京都散歩 下鴨神社/上賀茂神社/大田神社
今日の出来事。京の出きごと。
令和6年10月10日(木)
今日も今日とて京都へ出かける。
これといった趣味もない独り身のわたしにとって、休日は休養という名目で無為に過ぎていくだけの時間だ。
放っておくとずっと家の中にいて、特に何もしないまま…気がつくと日が暮れている。
出かける用事も行き先も無いのだから、仕方がない。
それでも、何もせずに過ごした貴重な休日のことを思うと、どうにも気が重くなる…。
だから半ば強引に外に出て、何かをしていたようなふりをする。
結局のところそれが無為であることに変わりはない。
何かをしていても、何もしていなくても、何にもならない。
それでも、いくらか自分を誤魔化すことはできるらしい。
そんなわけで、昨日の夜から観光ガイドをパラパラとめくり、行く先を賀茂川流域に定めることとした。
下鴨神社
北浜から京阪電車に乗り込み、出町柳駅へ向かう。
武光誠 著「七福神の謎77」を読みながら、特急電車に揺られること50分。
今日の京都はよく晴れていて少し日差しがあるものの、さすがにもう暑さは感じない。
電車で少し酔ってしまい、出かけたことを早くも後悔しかけていたのだが、晴れ間にでると気分が良くなる。
京都は空気が、いい。
大阪で暮らして早4年になるが、何せ空気が悪いのだ。
単に大気の質がよくないというだけではない。背の高い無機質なコンクリートの塊が無数に聳え立ち、西日本の経済の中心だと威張っている街は、わたしを窮屈で陰鬱な気持ちにさせる。
来年はなんとかして、京都に移り住もうと思っている。
京都は住みにくいとのたまう人もいるが、わたしはどんなところも住んでみないと分からないと思っている。
良いところも悪いところも、自分の肌で感じてナンボというものだ。
1年でも住んでみて自分には合わないと思ったら、また別のところへ行けばいい。
なりたい人間像なんてものを訊かれると困ってしまうわたしだが、観てもいない映画についてあーだこうだと講釈を垂れるような人間は、少なくともそうではないと思っている。
そんなことを思いながら、下鴨神社へ向かう。
下鴨神社は鴨川へ続く2つの河川、東の高野川と西の賀茂川の合流地点のほど近くに位置している。
この合流地点にできる三角形の土地は鴨川デルタなる名前で呼ばれていて、ドラマの撮影地なんかで有名だそう。
鴨川の河川敷では結婚写真なんかを撮ってるのをたまに見かけるが、ここでも何かしらの記念撮影をしていた。
参道は幅が広く、空には背の高い木々がかかって陽射しを和らげ、とても涼やか。
途中に河合神社という摂社がある。
祭神は玉依姫命(タマヨリヒメ)で、神武天皇の母。美麗の神として祀られている。
方丈記で知られる鴨長明ゆかりの神社でもあるようで、長明が過ごした方丈庵が再現されている…らしいのだが、移設中で今は見られないとのこと。
下鴨神社は正式名称を賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ)という。
祭神は玉依姫命に加え、賀茂建角身命(カモタケツヌミノミコト)で、神武天皇を先導した八咫烏はその化身とされている。
古事記と日本書紀しか知らないわたし的には馴染みがない…。
この辺り一帯を治めていた賀茂県主氏(かものあがたぬしうじ)の氏神様であるという、やんわりとした理解。
下鴨神社は全体として美麗祈願や縁結び、安産祈願といった女性に向けたご利益が推されていて、若い女性の姿が多く見られる。
わたしが普段足を運ぶところは女性が少なく、なんなら人自体が少ないので、若い女性が嬉々としている境内はなんとも居心地が悪いというか、「わたしって場違いでは?」なんていう気持ちが…。
特に、縁結びでご利益があるとされる相生社では、絵馬を求めて売り場に女性が詰めかけている。
相生社はお詣りの作法があるようだが、とても彼女たちに混ざってそうする心持ちにはなれない…。
わたしが置かれている状況を鑑みれば、そんなことを気にしている場合ではないのかもしれないが…。
人が少ないタイミングを見計らって、なんとか普通にお詣りを済ませる。
帰りに神社の近くにある「賀茂みたらし茶屋」でみたらし団子をいただく。
この手の店はたいていひどく混んでいるものだが、平日ということもあってか空いていてゆっくり過ごすことができた。
団子はとても素朴な味わいでわたし好み。こういうのでいいんだよこういうので。
大田神社
賀茂川の上流へ向けて北上を開始。
上賀茂神社摂社の大田神社を目指して歩き始めたのだが、ここで目算を誤る。
実のところ、下鴨神社から上賀茂神社へはけっこう距離がある。
3kmほどの道程、歩きだと40分はかかる。
それでも、ちょっと長い道中になるが街並みや店を見て楽しもうと思っていたわたしは、見事に想定を裏切られることになった。
この上賀茂という地域はごく普通の住宅地で、道中に目を楽しませるようなものは何も無いのである。
賀茂川沿いの賀茂街道という道も、河川敷に沿ってずっと車道がのびているだけで、店などはない。
そんなわけで、普通の住宅地を45分もとぼとぼ歩くことになってしまったのである。
これからお参りに行く人には、市バスの利用をお勧めする。
なんとか大田神社に到着。
特段の参道もなく、普通の住宅地を抜けると山の麓に唐突に鳥居があるというのは、前回の赤山禅院と同じ。
立派な鳥居だが、小さくて穏やかな神社である。
大田神社の祭神は天鈿女命(アマノウズメ)。
「えっ、ここで主祭神がアマノウズメ?」という感じである。
天鈿女命は古事記で有名な天岩戸隠れの逸話で登場する女神で、引きこもりの天照を誘い出すために神々は祭りを催すのだが、天鈿女命はそこで踊りを披露する。
その踊りがあまりに激しかったため、着物が乱れ、乳房があらわになり、ほぼ全裸になっていたのである。
そんな彼女を見て一同は大爆笑、盛り上がった外の様子を伺おうとした天照は引っ張り出され、世界に光が取り戻される…。
個性的な神がたくさん登場する古事記の中でも、特に印象的なエピソードの天鈿女命が、こんなに閑静な住宅地の、静謐な雰囲気の社で祀られているというのはちょっと意外である。
現在では芸能の神、朝廷に仕える巫女の一族猿女君(さるめのきみ)の始祖とされている。
宮司さんはおらず、御朱印は書置き。
お金を備え付けの封筒に入れてポストに入れ、御朱印を引き出しからいただくという、なんとも素朴な無人販売所スタイルである。
ちなみに大田神社はカキツバタの名所とのこと。花の見ごろは5月上旬になるもよう。
上賀茂神社
大田神社から西へ徒歩5分ほどで、上賀茂神社に到着。
境内へは大きな鳥居を3つ抜けることになる。
広い参道の両手には青々とした芝生が広がっていて、非常に開放的な雰囲気。
上賀茂神社は正式名を賀茂別雷神社(かもわけいかづちじんじゃ)という。
祭神は賀茂別雷命(カモワケイカヅチノミコト)。
玉依姫の子…ということは神武天皇の兄弟ということになるのだろうか?
神武天皇の皇后の媛蹈鞴五十鈴媛(ヒメタタライスズヒメ)も玉依姫の子ということらしく、ざっくり調べたがよく分からないので今後の課題としたい。
境内に入ると何やら人の列がぞろぞろと。宮司さんの姿も見える。
どうやら南高梅という紀州梅干しの会社が奉納に来ているようである。
個包装の梅干しをいただいた。
さすがに大きな神社、特別な祭祀の日でなくてもこんなことがあるのだなぁと妙に感心してしまう。
拝殿でお詣りし境内をぐるっと回った後、御朱印をいただく。
式年遷宮は令和18年…。
12年も経ったらわたしも立派な中年だが、その時もまたこの地を踏んでいるだろうか。
今日初めてここに来た時のことを覚えているだろうか。
時刻は3時前。まだ時間も過処分エネルギーもいくらか残っているが、帰路につくことにする。
バスに乗って地下鉄北山駅へ。京都駅へ移動して、京都タワーで七味やら八ツ橋やらを買って帰る。