ダイエット中のインドアデブが初登山に行って遭難しかけた話【安達太良山編】
あるときインドアデブは思いました。
「登山行きてえなあ」と……。
初めまして、三十三と申します。
私の趣味は映画鑑賞や物書き、小説&漫画を読んだり音楽を聴いたりと、専らインドアな物でして……そうなると必然的に脂肪が溜まるわけです。デブになるわけです。
そうして私は立派な90 kg のデブになりました。悲しいですね。
そして、あるときトレーニーの友人Aと通話しているときに、ふと言われました。
友人A「三十三さあ、ダイエットすれば?」と。
自己語りで申し訳ありませんが、私は適当に生きている人間です。なので友人Aに対する回答はこうでした。
「いいね」
この馬鹿はノリでダイエットをすることを決心(浅はか)したのです。
それから一か月半の私の体重はこうなりました。
良い落ち具合ではありませんか?
一か月半でざっくり6.5kgの減量です。
行ったのは筋トレ&ケトジェニック。いわゆる糖質制限。
こんなにも体重が落ち、テストステロンで変に前向きになってしまったデブは、ここでまたもや変なことを思いつくことになるのです。
それは、ヤマノススメというアニメを観ていたときのことでした。
「山、登りてえなあ」
次の日、私はWILD 1 というアウトドアショップに行き、6万円分くらいの登山装備を購入したのです。単純ですね、わたし。
さて、装備も揃いました!やる気もたくさん!。
ノリで私が決めた登山童貞を捧げる山は
福島県 安達太良山 1699.6m
選定理由は近所だからです。適当に選んだのもありますが、インターネット曰くくろがね小屋を目指すルートが「初心者にも向いている」らしい。
そして
登山当日の朝8時
安達太良山 奥岳登山口
天候 : 雨 強風
駐車場が広く取られているあたり、休日には人が多く訪れる様です。
この登山口からはロープウェイが伸びてまして、薬師岳という所までいけるそうです。
ここで悩みます。ロープウェイを使うべきか、否か。
この三十三という男は負けず嫌いです。勝負事には滅法弱いですが、何かに負けるのが嫌いな男なのです。ですが、初登山。靴も買ったばかりだし……山のことを知らないし……。理性的な人間なら、ロープウェイに乗るのでしょう。
しかし、私は私が思っている以上に馬鹿でした。
道が分からなかったので、お婆さんに道を聞き、いざ登山へ!
熊、出るんですか!?
ここで「熊避けの鈴」という「登山と聞いたら思い浮かべる物 第三位」くらいには入ってそうな物を買っていないことに気付きます。
し かし、引き下がれない。いまさら、鈴一つを買いに引き返すわけにはいかないのです。
自然遊歩道を抜ければ、登山道が始まるとのこと。安達太良山は冬場にはスキー場として姿を変えるらしく、リフトや緑の急斜面がちらほら。
そして、これが登山道。
登山っぽい!!!!!
写真からは分かりにくいですが、しっかりとした傾斜が私の太ももをイジメてきます。
「効いてる!効いてるぞお!」
そんな冗談を心の中で叫んでいたのも束の間、息が上がり、鼓動はクライマックスへ。
そんな中、歩いていると前方からチリンチリンと鈴の音が。
目を凝らして、耳を澄ませてみると、私の前をベテランっぽい二人組が歩いてました。これが何とも心強い。知らない山、慣れないこと、そこに人がいるのは心強いものなのです。熊避けの鈴の音と、二人の背を追いながら登っていきます。
ここで、ベテランさん二人組がこんなステッキを持っていることに気付きます。
最初にそれを見たとき、まだ登山を舐めていた私は思ったのです
「あったら便利そうだけど、なくても良いでしょ」
「中高バスケ部だったし、いける」と。
しかし、ステッキの効果なのかベテラン二人組のスピードがとても速い。スイスイスイスイ登っていく物ですから、登山開始15分にして後悔を募らせます。
登山開始20分辺り、上記の画像の坂道を超えた所で雨が本格的に降り出します。
インターネットで「登山初心者 道具」と調べて出て来るのは
登山靴
ザック
レインウェア
の三つ。
この三十三、ぬかりはありません。
「買ってるもんね~」と鼻を高くしながら、レインウェアを着て、再び歩みを進めます。
が……暑い!!!! 蒸し暑い!!!!
特にフードが暑い! フードを脱いだら脱いだで、雨がうざったい!
脱ぐわけにもいかず、我慢しながら進みます。これが登山なのだと言い聞かせながら。
途中、小さな川を渡りました。川の側をあるける自然遊歩道があるみたいですが、川の氾濫で壊れたらしく閉鎖されていました。
ここから一坂上った所から
登山は始まります。
ルートは「馬車道」と「旧道」の二つがあるそう。
馬車道は、その名の通りに馬車が通れるくらいに道が広く整理されている印象でした。しかし登山口を教えてくれたお婆さん曰く「馬車道は工事の車が通ってぐちゃぐちゃ」とのこと。
私は旧道を迷わず選択しましたが、迷うべきでした。少しだけでも……。
道じゃねえ、これは木の根っこだ!!!!
旧道と呼ばれているだけはある。人が通って作ったのか、それとも流れ落ちる水に削られたのか、確かに道はあります。ありますけども! 段差がデケえ! 加えて、雨が降っている物ですから、もはや「道」でも「根っこ」でもなく「川」なのです。
「だが、舐めるなよ。こちとらブルガリアンスクワットで鍛えとるんじゃい!」
三十三のパッシブスキルの「負けず嫌い」がここで発動します。限界まで太腿を上げて上半身を持ち上げる。キツイ。キツくないわけがない。
「あのステッキがあれば……」
そう思っても、いま信じることが出来るのは己の太もものみ。行くしかないのです、やるしかないのです。
道は険しさを増していきます。
もはや岩なのです。登山というよりも崖登り。湿気のせいでレインウェアの中は汗でベタベタ、汗が目に入って染みる、汗なのか雨なのか分からない。
どうやら、旧道は馬車道を串刺しにする様な形で伸びている様でした。そりゃキツイわ。
雑木林だった道は、途中からジャングルめいて来ました。この画像ではハッキリとした道が確認できますが、もはや道なのか川なのか分からない場所が殆どです……。
ここで気付いたことが一つ。
怖いのです。恐いのです。熊が畏ろしいのです。
一説には、熊は人の気配を察知すると身を隠すとも言います。もしかしたら、熊避けの鈴は必要ないのかもしれません。しかし、鬱蒼とした森林の中、聞こえるのは自身の息遣いと、地面を擦る音。輪郭のはっきりとした「恐怖」が私を襲いました。それらを紛らわすためにも、鈴の音は有用なのだと知りました。次は買っていきます。絶対に!
ヒィヒィと呻きながら登り続けていると、ベテランさんが止まっていました。どうやら、道らしきものが二手に分かれているらしいです。
三十三「道、どっちですかね?」
ベテランさんA「GPS持ってないんですか?」
三十三「G……P……S?」
ベテランさんB「え?」
三十三「へ?」
よく見れば、ベテランさんは良さげな手袋もしているではありませんか。私は素手です。ここに来るまでに、手を使ってよじ登る場面も幾度となくありましたし、手袋は必須なのでしょう、
ここで明確に自覚します。私には必要な装備が足りていないと……。
「旧道を抜ければ山頂でしょ?」
登山開始から一時間。やっとの思いで地獄の旧道を抜けると、私の希望を打ち砕く様に道が延々と続いていました。
目的地のくろがね小屋まで三倍近くあるではありませんか。
絶望する三十三。
しかし朗報! 傾斜もそこまでなく、道として道の形を取っているので、とーーーっても歩き易い!!! それはそれは「あーめあーめふーれふーれ♪」なんて歌っちゃうくらいで! 他にも不革命前夜(NEE)なんか歌っちゃったり。
ここで僕の目的地をもう一度確認しておきます。
くろがね小屋です。僕が目指していたのはくろがね小屋なのです。上記画像で言うと右端なのです。
しかし、軽薄な私のことです。頭の中身がマシュマロレベルで詰まっていない物ですから、こんな看板文句を目にしたときの行動は決まっているのです。
安達太良山 山頂 70分
山頂ですって!!!!!!!
馬鹿と煙は高いところを好むと言いますが、私は馬鹿でヤニカスなので山頂を目指すことを即決しました。うーーーん、馬鹿ですねえ。
山頂を目指す道は、この過程に通って来たどの道よりも過酷でした。
道が狭めえ!!!!!!!
草が凄げえ!!!!!!!
川じゃねえか!!!!!!
本来は小道と言った様相の道も、土砂降りの雨効果で小川へと変貌していました。最初は「靴を濡らしたくねえな」とか甘いことを考えてましたが、道だと思って踏み込んだ所が、大きな水溜まりで、左足が全壊した時点で、私は濡れないことを諦めたのです。
道は単純なのですが、まあ、ジャングル。
しかし、山頂というワクワクする目標に近づいていくと思うとテンションが上がります。進むこと30分、だんだんと景色が変わります。
低木が増えてきたのです。盆栽みたいな木や大きな庭に観賞用として飾られていそうな木が生い茂っています。はっきりとした景色の変化は苦しい登山の癒しでした。
「ああ~登ってる、登ってるよ!」
圧倒的登山している感が楽しくなってきました。なってきましたが……いつまで続くんですかね、この道。看板では40分とか書いてましたけど着かない……。それどころか、途中にあった看板には
あと40分???? 本当に????
確実に一時間くらい歩いた気がするんですけど……入口の看板には70分って書いてあった気がするんですけど……。しかし、引き返すことは出来ません。進むしかないのです。この時点でしっかりと疲労困憊です。汗拭きに使っていたハンドタオルは水に浸した様になり、ザックの遮水性がイマイチだったのか、ザックの中身もぐちゃぐちゃです。
この登山時、私はケトジェニックを行っていました。ケトジェニックとは糖質制限。つまりブドウ糖のシャットダウン。そんな状態で山を登ったのですから、辛くないわけがないのです。
休憩を挟み、登山を再開します。
生憎の曇り空で、本来は雄大な景色が広がっているポイントも雲しかありません。白!白しか見えねえ! 天候の選択を確実に間違えています。
雨は弱まりましたが、ここら辺から明らかに風が強くなってきました。そよ風ではなく、強風と呼んで良いレベルの強さです。やはり遮る物が無くなって来たからでしょうか。
川上りめいていた道も、岩肌がほどんどになり、足元の不安定感が増してきました。斜面はより急に、霧も濃くなり視界が狭まっていきます。寒いということはありませんが、難易度が確実に上がっていきます。
汚ねえ男のクソ汚ねえ息切れ音付きですが動画です。
ここら辺から写真を撮る余裕がなくなってしまい、画像が少なくなってしまいます……。スイマセン……。
完全に樹木は消え去り、深い霧の淵を歩いていきます。というか登っていきます。這いつくばっていきます。
山頂へと続く明確な目印はなく
こんな摩訶不思議なオブジェクトが点々と連なっています。心の中で「目玉岩」と呼んでました。
恐らく「ルート合ってるやで!」的な目印だと思い、辿っていくことにします。
それと、なぜか石が大量に積み上げられていたので、私も積み上げておきました。
これ大丈夫ですよね!?
呪われたりしませんよね???
死者の数だけ乗せてるとか、そんなんじゃないよね???
ただ、目印はあるだけで心強い!
しかし、上がるテンションとは裏腹に、コンディションは最悪です。
風が!あまりにも風が強い!!!!
強すぎて立つことが出来ず這いつくばって移動します。
風が弱まった瞬間に岩から岩へゴキブリの様に逃げ回ります。
そして、山を登るには人間の脚は少なすぎるのです。
あのステッキがあればと何度思ったことか。それどころか、手袋もないので一応持っておいたハンドタオルを手に巻き付け、岩を掴みます。
爆音の強風に乗って小雨が肌に突き刺さり痛い。レインウェアを盾の様にしますが、今度はそれが風を受け辛い。
そして、何より不味いのは
山頂へ続く道を完全に見失ったことです。
途中まであった岩の目印はなくなり、トラロープの誘導も目に入りません。木の看板なんてもってのほかです。
「撤退」の二文字が頭に浮かびます。
来た道に戻ることが出来るギリギリのラインでしょう。
しかし、私は軽率で馬鹿なのです。もう少し登ってみようと判断し、限界まで登ることにしました。来た道を目に焼き付けながら……。
二本脚で立つことは不可能。現在地不明。死の冷たさが頬を撫でるなか、ようやく視界の中で最も高い地点へと到達しました。
画像の近くに(おそらく)ルートを示すトラロープがあったので、山頂までもう少しなのでしょうが
すぐ側が急斜面で、硫黄の匂いが強くなって来たので
「撤退」を選択しました。
(つい最近、この近くで毒ガスによる死亡事故があったらしいです)
来た道を折り返します。一度通った道なのである程度は楽勝でしたが、ここで気付きます。
「下山の方が危なくね」と。
簡単な話ではあるのです。登山は一つの頂点に向かって登っていくのに対して、下山は幅広い裾の尾に降りていくのですから。「下っていけば着く」というわけではありません。
そのことに気付いた三十三に緊張が走ります。ゲームボーイアドバンス以下の脳味噌をフル回転させ、ルートを検索します。
順調でした。順調なはずでした。
しかし、ふと頭に不安が過ります。
少し……景色が……違う……。
辺りを見回し、少し散策をした結果、見つけました。
…………正規ルートを
人はこうやって遭難するんですね!
流石に冷や汗をかきました。これが登山では普通のことなのか、どうか分かりませんが、ヤバい気がしたのです。
今度こそ、順調に下山を続けていると、今更になって霧が晴れて来たらしく、白の中に緑が混じり始めます。
目玉岩がチラホラと見え始め、心に余裕が出て来た頃に、ある物を発見します。行きは霧が濃くて発見できなかったのでしょう。
当初の目的であったクロガネ小屋です。黒いから恐らくそうでしょう。
「今度はクロガネ小屋まで歩いていこう」
とか、そんなことを考えていました。
あっれぇぇぇ?????
なぜかクロガネ小屋が目の前に
そして、臭い!!!!
どうやら下山ルートは二手に分かれていたらしく、私は間違えてクロガネ小屋に至るルートを選択したようです。自分でもドン引きです……。
クロガネ小屋からの帰り道は比較的歩き易くて楽しかったです!
途中、補修工事をしている所があってぬかるんではいましたが、それでも息と比べればマシ&マシでした。工事のおじさんに「登ってきたんすよお」と言ったら「はええ」と言っていた辺り、登る日を間違えた様です。
硫黄臭いナニカです。何かは知りません!!!!
帰りは旧道ではなく馬車道を下ってみました。なだらかで疲れた膝に優しかったです。
道からは薬師岳に伸びているロープウェイやスキー場の斜面が見えたりしましたね。ただ、工事をしている関係上かなり歩き辛かったですね。
そして、帰還……疲れました。
これを書くのも疲れてきました。
反省
装備が足りない。
下調べが足りない
山舐めすぎ
山頂に到着できなかった(山頂がどうか分からなかった)のが、とても悔しいです。
足りない物、知るべき事、その他諸々が分かったので、次回はもっと上手く登りたいと思います!
出来れば、快晴の日に!綺麗な景色が見たいんですよお!
次回
安達太良山 リベンジ編~ロープウェイに乗ってみたかった!~