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母乳をあげたい方のためのバースプラン
母乳で困る“前”に知ってほしい
赤ちゃんを母乳で育てたいと思うことは素晴らしいことです
しかし、残念ながら現代の日本では、多くの産院で適切な授乳の支援が受けられない状況です
そのせいで退院してから大変な苦労を強いられる方が多くいらっしゃいます
母乳の量はいつでも増やすことができます
しかし、赤ちゃんを母乳だけで育てることを考えるなら、最初の3日間がとても重要です
3日間の理想的な過ごし方をご自身が知っておくと同時に、産院に方針を伝えておくことをお勧めします
バースプランに記載できるような形で提案したいと思いますので、ぜひご活用ください
・生まれたらできるだけ早く直接肌が触れ合えるようにカンガルーケアをしたい。その際、赤ちゃんが乳首を探して吸い付けるように助けてほしい。
出産直後のカンガルーケア(早期母子接触)の効果には科学的根拠があります
・赤ちゃんの体温・心拍数・酸素飽和度・血糖値が安定する
・母乳育児を続けられる割合が高くなる
・母親の不安の軽減
が確認されています
赤ちゃんは産まれてすぐは覚醒状態にあり、1〜2時間ほどで一度深い眠りに入ります
最初の覚醒中に授乳すると、その後の授乳もうまくいきやすいです
雛鳥が産まれて最初に見たものを親と認識するのと似たものを感じます(←これは私の感想です)
以下は具体的な方法の一例です
出産が近づいたら多くの病院では分娩用の服に着替えます
その際にブラジャーや下着を外しておきましょう
赤ちゃんが産まれて元気なのが確認できたらすぐにママの胸の上に赤ちゃんを乗せてもらいましょう
その時、赤ちゃんも服を着せないで直接肌が触れ合えるようにしましょう
赤ちゃんが冷えないように上からタオルをかけてもらいましょう
赤ちゃんは自分で乳首を探して吸い付く力をもっていますが、必要であれは赤ちゃんを乳首の近くに置き直したり、初乳を搾り出して匂いを嗅がせるなどお手伝いしてもらいましょう
転落しないようにそばで見守る家族がいると安心です
もちろん安全の確保が第一です
病院の方針とすり合わせて、できる限り実現できるように相談してみてくださいね
・赤ちゃんの欲しがるサインに応じて頻回に授乳できるよう助けてほしい。休息が必要な場合も授乳の時は赤ちゃんを連れてきてほしい。
なぜ“産まれて最初の3日間”が大切なのか、につながるお話です
母乳を作るために必要なプロラクチンというホルモンがあります
プロラクチンの量は出産直後が最大で、放っておくと数日で妊娠前の状態まで減ってしまいます
授乳の刺激で一時的にプロラクチンが増えるので、授乳と授乳の間隔をなるべく空けないことでプロラクチンがすぐ減らないよう食いとめるイメージです
プロラクチンの量が多ければ多いほど、乳腺の中にある受容体が増えると言われています
受容体は母乳の工場に例えられます
産後3日間はまだ工場を作っている段階なので母乳の量はわずかです
工場作りが順調にいくと、乳房が張ってきて母乳の量も増えてきます
早産でも低体重でもない場合、赤ちゃんは3日間分のお弁当を持って産まれてきます
母乳が出ないからという理由だけでミルクを飲ませる必要はないのです
赤ちゃんの欲しがるサインに応じて授乳すると授乳の間隔は不規則になります
3時間ごと…とはならないはずです
これが母子同室が勧められている理由でもあります
赤ちゃんの欲しがるサインとは
・穏やかに声をだしている
・口をパクパクしたり指をなめたりしている
・顔を左右にふって乳首を探している
泣いてからではお互い落ち着いて練習しにくいです
早めに授乳することがコツです
母体の回復のために授乳の練習は産後◯日目からと決められている産院があるそうです
しかし、出産直後からの数日間は母乳の工場を増やせるかけがえのない時間です
バースプランでご希望を伝えておくことをお勧めします
ちなみに赤ちゃんの入院などで直接授乳できない場合は搾乳することで同じようにプロラクチンが分泌されます
出産直後は1日8〜12回になるようスケジューリングして搾乳することを提案します
・医学的な適応がない限りお腹を満たすためのミルクや糖水を飲ませないでほしい。もし必要な際は哺乳瓶ではなくカップで飲ませてほしい。
残念ながら適切なアセスメントをせずにルーチンでミルクを与える産院も多いようです
不必要なミルクを与えない方がよい理由は大きく分けて3つです
・アレルギー発症リスク
最初に消化管に入る物質が母乳であると、未熟な消化管に物理的・免疫的なバリアをつくります
このバリアのおかげでアレルゲンが体内に侵入することを防ぎ、将来のアレルギー発症予防になります
生後早期に母乳以外の水分を摂取するとこのバリアを剥がしてしまうことになり、アレルギー発症予防の恩恵が受けられなくなるのです
・お腹が満たされることで頻回な授乳を妨げるリスク
ひとつ前の投稿で頻回に授乳することの大切さをお伝えしました
産まれた直後、赤ちゃんの胃袋の容量はとても小さいです
ミルクを飲んだらその分飲めたはずの母乳は飲めなくなります
ミルクを“足す”ことは難しいです
ミルクが母乳に“置き換わって”いると考えてみてください
・人工乳首を使うことで直接母乳を飲むことが難しくなるリスク
人工乳首と直接母乳では使う筋肉も乳汁の出方も全く違います
どちらも器用に飲める赤ちゃんは稀です
一度人工乳首に慣れてしまうといわゆる母乳拒否な状態になることが多いです
赤ちゃんに拒否された(実際は混乱してるだけですが)と感じることで、精神的にもダメージを負ってしまう方もいます
これを防ぐためには、もしミルクを与えることが必要な場合はカップやスプーンで飲ませるという方法もあることを知っておきましょう
※K2シロップなど必要なお薬はもちろん飲ませるべきです
脳出血や消化管出血を防ぐことの方が重要だからです
その際も人工乳首を使わずに飲ませることが理想的です
・色々な授乳の姿勢を教えてほしい。楽に授乳するコツを教えてほしい。
最初の3日間を過ぎても、赤ちゃんが1回にまとまった量の母乳を飲めるようになるまでは頻回授乳が続きます
ずーっと授乳しているので、少しでも無理がある姿勢だとあっという間に身体のあちこちが痛くなります
赤ちゃんと目を合わせて愛着を育むことも大切ですが、首を痛めるのでほどほどにしましょう
特に背もたれに寄りかかっての授乳(レイドバック法)と添い乳をマスターしておくと楽です
こちらも参考にされてください
添い乳↓
https://llljapan.org/faq51/
抱き方↓
https://llljapan.org/faq25/
・少なくとも産後3日間は親しい家族以外の面会は断って休める時には休ませてほしい。
3日間は母乳の工場を増やすためのゴールデンタイムです
授乳と身体を休めること以外はなるべくしなくていいようにしましょう
面会OKな方に条件をつけるとするなら
・面会中でも横になって休める
・その人の前でも授乳できる
といったところでしょうか
それ以外の人はお断りしましょう
あらかじめ病院に伝えておくとスムーズです
バースプランは分娩中だけでなく、産後の過ごし方も希望してよいのです
産院もクレームを避けたいばかりに母乳育児や母子同室をあまり勧めないという実情もあるようです
結局、退院してから困ることになるのに…です
このnoteがこれから妊娠・出産される方、2人目は母乳で苦労したくない方のお役にたてたら幸いです