日付短編小説 2024/06/12 恋人の日 児童労働反対 第二話
〇2
仕事を終わらせて社員と雑談した後、私は自宅へと向かっていた。夜の道は暗くライトも微かに光っているだけで、少し気味悪いが私は普通に歩いて行く。
女の子、あわよくば女子高校生だからこそ、不審者には気を付けるべきである。
「よし、早く帰って宿題しなきゃ」
そして私にはまだ終わっていない課題があるので、明日の休みにゆっくり過ごすためにもすぐに片付けようと意気込む。
休みの日は、友達と遊園地に行く予定であるからだ。
だから宿題を終わらせて学校の友人とたっぷりある時間を満喫したい。
そのためにも徹夜で終わらせることこそ、今回の宿題においてのノルマだろう。私はやる気が満ち溢れて意気込みを見せる。
しかしそんな時だ。背後から嫌な視線を感じていた。
(誰だ?まさか不審者?)
やはり私が目当ての不審者がいるのは本当の話だった。
自分でも驚いていたが、ここは急いで逃げるのが定石だろう。
私は逃げている振りをして歩いている足を速く動かす。
しかしまだ気配は感じていて、向こうも追いつこうとしている。
(これじゃあキリないな)
まったく切り離すことができない。そう感じた私は自宅へと急いで向かおうと猛スピードで自宅へと走ることにした。
すると不審者はそれに気づいたのか、声をあげてこちらに向かってくる。
やはり背後にいるのは男であった。私は万が一のためにも防犯ブザーを鳴らすと決めて紐を持つ。
だが次の瞬間、目の前にもう一人の男が立っているのを目撃する。
私は危険を察知し足を止めようとする。しかしもう遅い。
「捕まえたぁ‼」
「んー、んー」
ついに私は不審者に捕まってしまった。
「上出来だ。すぐに屋外まで向かうぞ」
背後にいた彼はそう言って車へと乗せようとする。
そしてそこにいた人物は見た事のある中年の大人、後輩ちゃんを脅した張本人であった。
指示された男は私の塞がれた口から手を離した後、私の腕のみをロープで拘束する。
これは一体なんだ。私に何の用だ。
目に入ってきた光景と二、三人いるうえ、状況的にまずいとは思っている。
しかし今いる現場の把握をするのは一瞬であった。
「花蓮ちゃんだっけ?バイトお疲れぇー」
私に向けて嫌な視線を向けてきた白髪の混じった男性、そう先程の客がそこにいたのだ。
「いやー、帰るの遅かったから、花蓮ちゃんが退勤するまで暇だったよぉ」
どうやらバイト帰りの私をずっと待っていたようだ。
何かの間違いだと言いたいところだが事実は事実。私は口を開かずにその男に問いかける。
「何か用ですか?私、明日学校に行かないといけないんです」
「へー、そうなんだねぇ。でも残念、君は学校には行けないよ?」
「……キモ」
「ハハ、やっぱり可愛い子はいいね。その表情が崩れるところみたいよ」
コイツ、変態的な性格しているな。人間として終わっている。
私の表情や目を見ても、男はあっけらかんな顔をして余裕を見せる。
だが舐めては困る。こんな時こそ私の防犯の練習が活きてくる。
「今すぐやめなければ大声で警察に通報します」
こう言えば彼らも縄を解き解放してくれるだろう。
そう思っていたのも束の間、突然私の制服を引きちぎった。
「なっ⁉……」
彼らは一体何をしたいんだ?私は頬が赤くなって恥ずかしくなる。
「一体なんですか?私が警察に通報したら——」
「花蓮ちゃん、君は何もわかっていない」
「……はっ?」
私は驚きと困惑、その両方が顔に出るほど困ってしまう。
正直、私は状況的にまずいし男の集団からの視線が気味悪い。
「……どういう意味です?」
「またまたぁ、どうせ分かっているでしょ?」
男はニヤリと笑って、私自身をチラチラと舐め回すように見てきた。
本当に男の見た目と目付きには吐き気がしてくる。
(うるさい、少し黙っていろ)
「……その目はなんだ?」
マズイ、気づかれた。私の視線に察知した男は鋭い目で睨んでくる。
今すぐにでも彼らに殺されそうだ。
そんな時だ。その流れで私の体を押さえつけ、偉そうな中年の男に身体を見られる。
ここまで屈辱的な仕打ちをされると恥ずかしくなる。
しかし私には既にこの状況をひっくり返す打開策はある。
「……貴方、今すぐにやめなさい。そうすれば痛い目にあわなくて済むわよ」
「へー、それはどんなものかい?」
「……警察に通報するとかよ」
「あーあー、残念。折角のお楽しみの時間だったのに」
彼らは私とのじゃれ合いを諦めて、悲しそうな表情を浮かべる。
「そうよ、だから早くやめ——」
「とか言うと思ったか?ガキ。警察なんて来ねぇよ」
しかし彼らは全てを見通した眼を持っており、私の忠告なんてものと馬鹿にする。
一体どういうことか?私は言葉の整理が追い付かず、頭の中に疑問点が大量に生まれる。
「何を言っているの?私がその気になれば警察を呼べるのよ?」
「……仕事、勉強。それが優秀な奴でも、こういうのには弱いんだな?」
「あなた何を言っ——」
「だからぁー、俺はお前の作戦なんて把握済みってこと」
その男はケラケラと手の中にいる私を弄ぶように笑った。
逃亡先には誰もいないし光もない。
そう、敵に逃げ道を塞がれたのであった。
「なっ、何を言っているの?私は警察に通報していたのよ」
「ああ、知っている。でも俺らは位置情報を書き換えた。いいや正確にはスマホの情報を入れ替えた」
主犯である男の言葉に周囲の人間は笑って馬鹿にしていた。
これはまさに……
「そ、それは犯罪よ‼」
そう、状況的には優勢だと思い込んでいた。しかし彼らはその上手(うわて)の策を持っていた。
私がバイト先のロッカーに置いた電子機器の情報を入れ替えていたのでる。まさに常習犯のような手口である。
(ナンで⁉きちんと鍵は締めたはずよ……)
あの機器には個人的なSNSの写真やコメント投稿、課金しまくったゲームデータが残っている。
何が何であれ情報を取り戻さなければ‼
「返しなさい。そうすれば刑務所暮らしはさせないわ」
「はっ、ガキの分際で。俺の目的に口を出すなよ」
「も、目的……?」
彼の言葉に私は腑に落ちずに困惑した表情を浮かべる。
彼は何か目的があったからそうした。何かあるのかもしれない。
私は深堀りしようと話を聞くことにした。
「じゃあ、教えて。貴方は何がしたくて私を捕らえたのよ?」
「はんっ、まっとうな理由だ。お前自身が後輩を被ったからだよ」
バイト先の後輩、彼女を守った。
それは好き勝手に生きたい男にとってムカつくほど嫌なことであった。
だから後輩を庇った私を腹いせに襲った。つまりはそういう事であったらしい。
「お前は俺たちを馬鹿にして、俺たちを迷惑な客だと判断した。俺はそんな不手際な対応があったからこうしている。全ては後輩を助けたお前が原因なんだよ」
彼らは後輩に責任を問いて、私に邪魔されたことに腹が立っていたと話した。
「わっ……私だってあなたの行動は八つ当たりにしか見えなかったです‼」
「うるさい、黙れよ」
「っ⁉」
彼は本気で私に対して怒っている。まさに火に油とはこのことだ。
ここは慎重にするべきだった。私はどうにか機嫌を良くして許してもらう。もちろん彼は不機嫌だから、こうするしか方法はない。
「……でしたら何か要望はありますか?」
「要望?お前本気か?」
私はコクンと首を頷き、彼の機嫌を取り作ろうと試みる。
「……」
「あっ、あの?」
やばい、私の言葉は信用に当たらないのか? 引き返すにもいかないし、どうすればご機嫌が取れるのだろうか。 中年の男性たちの表情は見えなかったが、彼らから危険な匂いがしている。
「……」
「う、迂闊でしたっ‼私ごときが務まるわけ——」
「いいね。君のこと好きになったよ」
「……えっ?」
私はその言葉に声が出なくなる。
まるで中年の顔は何かいい物を捕らえた気味悪い表情を浮かべていた。
それはまさに何かに目覚めている変態だろう。
正直、その男の目を見る事はできない。
(何か息遣いが荒いし、目の奥に汚い欲が見えるし……)
男の目線は私の体全体から、寒気による鳥肌が立ちブルっと震える。
「キミ、名前は?」
「……言いません」
もちろん呼びかけには答えない。
自分の名前を言った時点で私は人生終了なのだ。
たとえ何があっても私の信念は簡単に屈することはない。
だがそれはすぐに崩れ落ちるようになった。
「そうかい?じゃあこれを見たら言うかな?」
そう言った中年の男は電子機器に生ライブを表示する。
そのライブ映像にいた一人の少女。目を凝らして見ると、あの後輩ちゃんだと気づいた。
「どっ、どういう事ですか?なんで後輩が……」
何処からカメラを向けているのか?というか後輩ちゃんが狙われているのか?
男はにやけた表情でカメラを映した画像を見せてくる。
これには私も驚愕の行動すぎてどうなるのか分からない。
「あーあー、やったねぇ?これは後輩が襲われるかもねぇー」
「クッ‼変質者めっ‼」
私は男の目を見て鬼のような形相で睨みつける。
このロリコン共が私の後輩に何か仕掛けようとしている。
もし私が屈しなければ、後輩を犠牲にすることなく私だけを責められる。 しかし私が拒否すれば、後輩が襲われることになる。
最悪の状況が目の前にあるのに、それをひっくり返す策はなく行き詰まってしまう。
「さぁどうする?後輩を守るか?捨てるか?ほらぁ、選べよ?」
もうどうしようもないのか。諦めるしかないのか?
私は覚悟が決まらず、声が震えて言い出そうにも言い出せない。
どうすれば……
「す、すいません‼」
「どうした?」
「今、俺たちを襲った一人の若い男がここに襲撃してきました‼」
えっ、若い男?
「ナニ?もしダメなら今すぐ彼女の後輩を襲え‼」
「それが待機中の男をすでに襲い、こちらに向かっています‼」
「はっ?一人でか?」
その中年の男は動揺し始めた。
たった一人の若者が変質者たちを襲って、何故か私や後輩に救いの手を差し伸べていた。
その事実は私でも受け止めることができない事柄だ。
「今すぐ逃げるぞ。コイツは置いていく」
「はいっ、了解で——」
「おっと、逃げるとはどういう要件かな?」
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