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暴れん棒将軍

 暴れん棒将軍                     泉ちゃん
 
 「ねえ。今日、静かやね。」
「確かに。深夜になって全然ナースコール鳴らんやん。これはこれで怖いっちゃけど」
「今日、手術した三原さん、大丈夫なん?」
「うん、さっき覗いたらスヤスヤ寝とった。」
「マッキー(病棟医長の牧医師)が、『術後は要注意』とかしつこく言いよったけん、バリ緊張しとったんやけど~。」
「でも、やっぱり腫瘍がデカかったけん、出血も多かったし、輸血もまあまあしたみたいよ」
 深夜勤務になり、看護婦5年目の安達夢と大橋恵美が話し始めた。
業務は落ち着いていたが、昨日、前立腺癌で前立腺全摘をした42歳の三原が、いつ急変してもいいように、心構えと、救急物品の準備は済ませてあった。
 滅多にないが、大きい手術の夜は、傷が開いたり、再出血したり、術中に出来たと思われる血栓が血流に乗ってめぐり、詰まり、血栓症となって急変する事がある。

「なーんにも起こりませんように!」
夢は手を合わせた。恵美も同様に手を合わせた。すると、
「ねえねえ。ところで、三原さんの、見た?」
合わせている手を左にずらし、「家政婦は見た」の市原悦子の様な表情で恵美が言った。
「しっかり!」
夢が逆市原悦子で答える。
「「やっぱりー」」
二人は静かにハイタッチをした。
「デカいよね!」
「もう、初めて見たとき『今期最大級』と思ったもん」
「そーなんよ。術前検査の時、マッキーが一瞬止まったもん!」
「oh!泌尿器科医もビビる大きさ♡」
「後は硬さだけでしょうか?」
夢がエアーマイクの拳を恵美に向けた
「そうですね~硬いだけではダメです。しっかりGスポットに当たるのか、カリの角度はどうか、茎もしっかり起き上がるのか、持続時間はどうか、そういう全てが、平均値を超えてこないといけません」
「なるほど。ただデカいだけではダメだと」
夢の拳が行き来する
「そういう事です。この世にはデカけりゃ良い!とだけ思ってる大馬鹿者が多いのです!」
「なるほど。大橋センセ。ありがとうございます。以上、花岡医療センター泌尿器科病棟より中継でした。スタジオどーぞ」
うはははははは~と二人は笑った。
「しかし、マジでデカいよね?奥さん、大変だわ」
そう言って、恵美は三原のカルテを見た
「げっ!子供が7人もおるばい」
「は?7人?この時代に?昭和初期じゃないとよ!」
「バツイチで、前妻に3人。後妻に4人」
「え~!めちゃくちゃ暴れん棒将軍やん。振り回しとるばい」
「🎵ちゃっちゃっちゃちゃら🎶おーとーこだったあら~」
「それ、銭形平次」
「あれ?あ!この紋所がっ」
「それは水戸黄門」
「おろ?あ!簪でブシュッと三田村邦彦がっ」
「必殺仕置人。あれよ!あれ。松平健が浜辺を白馬で走っとるヤツ」
「あ~大岡越前!」
「暴れん坊将軍だって」
「暴れん棒将軍!ブンブンブンブン振りまっせ!」
「うまい!バリウケるっちゃけど~」
「では、今年の暴れん棒将軍大賞は!『昨日、前立腺全摘を行った、三原さんです!』」
「ギャハハハハハ~」

 その時、三原からナースコールが鳴った。
「ゲッ。暴れん棒から呼び出し」
「行ってらっしゃーい」
恵美がナースセンターから飛び出し、夢は救急カートを廊下に運び出した。<完>


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