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ギャランドゥ

ギャランドゥ(今から約20年前の話in博多)

                                   


 「夢、今よか?」

「ごめーん。今から剃毛せんといかんと」(剃毛:ていもう・毛をそること)

「誰の?」

「6号室の佐々木さん。」

「あー、明日オペの?」

「そうそう」

「明日のなんやったっけ?」

「VUR」(VUR:膀胱尿管逆流・尿管を切って膀胱に吻合する手術を施行)

「全部?」

「うん、いつも通りの全剃り」

「じゃ、終わったら声かけて。」

「オッケー。」

看護婦5年目の安達夢は、同期の恵美と少し話した後、処置室に明日手術を控えている6号室の佐々木を呼んだ。

 2、3分後、佐々木が処置室をノックし、静かに現れた。

「佐々木さん、すいません。来てもらって。朝も説明しましたが、今から毛の方を剃っていきますね。この処置台に横になって下さい。」

佐々木は無言で台に上に横になった。

 佐々木は36歳、男性、一人暮らし。カルテの職業欄には『公務員』と書いてあった。時々夕方になると女性が来ているので、彼女だろうと看護婦同士で言っている。しかも、決まって夕方なので、きっと同じ職場じゃないか?とみんなで推測している。

 横になった佐々木は、どこを見れば良いのかわからず、キョロキョロしていた。

「えっと、先生から説明があったと思うんですけど、明日は腹腔鏡下の手術なんですけど、開腹手術になる可能性もあるので、お臍から下までですね、全部剃らせてもらいますね。」

「えっ?全部?」

「はい。すいません。先生の指示で」

「全部かあ・・・」

「はい。あと、お臍の掃除もするんです。オイルを使うので、この後お風呂に入ってもらって、しっかりお臍も洗っといて下さいね。そうしないと手術の時に消毒液を弾いちゃいますから。」

「・・・わかりました。」

「あ!あと、使う剃刀は電動の安全剃刀なんで、佐々木さんの皮膚を切ることはありませんので、安心して下さい」

「はい」

「では、すいません。下着を下げましょうか?」

と、夢は佐々木に言い、佐々木はパジャマを下げた、瞬間、白のブリーフが現れた。

『ブリーフ!しかも白!そしてグンゼ!!』

夢は吹き出しそうになったが

「パンツも下げて下さい」

と言った時、真っ黒な、アフロか?と思うようなジャングルが現れた。

『うわーーー』

泣きそうだった。臍から下って臍の位置すら見えないのだ。そして、殿も見えない。この剛毛!西城秀樹かよ。見たことないけど。

その時だった。夢の脳内にヒデキのギャランドゥが流れたのだ。

「🎵悔しけれど おまえに夢中 ギャランドゥ ギャランドゥ🎶」

脳内で夢はコーラスだった。ヒデキの「ギャランドゥ」の後に半音下げて「ギャランドゥ」とハモっている。

『さあ、安達夢!頑張れ!』

自分に言い聞かせた。

 ギャランドゥの脳内再生でジャングルはどんどん刈られて、平野になって行った。安全剃刀の替え刃は3回交換された。


 「濃くてすいません」

佐々木がボソリと言った。

「え?なんです?」

ギャランドゥ集中の夢には聞こえなかった。いや、集中せざるを得なかった。だって、佐々木の殿は、つんつるてん平野の城主として、立派にお立ちになっているのですから。

「殿!」

「なんだ爺」

「今日はよく晴れて、遠くまで見渡せますのう」

「ほんにのう。狩日和じゃ!」

とか聞こえて来そうなほどビンビンだ。


 さて、みなさん。ジャングルが平野になる時、殿はどういう行動を取るかご存知ですか?勿論、セックス目的での動きはご存知でしょう。しかし、医療というものが前提にある時、殿はどう動くか?セックスが目的ではない人が、目の前で下半身を触る時、殿はどんな動きをするのでしょうか?


 夢が安全剃刀の替刃一個目を使い始めた時、ジジジジジーとジャングル上辺から攻めた。安全剃刀は意外に振動が激しく、先日剃毛した79歳のジジイは

「タマに響く」

と言っていた。当然、佐々木タマにも響いていただろう。臍から殿の居るであろう方へ一方通行に刈って行くと

「呼んだか?」

とジャングルから顔を出してきた。夢はギャランドゥ集中で無視。殿は

「もーー相手にしてよ~せっかく目が覚めたんだからさあ~」

と女子高生風の口調で、足元を拠点にコロコロと弧を描くように転がり始めた。

「邪魔!」

夢は安全剃刀で殿を殴った

「イテッ」

と佐々木。ギャランドゥの夢。刃が全く毛を刈らなくなった。2個目に交換だ。交換された替え刃は

『無念。あとは頼むぞ』

と言っている様だった。白の刃が真っ黒になっていた。

ジャングルは約半分が刈られていた。殿は小刻みに痙攣しながらオリンピック体操男子吊り輪の規定ポーズをとっていた。

『殿!綺麗なポーズだーー』

『良いですよ。角度もいい。綺麗な肉体美です』

『池谷さんの現役時代を思い出されます』

『いや~見事に立ってます!殿、立ってます!!』

そんな感じになっていた。


「すいません。なんか変な感じになって」

佐々木がボソッと言った。

無視の夢。

規定ポーズの殿。

今からフィニッシュに向かうところで

「あっ」

佐々木が小声で叫んだ。


ルルルルルルルルルー

『ご乗車誠にありがとうございます。満員電車になっております。次も参りますので、無理なご乗車はおやめ下さい』

『ちょっと!押さないでくだい!』

車内に罵声が響く

『殿、大丈夫でございますか?』

『おお!爺!爺もこの電車であったか!』

『はっ。私めも毎朝この電車で通勤しとります』

『しかし今日も人が多いものよ』

『そうでございますね。おっと!』

『うわーー人の波じゃ!潰れる』

夢は、直立の殿をガーゼで臍側に押さえつけている。

殿の直立硬直は、剃毛の邪魔にはなれど、全く役には立たない。ある意味立ってはいるが・・・。

そして、最後の難関、会陰部までの・・・・


その時、夢の脳内に「道化師のギャロップ」が流れてきた。

「位置に着いて!用意!バン!」

「さあ、スタートしました。午前中最後の競技、玉転がしです。大きな玉を二人一組で転がし、旗まで一周して来ます。おおっと!恵美・夢チーム早い早い。良いスタートダッシュだ!」

「夢!夢が回して行って、私がコース取りするけん」

「わかった。スピード上げるよ」

「OK」

『恵美・夢チーム見事な速さだ!』

「ぎゃっ!」

「どしたん?」

「何かが絡んどる」

「え?あれ?前に進めん!何で?」

『どうしたのでしょう?恵美・夢チーム失速しています』

「あっ!夢!大玉見て」

「ああ!大玉に毛が生えとる!」

「これじゃあ、なかなか進まんよ」

「・・・・よし、毟ろ!」


「イテ。イテテ」

佐々木が唸っている。


「よし。獲れた」

「go夢!」

「OK」

『見事です!一時失速していた恵美・夢チーム。玉のケアも終え、順調にゴールまで進んで行きます。」

「パー~~ン」

ゴールのピストルが鳴らされ、夢はついにゴールまで辿り着いた。


 「佐々木さん。お疲れ様でした。一応、指示のあった部分の毛剃りは終わりましたので」

そう言って、夢は片付けに入った。

刈って、毟った佐々木の毛は想像以上に多く、黒毛のトイプードルが鎮座しているようにも見える。

 「じゃあ、佐々木さん、このままお風呂に行っちゃって下さい。」

「は、はい。」

佐々木は、慌てて下着を履いていたが、ブリーフの左股から殿が覗いていた。

『夢、世話になった。さらばじゃ』

という感じだった。佐々木はささっと処置室を出て行った。

「ふう~。マジで疲れた~」

夢は椅子に腰掛けた。

「あ!臍処置するの忘れた!!」

夢は急いで処置室の扉を開け叫んだ。「殿~もう一回来て~。」   <完>

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