いつか、かならず。
雨がしとしとと続く水曜日。
どの獣舎にも、満遍なく雨水が沁みていく。
冷たい雨だ。
もうすぐ、桜の季節になる。
園内の桜の花が咲く。
そして、人も動物たちも、待ちわびた春の日を堪能する。
誰しもが、いつものその日が来ると疑っていなかった矢先だった。
「固形物を食べへんようになったんです」
タンタンを担当する2人の飼育員のうちのひとりが、獣医にそう告げた。
「いつものジュースだけは飲んでくれてるんですが、それもアカン時があったりして」
檻に眼をやると、検査が済んだタンタンが、柵を握り立ち上がる。
「ジュースだけは別よ?」
と言わんばかりの、ガシャンという音をたてる。
でも、しんどいのか、タンタンはへたり込んでしまった。
「食べへんってわかってても、いつもどおり、りんごやにんじんは用意してます。でも・・・」
持ってたりんごを握りしめ、縮れ髪の飼育員はうつむいた。
何度も何度も色んな事があって、そのたびにみんなで乗り越えてきた。
けれど。
どうなるんや、あの子は。
こんなにがんばってんのに。
泣いたらアカンってわかってるけど、泣きそうになる。
通訳の女性が、中国から来た獣医に母国語で、今の会話を伝える。
それが終わっても、その場にいる者は次の言葉を出せなかった。
その時だ。
大阪から来ているあの獣医が、言葉を発した。
「あせらずに、彼女のペースでやっていきましょう。
ゆっくりのんびり。タンタンの生活の質を壊さないように。
それから、皆、かなり疲れています。それぞれがゆっくり
休むようにしてください。
ぼくらの生活も重要です。
誰か1人でもしんどそうな顔をしてたら、タンタンは
もっと心配します。あの子が敏感なのは、ご存じのはず。
ここにいるぼくらも、ファンの人らも皆でチームタンタン
なんです」
そう言われてもなぁと、皆はうなだれるが、獣医は
言葉をつなぐ。
「この雨が終わったら、春です」
冷たい雨に打たれても、桜のつぼみは耐える。
あたたかくなり、太陽の光を受け、つぼみは次第に膨らませ花を咲かせる。
「桜を見ましょう。タンタンとぼくらとファンの人みんなで」
タンタンの容体が、思ってたよりも重篤なようで、
ニュースで報道された時は、かなり動揺しました。
その話をすると、家族から決定的な言葉が返ってきて、凹む凹む。
わかっちゃいるけれど、言わないで。
わかりたくないから、言わないでみたいな感じです。
我が家にも、高齢のお嬢様がいらっしゃいます。
こちらのお嬢様も最近、体調が思わしくなく、息をすると
しんどいと言い始めました。
寒さが堪えるのか、息苦しいのが増えるようになり、頻繁に苦しがるので、病院に行き、検査を受けましたが、問題なし。それでも息苦しさは変わらず。
病気もほぼせずに、元気だったので不安です。
日々の会話の中で、冗談めかしに「タンタンとリンクしてんの?」と言っていますが、
内心はヤキモキ。いつもどこか気にしています。
高齢のお嬢様2人へ。
春になったら元気になるよ。
だから、ゆっくりのんびりやりすごそうね。