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2023年2月の聖書タイム「眠れない夜のための聖句」

by 山形優子フットマン

山形優子フットマンの執筆・翻訳 by 「いのちのことば社
新刊「季節を彩るこころの食卓 ― 英国伝統の家庭料理レシピ
翻訳本:
マイケル・チャン勝利の秘訣」マイク・ヨーキー著
コロナウィルス禍の世界で、神はどこにいるのか」ジョン・C・レノックス著
とっても うれしいイースター」T・ソーンボロー原作
おこりんぼうのヨナ」T・ソーンボロー原作

どうか、主があなたを助けて
足がよろめかないようにし
まどろむことなく見守ってくださるように。
見よ、イスラエルを見守る方は
まどろむことなく、眠ることもない」
ーー 詩篇121:3、4

2月、日本では梅の花が咲き始めるころです。毎年この頃になると、百人一首にある有名な菅原道真の歌を思い出します。「東風(こち)吹かば、匂ひおこせよ梅の花、あるじなしとて、春を忘るな」。太宰府に左遷された菅原氏は、都の方角である東から吹く春風を受けて、しんみりと思いに耽ったのでしょうか。一方、冒頭の聖句は、都に残り、菅原氏のことを思う家族や友人の気持ちを表しているような感があります。

海外に住む身として、故郷の梅の古木の香りを懐かしむ気持ちは、道真氏と同じです。あなたも、そうではありませんか? コロナ禍が原因で、長いこと帰っていない日本の春を遠い英国から、ちょっぴり悲しく思うのも、なかなか風情があります。室生犀星の「故郷は遠きにあって思うもの。そして悲しくうたふもの」という詩まで思わず脳裏をよぎります。

早春はまた、不安定な時期です。天候はもちろん、人が動き出す時期でもあります。人事異動、それに伴う引っ越し、卒業式、受験発表、住みなれた家を売却して次の住み家を購入するなど、人生の節目を、ふらふらと移動していく人々の姿が目に浮かびます。春になってもなお続く戦禍を逃れ、流浪の民となる人々も然りです。人は同じところには安住できないのが本当のところ。そんな時、冒頭の聖句「どうか、主があなたを助けて足がよろめかないようにし、まどろむことなく見守ってくださるように」は、力強い祈りでもあります。

春はまた、英国では大掃除の時です。日本では大晦日ですが、英国では「スプリング・クリーニング」と言われ、窓を大きく開け、カーペットのほこりを叩き出します。私の行きつけのエマニュエル教会でも毎年、メンバー総出の大掃除があります。大掃除が一段落すると、全員が紅茶で一服するのも英国ならではの光景です。冬眠が終わり、動き出す前に、ほこりを払うわけです。


家具などのほこりもそうですが、人はどうでしょうか? 日本では、人をして「叩けばほこりが出る身」と形容します。そう、叩かれれば、ふらふらしてしまうのが人間です。駐在が終わり日本に帰る人の背中を「お元気で!」とばかりに叩けば、叩かれた方はやはり、大なり小なり、ふらつきます。長いこと同じ場所に座った後、急に立つと、若い人でもふらつくことはあるでしょう。

年を重ねて足取りがおぼつかなくなればなるほど、冒頭の聖句「どうか、主があなたを助けて足がよろめかないようにし」という言葉が心に響きます。人は誰でも叩けばほこりが出る身ですが、主の助けがあれば、その足は守られるのです。それは、どんな道行においても然りです。家路を辿る際、梅の花見など後楽の際、お掃除のあと、旅に出る際など、主がその道行をともに行ってくださるとは、なんと力強いことでしょうか。たとえ、それが死への旅路だとしても。

続いて聖句はこう語ります「まどろむことなく見守ってくださるように。見よ、イスラエルを見守る方は、まどろむことなく、眠ることもない」。あなたには心配事がありますか? 心配で夜、眠れないことがありますか?

就職、家庭内や子供の悩み、金銭、健康など、心配事は人々の心に忍びこみ、安眠を妨害します。けれども、安心してください。あなたは毎晩ゆっくり、休んで良いのです。あなたが起きているからといって事態が好転する要因にはならないのです。もう一度言います。あなたは休んでください。あなたが寝ている間、「眠らず、まどろむことをしない」主が、あなたのためにフルに働かれているから。思い切って、その方に全てを委ねましょう。

先日、久しぶりにイギリス人の友達に会いました。彼女は20年ほど前に、一人息子を事故でなくしました。彼女は、携帯を取り出し、一枚のカードの写真を見せてくれました。それには、こう書いてありました。

「神様はまどろむこともなく、寝ることもない方。それなら、二人が起きている必要はありません。だから、もう寝なさい。全てを神様に委ねなさい」


これは冒頭の詩篇121から引き出したユーモアのある、温かいささやきです。彼女は、この20年間、全てを主に委ねて歩みました。愛する息子を取られた彼女の、ふらつく足を支えて下さったのは主です。そしてこの彼女が寝ている間に、主は彼女の傷を癒し、彼女の信仰を深め、彼女を恵と憐れみで満たされました。「全てを主に委ねて、ともに歩いていきましょう。主は苦しみを通して、私に、主の手に委ねることの素晴らしさを教えてくださった」― 彼女はこう言いながら私を抱擁しました。


梅の花が咲き、やがて実がなり、再び葉が落ちて、というように、繰り返す春夏秋冬は、全て主の御わざの中にあります。その御わざの懐に抱かれて、私たちは、何があっても安心できる場所を得ています。主の懐は大きく広く、その御手は永遠です。詩篇121の続きには、こうあります。

主はあなたを見守る方
あなたを覆う陰、あなたの右にいます方。
昼、太陽はあなたを撃つことなく
夜、月もあなたを撃つことがない。
主が全ての災いを遠ざけて
あなたを見守り
あなたの魂を見守ってくださるように。
あなたの、いでたつのも帰るのも
主が見守ってくださるように。
今も、そして、とこしえに」
ーー 詩篇121:5-8