はずかしがりやのあのこ。
笹がたくさん敷かれたお気に入りのベッドの上で、
タンタンは眠っている。
すぅすぅと吐息をたてて。
夢をみているのかな?
あのね、
お庭でウトウトした時の事なんだけど、気配を感じたの。
そう、子パンダの。
じっと、こっちを見てるの。そして、首を少しかしげるの。
「どうしたの?」って聞いても、何にも答えてくれない。
びっくりして、逃げていっちゃうのよ、あの子。
あなたは、だぁれ?
祝祭の日。
母子パンダが、庭でまどろんでいた。
1頭はタンタン。
1頭はタンタンに会いたくて、コウコウの元を
飛び出してきた子パンダ。
「・・・おかあちゃま」
子パンダは、タンタンの腕の中でコロンと寝返りを打つと、
タンタンは返事をするように、顔を何度もなめた後、まどろむ。
その様子を見守る山のかみさま。
そして、離れた場所で二人を見守るコウコウがいた。
少し遠くには、園内にある観覧車が、青空の中をゆっくりと回っている。
「いい天気だなぁ」
コウコウは大きなあくびをし、空を仰いだ。
「きみたちが来てくれてよかった」
山のかみさまが微笑んだ。
「かみさま」
コウコウが、照れくさそうに笑う。
もうすぐ、桜の季節。
パンダ舎のそばにある桜は、そのつぼみを膨らませ、いつか花を咲かせるだろう。
その頃には、大好きなタケノコやりんごを、口いっぱいに
頬張らせて食べる母子が見れる。
時折、冷たい風が吹くけれど、その風はやさしくつぶやく。
もうすぐ、もうすぐだよ。
春がやってくるよと。
その時だった。
モートの塀の向こうに、子パンダがいた。
ずっとタンタンたちを見つめている。
「・・・おかあさん」
小さな声で呼んでみるけれど、気づいてもらえない。
「おかあさぁん・・・」
さみしそうな声で、子パンダはもう一度、タンタンを呼んだ。
でも、気づいてもらえない。
子パンダはうなだれた。
甘えたくても、そばに行きたくてもいけないよ。
だって、だって・・・。
何も気にせずに、甘えられる弟がうらやましい。
ぼくだって、おかあさんに抱っこして欲しいよぉ・・・。
気配に気づいたのは、タンタンに甘えてた子パンダだった。
「おにいちゃん?」
「どしたの?こっちにおいでよ」
弟パンダがタンタンの腕から出て、駆け寄った。
「・・・だって」
おにいちゃんの子パンダは、モジモジとしている。
「何、話していいか、わかんない」
「だいじょうぶ、おかあさんのそばに行ってごらん」
山のかみさまが、そっと後押しをする。
「そばに行って、大きな声で呼んでごらん」
「うん・・・」
そろそろと、子パンダはタンタンに歩を進める。
そしてー。
「おかあさんっ!」
大きな声で呼んでみた。
「きゃっ!」
タンタンの大きな身体が、ぷるんと飛んだ。
「あ、あら、あなたは・・・」
こっちをずっと見つめてたあの子。声を掛けちゃうと逃げていってしまって。
「おかあちゃま、おにいちゃんだよ」
「えっ」
弟パンダが、うれしそうにおにいちゃんパンダに、まとわりつく。
そう、この子も私の子だったのね。
だから、ずっとこっちを見てて、私も気になって・・・。
「あの・・・あのね・・・ずっと会いたくて・・・えっと・・・」
はずかしがりやの子。タンタンはクスッと笑って、ペロリと
顔を舐めた。
「おかあさん、ここよ」
おにいちゃんパンダは、「おかあさーん!」と、タンタンに
抱きついた。
「おにいちゃんばっかり、ずるーい」
「ぼくのおかあさんだぞ!」
「ケンカしないのよ」
子パンダたちが、タンタンの腕の中を取り合う。
パンダ舎の上に咲く菜の花が、ゆらゆらと風になびいて笑っていた。