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学習習慣の改善成果を待っていられない保護者たち

こんなことがありました。

「学校の課題を提出できない」そんな悩みを抱える生徒がいました。

毎日部活に全力を注いで帰宅して課題をやるのですが、とにかく時間ばかりかかってしまい、気づくと午前1時くらいになってしまっていて、そのまま机で寝ていたりするという話でした。

 まだ中学の学習のペースに慣れていないということもあったのだと思いますが、とにかくこのままでは体を壊してしまう可能性もあるということで、相談されたのです。

 私たちは「どうしてそんなに課題に時間がかかるのか」まずそのことが気にかかりました。そこでその生徒の課題のやり方を確認すると案の定、じっとわからない問題とにらめっこをしていました。

何かで調べるでもなくとりあえず式を書いてみるのでもなく、ただ見ているのです。時間ばかり過ぎていきます。

「これでは時間がかかるわけだ」そう思いました。

まず問題と解答書を読むことを私たちは指導しました。解答書を見てどうやって解答するかそのやりかたを自学自習するのです。

そして一通り通ってから問題を始めて解いてみます。そして間違いを後でチェックするのです。

このやり方をその生徒に指導したとき「おおっ」とその生徒が驚嘆の声を上げたのを今でも覚えています。そうです。かれは合理的な時間のかからないやり方を全く知らなかっただけなのです。

 もっとも、丁寧に几帳面に勉強していくタイプの生徒でしたので、このやり方を指導した後も短時間にスイスイというわけにはいきませんでした。

しかし当初と比べると劇的に時間は短縮できるようになっていきました。何より良かったのは、素直にやり方の改善を生徒が受け入れてくれたことです。

 ただ成績は、中学入学時からその時まではそんな感じで、時間ばかりかかる能率の悪いやり方をしていたため、肝心なことがすべて抜け落ちた学習になっていたのでかなり悪い状況が続きました。

 しかし「そうなったのはやり方が悪かったのだから、これから変えていけば時間はかかるけど必ず動きが出て変わってくるよ。我慢だよ」と話をしました。

彼は「はい」と頷いていました。

成果が出始めたのは半年後

 彼が言うには、やり方を変えてから「毎日が楽になった」という話でした。それはそうです。今まで4時間以上も課題とにらめっこして寝不足だったのが、1時間くらいでできるようになったのですから…。

「まずそれが何よりだね」私は彼にそう言っていました。

では、自宅で課題以外の勉強ができるようになったのかと言えば、なかなかそこまではいきませんでした。しかし、塾では課題以外の事をするようにしてそこで知識や考え方をマスターしていくように徐々にやり方は変えていきました。

 入塾当時は悪い状況でしたので、「塾でも課題を」という要望が本人からも保護者の方からも出ていたのですが、家庭での課題消化がスムーズになったので、要望も変わってきたのです。大躍進だと言ってよいでしょう。

本人も保護者の方も、成績が伸びてもいない段階で、まずこのことをとても喜んでくれました。その様子を見て私は「ああ、この子は必ずうまくいく」そう確信しました。

彼の中には長期的な展望が開けていることが分かったからです。

 そして半年後には、当初の成績とは比べ物にならない良い順位を取り、その後も自己ベストを更新していきました。

 彼は卒業する時に私たちに向かって言いました。

「勉強ってやり方を覚えることが一番大事だったんですよね。ありがとうございました」

学習習慣の改善を短期間でしようとする

「課題を提出できない」「それ以外の勉強まで手が回らない」学習習慣の問題は実に多くの生徒が直面する問題です。

 しかし改善の方法はいろいろあります。課題中心型の学習にしていくとか、課題をやる際にしっかり定着を図っていく、あるいは時間ばかりかかっている課題の前で悩む時間を、解答を見てから学習するような合理的方法に変えていくことで減らしていく等々・・・

 実際にはさまざまなやり方で軌道修正をすることができます。

 実際生徒がその気になって、私たちのやり方に従って改善を図ることができた場合には、かなりの成績の伸びを見ることがよくあります。

 ただここで多くの場合に問題になる1つのポイントがあります。

実は学習習慣の改善を行う場合に、もっともネックになるのがこのポイントなのです。

 それは、保護者も生徒も改善が短期間でできると思い込んでいることです。

 たとえば、5教科のテストの得点がいずれの科目も100点満点中20点から30点くらいを取ってしまっている生徒がいるとします。

そういう生徒の中には課題の問題自体がよくわからず解けず、そのために時間ばかりかかっていて、次第に提出もできなくなるという悪循環を繰り返している人が時に見られます。

 そんな状況にある生徒にとって、まず1教科の課題をしっかり中身も確認して一通り通って提出するということだけで、実は大事業になるのです。

1つの定期テストの前だけではそれが達成できず、2つあるいは3つのテストでそれができる場合もあります。それくらい時間がかかります。

保護者の方にも生徒本人にも、時間がかかることはよく説明をしますが、これがどうしても待てないという方が多いのです。

時間をかけて軌道修正すれば成果は必ず出てくる

 こういう対策をきちんとやった時には、まず特定の科目の得点が急激に上がります。

 しかし次の科目もしっかりやろうとすると一時期上がった科目の点も下がったりするので、当初は1科目上がり1科目下がりという乱高下の推移を見せます。

けれども全体の順位は、上下しつつも次第に10位そして20位と上昇への動きを見せ始めます。半年くらい経つと1ランクも2ランクも上になっているなんていうことがよくあります。

 学習習慣が悪い場合には順位が安定するということはそもそも難しいので、それに一喜一憂するのが一番よくないのですが、本人も保護者の方もどうしても目の前の得点が気になってしまうため、答案を見て動揺してしまうようです。

ようやく少し流れが良くなって「さあ、これから」という頃に、「成績が少しも上がりませんね」というような本当に誤った判断をされてしまうことも多いように思います。 

 私たちとすれば「十分に上昇が見えてきている」「この流れに気づかないのかな?」と思ったりしますが、保護者の方がより高い所を想定している場合には、やはり焦りもあるのかもしれません。

10点20点の状況にある生徒が40点以上を楽々取れるようになっていても、保護者の頭の中では「半分も取れていない。意味がない」というようなとらえ方をしてしまっている方が結構いるのです。

 でもこれは誤った価値判断ではないかと思います。ダブルスコアで得点が伸びているのです。そのことを褒めなくてどうするのですか?

10点20点の状況にあるという事は、実際にはその科目のほとんどのことが分からなくなっているという状態です。それが40点になるという事は、工夫された合理的なやり方を上手くマスターできたという結果であって、並大抵の努力では成し遂げられないことです。おそらく80点が100点になるのとは比べ物にならない大きな成果なのです。

 生徒の学習習慣を変えていく場合には、改善の結果どのように変化が起こってきたかということを適正に評価をしていく必要があります。周りのその生徒に対する温かな見守りというものも実は重要なのです。

 やり方を変えることができたときに伸びがあれば、そこを重点に展開していけばよく、事実その時期を乗り越えた生徒は、結果として劇的な成績変化の達成と学習習慣力を身に着けるという成果を上げていることが多いように思います。

 肝心のところで歩みを止めてしまうことほど残念なことはありません。 もしも本当に学習習慣を変えていく気があるのならば、長期的なスパンで変えていこうという決意が必要です。

 学習習慣の改善で必要なことが、本人の才能や素質ではないことはもちろんですが、かといって改善のテクニックでもなく、最も重要なことは、やり方を変えることで起こる良い変化を「信じて待つ」ことなのかも知れません。

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