んだ。

キックZONEの腹にナイフが刺さっている。

なかとーは肩で息をしている。

「友達…?友達とは…?ったく、ごちゃごちゃうるせーやつだ」

感情的になりそうになった所で、なかとーは冷静さを保とうと深く息を吐いて眼鏡をクイっと上げる。

「クイッククイックスロー…」

小さな声で呟きながら、なかとーはキックZONEの死体隠蔽に取り掛かった。

・番号【5】・文章作者【なかとー】

まずはここから死体を動かさなければと、なかとーはキックZONEを持ち上げようとする。

重い。重すぎる。

持ち上げることは諦め、両足を持って引き摺るようにして移動させる。顔面が地面に擦り付けられているが、気にしない。

ああ、ちくしょう、刺した場所や顔面からの血痕が伸びてしまった。あとで拭いておかなければ。

キックZONEを引きずりながら、その先を考える。これ、どこに捨てよう。いや、捨てていいのか?燃やしたり溶かしたりした方が良いか?そもそもアリバイ作りとかもしないといけないのでは?くそっ、やることが、やることが多すぎる…っ!

こうなったら、あれを使うしかない…!こんな場所で使うなんてあまりにも勿体無いが、そうも言ってられない。ちくしょう、もっと良い使い道があったはずなのに…

そう思いながらなかとーは、

・番号【6】・文章作者【きくぞう】

「ボーーーッッツ!!!!」

真っ二つに勢い良く原稿用紙を引き裂き、女が叫んだ。あれから構想を練り直し半年もの時間をかけて書き上げた作品を引き裂かれ、なかとーは愕然とする。

「ボツボツボーーッツ!!こんな小説、読めるかあ!!」

宙に舞う原稿用紙の中、鬼の形相で女が未だにデビュー出来ないなかとーを睨み付けた。

彼女の名はペグ。夢で見た物語を具現化し次々と名作を産み出す、あのドリームキングと言われる大文豪家『黒崎優斗』を、まだ彼が漫画喫茶でアルバイトしていた頃に発掘し育て上げたと言われる敏腕編集者だ。

膝をつき、うなだれるなかとーにペグは残る原稿用紙を叩きつけた。

「大体ねえ、アリバイに無理がありすぎなのよ!ミステリーはアリバイが全て!説得力が無いアリバイは読者が白けるわ!後先考えずに散々やらかして『こうなったらアレを使うしか無い』とか次の人に丸投げするとか、最初から何も考えてないのが見え見え!安直!甘過ぎ!ミステリーはねえ、構成力なのよ!ピャッ!ピュッ!ピョッなのよ!分かる?!」

身振り手振りを交えながら早口でまくし立てるペグに思わずたじろぐなかとー。

「それとキャラクター名!タイトルが『黒崎優斗殺人事件』なのに、死んでるの『キックZONE』!誰?誰なの?黒崎優斗はどこに行ったのよ!残りこれを含めて後3回、どうやってエンディングまで持っていくわけ?!AD達はねえ、想像もつかないようなエンディングを求めてるのよ!ジャジャジャ~ン!からの~ボカーン!!なのよ!」

言っている意味を全く理解できなかったなかとーだが、とりあえずこの場をやり過ごすために適当な相づちを打つ。彼の悪い癖である。

「ったく…。『黒崎優斗殺人事件』だなんて大層なタイトルつけちゃって。中身がこれじゃあね。名前負けしてるのよ。あんたなんてねえ、彼の足元にも…」

そう言いかけてペグは口を閉じた。なかとーが恐ろしい殺気を発しながら、物凄い形相で睨み付けていたからだ。

「な、なによアンタ。私に文句でも…」
「俺は小説王になる!!」
「はあえ?」

いきなりの突拍子もないなかとーの言葉に、ペグは気の抜けた声を出した。

「あ、あんたねえ、自分が何を言ってるのか分かってるの?大体小説王になるとか言っといて、あんたまだ1つも小説を書き上げて無いじゃない!」
「俺は小説王になる!!」
「ちょっと聞いてる?」
「俺は小説王になる!!」
「駄目だこりゃ」
「ホッホッホ、素晴らしいではないですか」

その時、部屋に一人の声がこだました。

週刊『新・ディアゴスティーミ』編集長、ヤマである。ニコニコと福の神のような満面の笑顔を浮かべながら、ヤマはなかとーのもとへやってきた。

「キミ、名前は?」

なかとーは答える。

「俺は小説王になる!」

・番号【7】・文章作者【ヤマ】

「小説王になりたいんだね。」

ヤマが尋ねる。

「俺は、小説王になる!」

なかとーが一際大きい声で叫ぶ

「わかった。キミにある人を紹介しよう。着いてきなさい。」

ヤマはなかとーを連れ、熱海の奥座敷と言われる[ピピの山ホテル]へ向かった。

「ここにいるはずだが…あっ、いたいた。やぁ、待たせたね。」

ロビーに着くなりヤマは辺りを見渡し、ある人物へ向かった。

「あ、あなたは…黒崎優斗!」

本物の黒崎優斗がそこにいた。

「キミがなかとー君かい?ちょっとボクも今行き詰まっていてね。2.3日ここで過ごしてお互いのアイデアを出し合ってみないか?」

なかとーとしては願ったりだが黒崎優斗ほどの人物と突然繋がるなんてありえない。
何か裏があるに違いないとなかとーは少し身構える。

「そんなに警戒しなくてもいいよ。ある人から面白いヤツがいるって聞いたからちょっと話をしてみたいと思ったんだ。
マスシン君は知っているだろう?彼から聞いたのさ。
しかもキミはボクを超えるって言うじゃないか。とても気になってね。」

黒崎優斗はそう言うとなかとーの肩に手を回し続けて言った。

「それに、キミにとっても悪くない話のはずだ。滞在費はマスシン君からもらっているよ。何も気にすることはない。」

そこまで言われたからにはなかとーもやるしかない。

なかとーは腹を括った。

「とりあえず今日は遅い、明日またロビーで会おう。」

黒崎優斗はそう言うと部屋に戻っていった。

「ホッホッホ、面白い事になりそうですね。私も少し付き合いましょう。」

ヤマも泊まるようだ。

「なかとー様のお部屋はこちらです。」

案内された部屋は107111号室
何かどこかで聞いたことのあるような数字かと思ったが疲れたなかとーは深く考えず部屋に入るなり寝てしまった。

「ギャー!」

叫び声でなかとーは目を覚ました。
何事かととりあえず部屋を出ると2部屋隣に人だかりが出来ている。入り口にヤマがいたのでなかとーは声をかける。

「どうしたんですか!?」

「死んでるんだ…」

ヤマが答える。

「誰がですか?まさか…!?」

なかとーが部屋に押し入るとそこには…

・番号【8】・文章作者【ペグ】

なんと死んでいたのはきくぞうだったっーー!なかとーは後退りした。

「っな!なぜだ…!だってこいつは確か…!」

ヤマがゆっくり振り向く。

「ちょっと…いいですか?あなた酷く動揺なさっているようだ。なぜですか?」

そういうと、ペリペリ顔を剥がし出す。剥がすと出てきたのはきくぞうだった。

「俺だよ俺!」

なかとーは恐怖で尻餅をつく。

「いっ、一体どうなってるんだ!!」

「なかとーくんどうしたんだい?」

後ろから声を掛けられ振り向くと、そこには黒崎優斗が居た。なかとーは思わず黒崎優斗の足を掴む。

「助けてくれ!何が一体どうなってるんだ!?」

「何がって?」

そういうと黒崎優斗もまた顔をペリペリ剥がし出した。

「俺だよ俺!きくぞうだよ!!」

野次馬の人だかりも、よく見ると全員きくぞうだ。

「おいなかとー、ここは俺の世界なんだよ。シナリオは全て俺次第。登場人物はいわば俺なのさあ!」

なかとーはゆっくり自分の顔に手を当ててみる。自分が考えるものとは違う骨格のようだ。体を見てみると、凡そ100キロ以上超えるであろう巨体になっていた。

「お…俺も…きくぞう!?」

なかとーは絶望で絶叫した。

辺りは暗転する。

真っ暗闇の中、黒いサングラスを掛けたオールバックの頭の男がすっと現れる。

「作家というのは、常に他人の物語を頭の中に描く。中には自身の経験も含まれることでしょう。だがそのようなことを四六時中考えていたら、一体どれが自分の人生か時にわからなくなるかもしれません。私?さあ?私はもう、自分が誰かをわかっていません。逆に伺いたいのですが、あなたは誰ですか?」

サングラスの男性は口角を上げた。

「あなたが自身を見失った時、それが、奇妙な世界の入り口となるかもしれません」

(ここでお馴染みのあのBGM)

おしまい

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