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BUCK-TICK『異空 -IZORA-』について走り書き(記録として)

デビュー36年目の5人組バンドBUCK-TICKが23作目に出したアルバム『異空 -IZORA-』について、記録を兼ねてまとめます。

収録曲は以下の通り

  1. QUANTUM I

  2. SCARECROW

  3. ワルキューレの騎行

  4. さよならシェルター destroy and regenerate-Mix

  5. 愛のハレム

  6. Campanella 花束を君に

  7. THE FALLING DOWN

  8. 太陽とイカロス

  9. Boogie Woogie

  10. 無限LOOP -IZORA-

  11. 野良猫ブルー

  12. ヒズミ

  13. 名も無きわたし

  14. QUANTUM II

まず全曲に対して簡単に感想を述べようと思う。

QUANTUM I
途切れ途切れの電子音に怪しげなシンセが重なり合うインスト曲。不気味な得体の知れない何かが始まるという高揚感を与える。

SCARECROW
和テイストが印象的で通底する暗く重いサウンドはゴシック・ロックといった感じ。孤独と行くあてのないどん詰まり。「誰か」を探すものの誰もおらず、雨に濡れ泥に塗れたカカシ=scarecrowと自らを重ね、鴉に苛立ち影に怯える。「逃げられない 俺はもうどこにも」「行くあてもないさ そうさ」が繰り返されるごとに声音が重なり、嘆きを強め、同時に諦念も深まる。死を目前にした暗澹とした絶望が眼前に広がる。1曲目から真っ暗です。

ワルキューレの騎行
戦死者を選ぶ存在であるワルキューレの騎行(騎兵の突撃)は、戦場で孤独に死に行く者にとっては絶対的な審判者の来訪を示すのか。ワルキューレに対して愛してくれと叫び、敵に対して深い恨みと殺意を向ける。かと思えばワルキューレに対して自分の原罪を訴え、殺してくれと叫ぶ。不協和音的なギターと、シンセと弦の音が、その緊張を更に高める。バックコーラスが死の兆候を高めるかのよう。

さよならシェルター destroy and regenerate-Mix
先の二曲で散々孤独と死との絶望的な暗さを味わった後、バイオリンの優しい響きで安心したのも束の間、再び暗さに突き落とされる曲。曲調には希望と明るさが伴うし、サウンドも弦主体で美しいんだけど、現実は戦争の狂気と家族の辛く崩れる愛。爽やかで美しい、そして余りにも悲しい愛の歌。アウトロには爽やかな希望が満ち満ちていることが唯一の救い。

愛のハレム
妖しく艶かしいサウンド。パーカッションがとてもエキゾチックでボーカル櫻井敦司の低音がエロい。老婆の詞は本当に老婆の声に聞こえるから凄い。いくつものダブリングが重ねられていて、しっかり聞くと(一聴でも勿論だけど)とても面白い。

Campanella 花束を君に
これも櫻井の歌声の幅広さに驚く。ハレムは老婆だがこちらは幼い子供。ただ内容はこれまた実に重苦しく、平和への祈りが通底している。戦地に赴くパパに「行かないで」「殺されちゃう ほら血が出ている」、泣いているママに「抱きしめていてあげる もう泣かないで」との子供の願いは、カンパネルラ=鐘への祈りに込められる。この世界観を数行の歌詞で作り上げる櫻井の作詞技術たるや。「兵隊さん、マシンガン、ミサイル、花束」「子供たち、おとうさん、おかあさん、花束」と並ぶ詞は戦争の辛さと悲しさをこれでもかと突きつけ、明るいメロディーラインとシンプルなギターリフが際立たせる。何度も聞いていると泣きそうになる。

THE FALLING DOWN
一転、低音が響くロック調に。戦地での人間の狂気を描いているよう。繰り返される「さあ飲み干せ 喰らえ 謳え 夜だ」とか狂気でしかない。喜び勇んでfalling down=死に向かっている恐ろしさよ。

太陽とイカロス
このアルバムで一番好きな曲。テクノで軽快に進む軽やかな曲だし、歌詞もとても爽やか。「青イ空ヲ何処マデモ行コウ鳥ニナッテ風ニナッテ サア逝コウ」とか。ただ、燃えている水平線からあなたに会いに行くために旅立つのはイカロス。太陽に向かったイカロスに待ち受ける定めは翼が溶けて落下するという死。自由を求めて、愛を求めて、燃える地上を飛び立ち向かう先は死。「悲シイケド コレデ自由ダ 涙ガ ボロボロ ボロ 溢レタ」、悲しすぎる。会いに行くあなたももう死んでいるのかもしれない。爽やかでかっこいいメロディなのに、悲しすぎるよ。ずっと「悲シクハナイ」と繰り返してるのに一度だけ「悲シイケド」と言ってしまってる辺りにゾッとした。

Boogie Woogie
不安なく楽しい曲。ベースがとってもかっこいい!ここで気持ちを落ち着かせて最後に持っていこうという魂胆か。

無限 LOOP -IZOLA-
なんとここにきてシティポップに。恐ろしい振り幅。もはや不気味。
断続的に繰り返される夢の景色が美しい恋の歌ですね。ひたすらに綺麗な光景が脳裏に浮かぶ。そして、櫻井敦司の歌唱力が際立つ。

野良猫ブルー
ジャズサウンドが印象的。合間に入るピアノが心地よくて耳に残る。野良猫に縋る男の寂しさが漂う曲。

ヒズミ
夢とも現実とも区別がつかないようないびつな状態を「夕暮れブランコ ゆら」と「信号 赤に変わる」などの表現でさりげなく、しかし確かに表現している。加えて櫻井の声の表現力も光る。限りなく黒に近いグレーを思わせる息苦しさと気持ち悪さに覆われてしまうのに、何度も聞いてしまう。お先真っ暗自死の五歩手前くらいの情緒をフォークの趣きがぬるっと届けてくれる感じ。

名も無きわたし
ヒズミで沈みきった心を包み込んで癒してくれる。和の旋律が、出会えた喜びと別れの切なさとが混じり合う中で、今後もずっと、永遠に、狂い咲く花たちが咲き乱れていて欲しいと博愛を願わずにはいられない。この曲が最後で良かったと心から思う。

QUANTUM II
切ないインスト曲。終わりが悲しいような、ようやくこの波が収まるのかとホッとする気持ちもあるのだけど、結局しゅんとしちゃう。

さて、全曲を簡単にレビューしてきたが、やはりBUCK-TICKの中で最高の一枚に入る出色の出来であることは間違いない。孤独、閉塞、絶望、戦争、死、子供達、生命など、テーマはどれも重苦しいものばかりが並ぶが、それでも最後には前向きに生きる力を与えてくれる。技量の高さは勿論だし新たなジャンルへの挑戦もあった。還暦を迎えるメンバーもいる長寿バンドがここに来てベストを更新してくることの凄みも感じた。

改めて、BUCK-TICKというバンドを象徴するアルバムとして今後も語り継がれる一枚なのだと実感している。

最後にジャケットについて触れておこう。平和の象徴である鳩が∞を象るジャケットは、永遠の平和への願いなのか、はたまた繰り返される愚行への皮肉なのか。ジャケットも含めて最高でした!


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