見出し画像

コロナウイルスにより変革された世界

僕は人混みが苦手だ。
人通りの多い場所を歩いていたり、大勢の集まるイベントやお祭りに行くとだんだん頭が痛くなっていき、すぐ耐えきれなくなる。
なので休日は基本的に家にいることが多い。

ここのところ、コロナウイルスの蔓延を食い止めるため、多くの人が集まるイベントは軒並み中止になり、全国の小中高校も休校となった。
多くの人が楽しみを奪われる形となり、仕事に影響を受けた人たちも少なくない。そのため日本は現在、陰鬱な雰囲気に包まれている。
そんな中、不謹慎かもしれないが、不思議と居心地の良さを感じている自分に気がついた。


昔から人の集まりが苦手で、打ち上げなども適当に理由をつけて断っていため、だんだんとそういうキャラとして認知されていった。部活のメンバー10人くらいで映画を見に行く約束を雨だからと断った時は、さすがに1週間以上いじられ続けた。
僕としては辛いから行きたくないだけなのだが、皆としてはなぜ楽しいことに誘ってあげてるのに断わるのかという感覚らしく、不思議がられることが多い。

最近、いろいろ勉強するようになって、どうして僕が人の集まりを嫌だと思うのかがなんとなくわかってきた。
原因はおそらく聴覚過敏である。
人混みにいると多くの話声が聞こえ、その全てに感覚がいってしまうため、情報処理のキャパシティを超え、頭が痛くなってくる。
また大きな音も普通の人が感じるよりも強い刺激に感じる。
花火の打ちあがる音、祭りのどんちゃん騒ぎ、大声でしゃべる酔っ払い、音楽ライブでの演奏音、全部耐えきれない。
陽キャの人たちが好きなものは大体大きな音を発するので、陰キャになるべくして生まれ持った特徴である。

コロナウイルスの蔓延の危機は人々から僕の苦手な物たちをすべて奪っていった。僕はある意味合法的に家に引きこもることができるようになったのである。
この状況に僕は一番好きな作家である村田沙耶香さんの小説を思い出さずにはいられなかった。

村田沙耶香さんの描く世界は一見すると狂気の世界である。
10人子供を出産すれば1人の人間を合法的に殺すことができる世界。
夫婦間のSEXが近親相姦とみなされる世界。
亡くなった人をその人の肉を食べることで弔う世界。
最初はぎょっとするが読み進めていくうちに、そちらの世界の方が自然に感じられ、自分たちがいかに常識という名の偏見にとらわれていたかを突き付けられる。

10人子供を出産すれば1人の人間を合法的に殺すことができる世界を描いた「殺人出産」という小説には、人を殺してみたいという女性が登場し、彼女は実際に10人の子供を出産することで合法的に人を殺す権利を得る。
コロナウイルスにより外出を自粛するようになった世界における僕は、さながらこの小説の世界の彼女のようである。

我々の生きている世界ではもちろん彼女は危険な思想を持った犯罪予備軍であろう。
しかしながら小説の世界ではその精神的気質は社会の仕組みとシナジーを持ち、むしろ彼女は少子化を食い止めるヒーローである。
それは狂った世界の話だから、そんな逆転現象が起こるのだと思う人もいるかもしれない。
しかし村田さんの小説は読んでいくうちに、その世界の方が自然ではないかと感じさせる不思議な力がある。
村田さんの小説と出会い、自分の性格や人間性を否定された時も、これは世界の仕組みのほんの掛け違いの結果なのだと思えるようになり、非常に気が楽になった。

そして実際に感染症というただ一つのきっかけにより変革された世界を見ると、余計にそう思わずにはいられなかった。



いいなと思ったら応援しよう!