小説「バスターユニオン」
第一話 獣人の扱い Ⅱ
民間放送された格闘技の試合が終了した頃、俺は有意義な時間を過ごすために散歩する。
外では様々な種類の獣人が飲食・荷物運送など労働をしている光景が見えた。
(こうして見ると地球にいる獣人は文句言わずに頑張っているんだよなぁ)
以前も言ったが、獣人が店を回していることで、働いたお金を政府が人類に渡す。
ただ、地球に住む政治家の独裁的な労働政策に対して、獣人たちは黙々と文句一つもなく、むしろ当たり前のように人間の命令を聞いている。
ただし心の中では憎い奴だと恨んでいる。と隠しながら生きるのも少なからずいる。
それでも今時はおかしな話ではないのである。これには本当に人間より地球侵略を企てた獣人より悪なのかとつくづく感じる。
「いや、考えてもしょうがない。取りあえず飯だな」
俺はそんな思考をして散歩をしていた最中、何となく空腹になったのでハンバーガー店に行くことにした。
「すごい列だなぁ」
店内で食事をしようと訪れた某飲食店には長蛇の列ができていた。
まさに世界で愛されている人気の店である列だと感心しながらも俺は列へと並ぶ。
そして30分経過した時、ようやく商品をオーダーできるようになった。
「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」
「てりやきバーガーのセットを一つ。あとチキンナゲット一つで」
「はい。承りました」
そこにいる店員は当然だが獣人である。
しかし、例え動物であっても、また「半分だけ動物の血がある獣だ」と揶揄されても、人間と同じ学習能力を持つため店は十分に回っている。
「店内で食事をしますか?お持ち帰りにしますか?」
「お持ち帰りで」
この時代では丁寧語を使える獣の店員がほぼ9割いる。
ただ、人間は欲望のままに動くため、真面目に働かない店員をよく見かけた。と、お爺ちゃんがよく言っていたのだが、本当にそうかもしれない。
「ありがとうございます」
そんな推測が当たるだろうと思いながら、獣人の接客に感心するも、俺は昼飯を買って家まで運んでいく。
「さて、家に帰ったら映画でも見るか」
家に帰って人気映画ドラマの続編を見る。そんな楽しい時間の使い方を考えて歩く俺は気持ちが高ぶって走っていた。
だが、その矢先。遠くにフードをかぶった少女が俺とぶつかって鉢合わせになる。
「「ウワッ⁉」」
体と体が勢いよく飛んでいき同時に頭から倒れる二人。
俺は痛みを感じて頭蓋骨を抑えると、何事かと少女を見て口を開く。
「お前‼何処見て……」
しかし、そこにいたのは人間ではなく獣人であった。
いや獣人ではあるが……俺はそこにいる少女に見る目を奪われた。
くりくりした目にまつ毛が長く、よく手入れをされた艶のある短めの茶髪。
そして、すらっとした体形で肌もきめ細やか。
言うなれば、まさに完璧すぎる獣人の美少女であった。
「いったぁ~、貴方こそ何処見てるんですか‼」
「……」
「何ですか?私に文句でも?」
「あ、いや」
俺は少し戸惑って強く言いすぎたと彼女を見て反省する。
本当に曲がり角でぶつかるシチュエーションがあるとは思わなかった。
こんな偶然に出くわすなんて、これは運命の人かも?と獣人を美化して考えていた。
「そうですか。ならここで私に謝ってください」
「え?」
だが、その理想は彼女の性格によって壊された。
「謝罪って…そんな大げさな」
「は?人間のくせにそんな生意気なことを言うんですね」
彼女はいいから謝れと俺の足を蹴った後、俺の頭上を抑えて強制的に土下座の格好にさせた。
「ッ‼」
また俺は獣人の強烈なキックに耐えることができず足首の骨が折れたと錯覚する。
一応、念のために自分が骨折していないことを確認する。
(イッテぇー、骨折するかと思ったぞ)
「お前、ナニッ…‼」
「何立ち上がってんですか?ほら、頭下げてください」
しかし、またもや足を蹴られて、今度は俺の後頭部を無理やり手で押し始めた。
彼女の言動は、まるで俺が人間のカスとして見ていて、カスである俺の話は一向に聞くつもりはないと示しているようだった。
これはそう。まさに顔が良いだけのハズレ美少女である。
「ほら、早く」
「そ、その前に俺に謝ってくれ」
「え?なんで?」
どうやら俺の言い分に耳を傾けるつもりはないらしい。
彼女は急かすようにただ謝罪をしろと言うだけで、常に俺の頭を力強く押し込めていた。そのうえ、獣人は丁寧語を使うなんて言っていた俺の話は嘘だとここで発覚した。
やはり、獣と同じ脳みそなのだろう。
(コイツ、ちょっと可愛いからって図に乗りすぎだろ!)
俺は話を聞くことなく強引に頭を押さえる彼女に対して不機嫌になる。
「ねぇ話聞いてるの?」
そんな俺を無視して文句を言い続けた彼女は人の考えを否定するように振舞っていた。
と、思った時だ。
「いたぞ‼メスの獣人だ‼」
拳銃を武装した何人かいる集団がこっちへと向かっていた。
それを何事かと目を見張る俺。
どうやら彼らは5人で誰かを追っているらしい。
(って今、メスの獣人とか言ったような?)
聞き間違いだろうか?と首を傾げて、誰かを捕まえようとした追手を見つめる。
しかしそんな疑問がよぎった時だ。突然、獣人の彼女が、俺の手腕を引っ張ると風の如く颯爽と走ろうと加速する。
その彼女の速度に追い付くことがてきない俺は体が飛びそうになる。
「ちょっ、何してるんだ⁉それに何処に行くんだ⁉」
「いいから黙って」
彼女は会っても間もないというのに、相変わらず話を聞いてくれない。
何処に行くのかも分からず、強引に引っ張る。その行為は成人男性の俺をまだ高校生ぐらいに見える獣人の少女が誘拐したのかと勘違いしてしまうほどだ。
(まぁ、それは確率的に多少ありそうだけど)
そんな感じでこの状況を理解しようとする俺は脳みそを回転させて状況を整理しようとする。すると彼女から一ついいかしらと話を持ち掛けてきた。
「ねぇ、君はこの街に詳しい?」
だが、またもや訳も分からない質問を投げ掛けてきた。
この街に詳しいなんて俺は現地の人だと何かあるのかと想像できないからだ。
「よく知っている。というかこの街の住人だし」
「そう。ならこの街で安全な場所って分かる?」
「安全な場所?」
その瞬間、俺はその言葉がどんな意味を持っているのかをようやく理解した。
この獣人は敵から逃げているんだと。
(そういうことか・・・・・・)
つまりこの状況から推測するに、兵達が獣人の少女を誰かと契約させようと捕えようとしたが、恐らく彼女はその契約を破棄しようと決死の覚悟で逃げてきたのだろう。
少し状況を理解できなかったため、時間はかかったが俺は全てを把握して納得する。
そして、俺はこう答えた。
「分かった。ならうちに来るか?」
「・・・・・・君の家?」