【ファジサポ日誌】125.落としどころ ~ 第29節 レノファ山口 vs ファジアーノ岡山 マッチレビュー ~
台風の影響で通常より早い現地入りになるなど、いつもと異なる状況、そして木山監督は戦前からこの試合での勝点3獲得を明言しており、もしドロー以下に終わっていれば、大袈裟な言い方をすれば、サポーターの雰囲気も含めて「空中分解」に至っていた可能性もあった一戦でした。
筆者としては、この試合を終えても残り9試合あり、かつプレーオフ圏内をキープできる状況にある中で、この一戦に懸けるような空気感は却ってまずいとの想いもありましたが、チームは「賭け」に勝ちました。
しかし、「賭け」と表現しましたが、いたずらな出たトコ勝負ではなく、チームは勝利のために準備を尽くしていたと思いました。
振り返ります。
1.試合結果&メンバー
あくまでも印象ですが、試合前の映像をみる限りでは、山口の選手たちには笑顔がこぼれるシーンもあり、集客試合の影響で初観戦の方も多かった影響なのか、サポーターも本当に試合を楽しんでいる和やかな雰囲気が印象的でした。チームが好調ということもありますが、山口のサッカーを楽しんでいる雰囲気が羨ましかったです。
一方、岡山からはやはり選手からも、何となくサポーターからも緊張感が伝わってきました。その理由はおそらく書き出しで述べましたように、もしこの試合で勝てなければ…との想いがそうさせたのではないかと推測します。
結果的には勝てました。筆者も正直ところ予想していなかった(99)ルカオの2発で勝つことが出来ました。ホッとしました。
7/6の仙台戦以来、およそ2か月ぶり、6戦ぶりの勝利、そしてその試合以来の複数得点となりました。
今回のレビューでは当然その要因を整理することになります。
メンバーです。
岡山は前節の大分戦から大きな入れ替えがありました。
前節で先発しましたLCB(43)鈴木喜丈、CH(7)竹内涼、RST(39)早川隼平がメンバー外、代わってLCB(5)柳育崇、CH(14)田部井涼、RST(27)木村太哉が先発で出場します。
(14)田部井に関しては、大分戦で久々に交代出場、中盤から効果的な縦パスを数本通し、セットプレーのキックでも可能性を感じさせてくれました。良好なパフォーマンスを魅せてくれたことからも、この試合でのスタメンは予想されていたと思います。注目は(7)竹内と(24)藤田息吹のどちらと交代するのかという点でしたが、指揮官の選択は(24)藤田(息)を残すということでした。
(43)鈴木については、前節でかなりエネルギーを消耗していた様子がありました。いわゆる「出し切った試合」後にはコンディションを落とす傾向が今シーズンはあり、前回の長期離脱に繋がってしまった負傷への配慮から、大事をとってメンバーを外れたものと想像します。一方で(5)柳(育)の起用は戦術的理由によるところも大きかったと思います。
(27)木村も同様に戦術的理由が大きい起用であったと思います。
サブメンバーにも変化がありましたが、FW(99)ルカオの復帰はやはり目を惹きます。
山口で最も大きかったメンバー変更は、CB(3)ヘナンの出場停止による欠場です。代わりに(40)平瀬大が入りました。岡山のホーム戦第3節でも出場し、CBながら終盤に自らドリブルで岡山ボックス内に進入したプレーは特に印象に残っています。
最近はCB(13)板倉洸やCH(18)相田勇樹といったJ3時代に志垣監督の下でプレーしていた選手たちの活躍も目立っている山口です。その(13)板倉と(40)平瀬は初のコンビとなることも試合前には紹介されていました。
そして名古屋から新加入のCF(51)酒井宣福もスタメン出場。岡山に在籍していました2016シーズン後半は主に左のウイングバックで出場していました。プレーオフにも出ていました。あれから8年、厭世の感は否めません。
2.レビュー
普段の、特にドローが続いていました最近の岡山と比べますと、試合を通じて決定機の数も多かったですし、攻勢の時間帯が長く続いていたと思います。一方でその決定機をなかなか仕留められない点は、やはりこれまでと一緒でもどかしく、逆に山口はこうした試合もモノにしてきている分、勝敗は(99)ルカオの2点目が決まるまで、どちらに転んでもおかしくない状況が続いていたといえます。
(1)竹内の提言とチームの落としどころ
この山口戦は前節大分戦からの流れを踏まえてみていく必要があります。
前節のレビューでも主将(7)竹内の大分戦後のコメントについて触れました。
有料媒体となりますので詳細については触れにくいのですが、チームのいわゆる「繋ぎ」の甘さに苦言を呈していたといえます。
今まで岡山が避けてきたともいえる弱点を鋭く指摘したところに(7)竹内のJ1経験者としてのキャプテンシーを感じ、感謝の念も覚えたのですが、同時にこの課題をどのように改善するのかという点に懸念も感じました。
(7)竹内のコメントの趣旨は出し手と受け手のコミュニケーション改善という部分に主眼が置かれていたと思いますが、木山監督が標榜しているニアゾーンの攻略という文脈と併せて考えた時に、それは「繋ぐ技術」の問題にも発展する訳です。
では、岡山に現在在籍している選手が、繋ぐ技術に長けているのかというと、前回のレビューでも述べましたが、パスサッカーを標榜するチームと比べるとその能力は劣ると言わざるを得ません。その代わり、強度やスピードに関しては秀でている選手が多いと思います。
また、木山監督の就任以降のこれまでのコメントからは、いわゆるパスサッカーに対するアンチテーゼを感じさせる面もあり、こうした岡山の流れを踏まえた時に果たして繋ぎ、いわゆるパスの質を短期間で改善できるのか、疑問も生じる訳です。
そんな前節からの一週間で木山監督が出した答えは、(改めて)「相手の裏をねらう」という事でした。
これも有料媒体の記事なので、少々語りにくい点がありますので、筆者の想像を踏まえて述べてみたいと思います。
(7)竹内のコメントの真意には、パスの出し手と受け手の約束事を何となくではなく、明確化して徹底すること、そして当然かもしれませんが得点を増やすという目的があります。
この点については、おそらく木山監督も大筋では同意していると思われるのですが、選手たちの技術や中断明け以降の試合内容を考慮すると、自陣で構えて守る対戦相手を崩せる程のパスワークは岡山には無く、かつこれから短期間で身につけることもおそらく難しいという判断に至ったのでしょう。
そこで、相手の守備態勢が整う前に素早くボールを相手の裏に入れ、相手守備者が少ない状況でゴールを奪うというねらいであったのだと思います。
筆者としては、非常に腑に落ちる策であると感じました。
そうした時、この試合の先発メンバーは、木山監督の言葉を借りますなら、「表」を崩せる(39)早川ではなく、「裏」を取れる(27)木村となる訳です。そして岡山が裏を取ることでCKやFKなどセットプレーが増える。よって(14)田部井のプレースキックと(5)柳(育)の高さが必要であった訳です。
まず、岡山のゲームプランには(7)竹内の提言に対する木山監督の「落としどころ」があったといえます。
(2)ゲームプランの遂行
それでは実際のゲームを振り返ってみましょう。
最初の15分、立ち上がりが大きなポイントであったと思います。
ドローが続いていた間の岡山の問題点のひとつに前半、後半の頭で強く入れないという点は共通項としてみられていました。これはロースコア勝負を選手たちが想定しているがために、慎重な入りになった点がマイナスに作用し、試合の主導権を握れなくなっていたものと筆者は考えます。
まずこの点が良く修正されていました。ロングボール、セカンドボールの競り合いに強く入ることから入っていき、序盤からリスクを負ったコンパクトな陣形で山口陣内に攻め込みます。チャレンジャーとしての戦いを取り戻していたともいえます。そして、相手陣内でロストする確率を下げるために、相手陣内でのパス回しについても一定の約束事があるように見えました。
こうした約束事の設定に関しては(7)竹内の訴えが反映されていたのかもしれません。
全員が良い距離感を維持しながら、対面に相手がいる時は、無理に仕掛けず、背後の味方に戻し、裏を取り直す、跳ね返されたらセカンドを奪う、もう一度裏を取る。そしてボックス手前まで来たら、相手の枚数が揃っていても縦にパスなり、シュートなりで勝負する。
こうしたシンプルながらも統一したねらいでサッカーが出来ている岡山は、簡単にボールを失いません。
失った時は、山口CF(9)若月大和に両サイドへと突破され、ピンチになる場面もありましたが、ここには岡山CB(18)田上大地が迎撃、(9)若月から(51)酒井などへ決定的なクロスは上げさせませんでした。
(9)若月の特に両サイドへ流れる動きは厄介ではありましたが、(18)田上が振り切られそうになる場面がありながらも冷静に対処します。(18)田上は18分と早い時間帯にイエローを貰ってしまいましたが、その後もよく我慢したと思います。序盤に彼が魅せた安定したディフェンスが岡山の選手たちにリスクを負って攻める勇気を与えたのではないでしょうか?
実はこの試合の隠れたMVPは(18)田上であったと筆者は考えます。
そして、この時間帯から目立っていたのは、CH(24)藤田息吹の高い位置からの縦パスです。
(24)藤田(息)のラストパスの成功数自体は1本なのですが、おそらくチャレンジ回数は相当数あったと思います。それが証拠に今回の山口戦でのパス成功率は藤田(息)にしては異例といえる73.3%に止まっているのです。前節大分戦での(24)藤田(息)はらしからぬパスミスも散見され、不調といえましたが、それでも86.6%のパス成功率を維持しています。
これはいつもはセーフティなパス回しを優先する(24)藤田(息)が、ゴールに直結するリスクあるパスにチャレンジしている証ともいえるのです。
もう一点、岡山のボール運びの大きな変化は、ニアゾーンに執着しなかったことです。後半の開始46分にLWB(17)末吉塁がニアゾーンを取りにいくも決定機に至らなかったシーンがありました。DAZN解説の中島浩司さんからも、ワンプレー多くなった分、決定機にならなかった点について指摘を受けていましたが、全体的には中断明け以降の岡山にみられていたニアゾーンへの固執はこの試合ではそんなには見られませんでした。
これも、相手の守備が整っている状態では攻め切れない、つまり相手の守備が整う前に攻め切りたいという、志垣監督が試合後「攻め急ぎ」と評した程の岡山の速攻が導いた傾向といえます。
ニアゾーンをその都度狙っていると手数が多くなってしまうので一気に裏をとる、早めにクロスを上げるといったこれまでの数試合からは見られなかった岡山の攻撃姿勢となっていたのです。
ここまで述べてきました岡山の攻撃姿勢の変化は、ボックス内への進入に関して明らかな違いを生んでいます。大分戦と比べましたボールロスト位置の変化です。
ボックス内でこれだけロストしているというのは、LST(19)岩渕弘人のボックス内の山口の選手全員を剥がそうとする仕掛けによるところが大きいのですが、この日の岡山の攻撃で唯一単調になってしまったのが、ゴールを決める最終段階であったといえます。
しかし、この点については最近数試合は有効にボックス内へすら進入出来ていなかった岡山でしたから、精度が上がらなくても仕方がないといえます。
しかし、ゴールを奪わなくては勝てない。
そんなジレンマを一発で解決したのが、故障明け久々の出場となったFW(99)ルカオでした。
(3)クロスの「落としどころ」はルカオ
(99)ルカオの役割は基本的にはCF(22)一美和成と同様です。
得点の直前、右サイドに流れて起点をつくり、そこから持ち前のフィジカルを活かして中央へ、右に流して自身はボックス内へという動きを見せます。
右サイドで(24)藤田(息)からのパスを受けたRWB(88)柳貴博の判断は早く、何度もクロスを出すよう合図を送っている(99)ルカオへ精度の高いクロスを上げます。
(88)柳(貴)には、ニアゾーンを取ろうとする(27)木村やオーバーラップしているRCB(4)阿部海大へパスを出す選択肢もあり、おそらく前節までの岡山であれば、そのようなチョイスをしていた可能性もあるのです。しかし、ここはパスの出し手、受け手の意図、呼吸、そしてこの試合のチームのねらいがピッタリ嵌ったクロスを選択出来ました。
試合後の志垣監督は対応した(40)平瀬の「サボり」を指摘していましたが、おそらくゴール前で強烈な存在感を放っていた(19)岩渕への意識が強かったのかもしれませんし、ニアゾーンを取ってくるこれまでの岡山の傾向や、近年はヘディングでのゴールが無かった(99)ルカオの情報などが頭に入っていたのかもしれません。
(99)ルカオの頭を「落としどころ」にした岡山の勝ちというべきゴールシーンでした。
岡山としてはこの後、(14)田部井のFKから(99)ルカオの追加点が生まれたことも、チームのねらいが出た大きな収穫であったといえます。
それにしても、昨シーズン春の移籍後の(99)ルカオのリーグ戦でのゴールはここまで3。どちらかといえば、サイドに流れてスピードで勝負するチャンスメーカーとして、岡山のサポーターも認識し始めていた筈ですし、(99)ルカオもボックス中央に入ることを嫌う場面が多かったと思います。
このゴールは意外性の塊であったともいえます。
ゴールが生まれた背景を考えると、普段のコメントからもチームへの献身性がみてとれる(99)ルカオが、リスクをとってゴールへ迫るチーム方針(おそらく)に忠実に動いたこと、そして2得点とも比較的速い配球であったことも良かったのかもしれません。
3.まとめ
以上、山口戦についてまとめました。
前節の大分戦でのキャプテン(7)竹内からの厳しいチームへの指摘を木山監督が現実的にチーム戦術に落とし込み、そのねらいを体現したクロスが(99)ルカオの頭に上手く落ちたということで、岡山にとって2つの「落としどころ」がみられた試合であったと思います。
これを続けられるかが今後のポイントとなりますが、次の秋田に関しては、裏ばかりではなく、いわゆる「表」の崩しも必要になると筆者は考えます。
この点をどのように考えていくのか?
再び、チームの修正力、対応力が試されます。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
※一部敬称略
【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。