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おかあちゃまに会いに。

「ヤダヤダ!おかあちゃまに会いたい!!」
薄闇の中で子パンダは、泣きながらコウコウに訴えていた。
「おかあちゃまはね、病気なんだよ」
「おとうちゃまは、おかあちゃまのこと、心配だからって
会いにいったじゃない!!どうして、ぼくはダメなの?!」
丸く黒い目から、涙がぽろぽろとこぼれる。
「そ、それは・・・」
コウコウは言葉に詰まった。
やっと生まれたのに、短い時間しかいれなかった母と子。
それでも、あの時のにおい、やさしく甘噛みして
抱き寄せてくれたことを、子パンダは覚えていた。
やさしく呼んでくれたことも、みんな。
おかあちゃま、おかあちゃま。
ぼく・・・ぼく・・・会いたい・・・会いたいよぉ。
「会いに行く!おかあちゃまに会いにいくぅ!!おかあちゃまー!!」
「あっ!!コラ!待ちなさい!!」
子パンダはコウコウを振り払い、暗闇の中を駆け出していった。

その頃の王子動物園。
ホッキョクグマのゆめが、獣舎の中のプールで泳いでいる。
「る、るるん」
歌を口ずさみながら、お気に入りのおもちゃを使って遊ぶ姿を、楽しそうに見ているお客さんもいれば、カメラを向けている人もいる。
「ゆめちゃん、可愛いね」
皆の口元に笑みがこぼれる。
「るるるル・・・」
ゆめの動きが止まった。アクリルの向こうにいる小さな子パンダが、ぽてぽてと歩いているのが見えたからだ。
子パンダとゆめの目が合う。
「おかあちゃまぁ、どこ?」
子パンダが心細げに語りかけている。
コウコウの元を飛び出したのはいいものの、タンタンの居場所がわからず、途方に暮れていたのだ。
「タ、タンおばちゃぁぁぁん?!」
ゆめの声が響き渡り、お客さんも飼育員さんもびっくり。
「えっ、何?!」
「どしたの?ゆめちゃん」
「うわぁぁぁぁぁん!!」
びっくりした子パンダは、獣舎を飛び出した。
「おかあちゃま、おかあちゃま、どこぉ?」
子パンダはあちこち走り回る。
「ねぇ、おかあちゃま知らない?」
「おかあちゃまぁ」
泣きながら、子パンダは尋ねる。
「えっ、あの子」
「もしかして」
「ええっ」
でも、動物たちはびっくりして言葉にならない。
「おかあちゃまぁ・・・おかあちゃまぁ・・・」
疲れ果ててきた子パンダの足取りが重く重くなる。
その時だった、マルヌネコが声を掛けた。
「タンタンなら、パンダ舎にいるよ」
「・・・パンダしゃ?」
子パンダはマルヌネコのいる獣舎に近寄った。
「おかあちゃまは、そこにいるの?」
「そうだよ。ここを降りていくといい」
マルヌネコは、道を指し示した。
「ありがとうごじゃいまつ」
涙でぐしゃぐしゃの顔で、子パンダは礼を言い、走って行った。
子パンダは、お客さんの間を駆け抜けていく。
タンタンに会いに。会うために。
やっとたどり着いたパンダ舎の前の柵を、うんうーんとくぐり抜け、たまたま開いていたドアから中に入る。
電気はついているけれど、ちょっと薄暗くてひんやりした
部屋が並ぶ。
「おかあちゃまぁ」
子パンダは、小さく小さく呼びかける。
「おかあちゃまぁ・・・どこぉ・・・?」
ウロウロしていると、人間の気配がする。
「爽爽、おいでー」
ヒタヒタと床を歩く音が、子パンダの小さな耳に入ってくる。
こっそりのぞくと、そこにいたのは。
「おかあちゃま!」
「賢いな。さぁ、行っといで」
庭と部屋がつながっている鉄の扉を開けると、タンタンは
ゆっくりと外に出かける。
外は鳥のさえずる声、動物たちの声、お客さんたちの声や気配。木々の匂い。光や日差しの暖かさ、優しい空気、王子の山のかみさまもそこにいた。
「やぁ、タンタン」
「こんにちは、かみさま」
お気に入りの岩まで歩き、身体を乗せる。
「いいお天気」
ずっとずっとここで過ごせたらいいな。
ずっとずっと、みんなに囲まれていたいわ。
黒いきれいな毛並み、白く大きな背中。
ところどころ検査のためのおハゲがあるけれど、
コウコウもいるし、私だいじょうぶ。
タンタンはうれしそうに息を吐くと。
「おかあちゃまぁ!!」
大きな声で、涙でぐしゃぐしゃになった子パンダが
一所懸命に駆けてくる。
「えっ」
ぽすっと、子パンダは飛び込んできた。
嗅いだことのあるにおい。抱いてなめてあげた小さな小さな身体。
「・・・なの?」
タンタンの目が潤む。
子パンダはペロリと、タンタンの顔をなめる。
「うんっ」
「・・・こんなところもコウコウそっくりね」
子パンダを抱きしめる。
ずっとずっとこうしたかったわと。



今回は、タンタンと子パンダのお話です。
タンタンとコウコウには、2頭の赤ちゃんが生まれたそうですが、小さいうちに亡くなっています。
人間からすれば可愛い体型のタンタンですが、アドベンや上野のパンダに比べると、手足が短く小柄なのがネックだったようです。
その後、タンタンは偽妊娠に偽育児と経験。
今でこそ、自然交配による出産で子供が生まれていますが、あの当時は、人工交配。
子供を産ませるためとはいえ、パンダ同士の相性の良し悪しに関わらず行われた行為。
そういうのを考えると、気持ちはフクザツです。
でも、タンタンは愛情あふれるお母さんになってだろうなと思ってたら、子パンダ2頭の名前も勝手につけてしまってました(ごめんね)
神戸生まれの神戸育ち、関西弁バリバリのパンダが
見たかったです。
余談ですが、今回の話の後、パンダの里親になれば、名前がつけられるというので、某協会のHPを見たのですが・・・。
そのうち、名付け親になれたらいいなと思います。






















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