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小説「バスター・ユニオン」
第一話 獣人の扱い Ⅷ
俺が状況を説明するのを求めると彼女は正直に説明を始めた。
家から追い出された時、すれ違いで追手が来たことを目撃した彼女。
そしてたまたまこの道を見つけて、たまたま辿り着いただけ。
俺はそんな事情を知り、敵に見つからずに辿り着いたことに納得する。
そして取りあえず匿うと決めた彼女の滞在期間について決めた。
「それでいつまで居るつもりだ?明日までなら許すぞ」
「いいや、一週間よ。一週間まで居るわ」
俺は強気に期間を短くするように尋ねるが、彼女はその要求に耳を塞いで拒否反応を示す。
強情な奴だ。これでは七日も経った頃にはここが見つかる可能性は高くなる。敵を撒いたとはいえ獣人の長期間滞在は俺の身が危ういだろう。
「いいや明日までだ」
俺は要求に対して強気に譲らない意思を見せる。
先程も言ったが人間が獣人を匿うのがそもそもご法度な要求だ。
そんな危険が高まる願いを聞いて承諾するのは政府機関が許さないだろう。
また小耳に挟んだ程度だが獣人を家に連れ込むのは死刑となるらしい。
獣人を連れ込んでいたせいで死刑が確定になるのは絶対に嫌である。
まぁ、一人暮らしの俺の家に彼女を連れ込んだがな。
「貴方、さっきは私を家に引き込んだのよ。断る理由はないわ」
「うっ、痛いところ突くなぁ……」
相手側の優勢になる言いたくない事実に気づかれた。
俺はこれ以上、反抗するのは無駄だと察知して分かった。
そして、せめて三日だと腰を折り就寝した一時間後。
秘密基地の室内は湿気で濡れており木材も、俺たちが重すぎてギシギシと音を立てていた。
さらに正直な話、手作りの建物なのでスぺースにゆとりがなく狭い。
今の状況を説明すれば子供一人と遊び相手の大人一人の一部屋に俺と紫苑がいる。
「狭い‼もっと離れて‼」
「五月蠅い。これ以上は無理だ」
この発言には「邪魔しているのはそっちだ‼」と突っ込みたい要素テンコ盛りだ。
悪口を言う訳ではなく愚痴を言っている。
彼女は俺の邪魔をしているだけ。危険も招く不要な動物なのである。
これは獣人差別ではない。関わりを持つのが嫌だということだ。
因みに悪口は『人を悪く言うこと』愚痴は『言っても仕方がない事を嘆くこと』らしい。
って、俺の言い分は仕方がない事じゃねぇ‼
「貴方。今すぐここから出て。私の睡眠の邪魔をするの?」
「邪魔しているのはお前だがな」
「さっきから私の匂いを鼻で呼吸していたくせに」
「そんな気持ちの悪いことできるかよ‼」
証拠もないのに言い掛かりはやめて欲しい。
最悪の環境に最悪な年下獣人のメス。
災いが俺の静かな人生を邪魔して、おまけに『バスター・ユニオン』に追われている。
普通に過ごしてそんな事が起きるとは。災害レベルは7だろう。
「いいから寝とけよ。嫌なら今すぐ出て行け」
「……分かったわ」
主張の言い争った喧嘩に面倒になった俺。
それに対して面倒になった俺の忠告に納得した彼女。
二人はこれ以上の泥の掛け合いは無意味だと感じてやめた。
(ハァ。全く俺の秘密の隠れ場所にいるのが獣人とはなぁ)
動物と一緒に寝たい気持ちは誰でもあるが荒くれ者の動物と寝たい人はいない。それも野犬のような獰猛な人間型の動物ときた。一層のこと普通の人間と寝るのがいい。
とは言え、彼女も俺と同じ気持ちなのだろうか。
「なぁ、お前って人間が嫌いか?」
「何言ってんの?当たり前だけど」
「……そうか」
「貴方、なんで落ち込んでいるの?」
「いや、別に?気にしていないし?」
「気になってるじゃない」
俺がそんな質問すると、彼女は「えっ」と言いたげな表情を浮かべて戸惑う。何故だろうか、普通に女の子に見えないはずなのに、凹んでしまった。
まぁ、そんな事もありながらも、彼女に人間の嫌いな理由を聞いた。
そして、彼女は幼少期に人間の非道な現場を見た時から嫌いになった。人質になった家族を置いて未だ行方が分からない。など多くの批判を飛ばしていた。
端的に言えば、彼女が経験した過去の悲劇で人間に対する嫌悪感が増幅したと言ったところだろう。
「という訳で、大体こんな感じかな」
どれだけの辛い人生を歩んだのかを実感させる語りに涙が出そうだ。
人間は獣人を地球侵略した外道だと思っているが、獣人も人間の非道さを良く知っていた。
だから昔も今も人間と獣人の扱いは両極端であり、それこそが世間の事実なのだ。
「本当に酷いものよね。貴方も私達も裕福な生活を送っていたのに」
「……そうだな。本当に俺たちは酷いことをしていた」
全ての元凶は地球侵略によるものだろう。
人も獣人も何も関わりがなければこんな社会にはならない。
俺は深く頷き心に染みる思いになりながら、ずっと見る事を諦めていた。
人間は自分勝手だと知っていても知らないフリをした。
だからこの瞬間、向き合うべきだろうと感じる。
「それでちょっといい?」
「いいぞ。何だ?」
「その……私の母親を救うために協力してほしいの」
「キョッ、キョウリョク?」
彼女は「そうよ」と言って、その提案に乗ってほしいと求める。
しかし、俺は人間の奴隷になる獣人を見ないフリをしていた。
それに自分の価値観を帳消しにするために獣人を救っても今までの罪が消えない。きっと俺が奮起しても何も変わらないだろう。
だから数分あっても相手に力を貸して欲しいと頼めるわけない。
一人の獣人が家族を救いたい気持ちがあるのは分かるが、人間は彼女を助けるなんて言わないだろう。もちろん俺もその一人だ。
人間が獣人を助けるメリットは存在しない。
地球人が構築した獣人差別社会に反抗するのは愚かな者だと噂される。
獣人を匿うなんてしなければと後悔するも日本政府に歯向かうのも決めきれない。
「いいのか?俺は人間だぞ?」
「ええ、もちろんオッケーだわ」
それでも獣人である彼女は人間である俺がむしろ関わってほしいと話す。
「……ちょっと考える。明日になったら答えを出すから」
「ええ、いいわよ」
こうして俺と彼女は深い眠りにつき朝になるまで布団で横たわる。
そして、次の日。
俺はすぐに起きて彼女の話に応じるかを話すことにした。