毎月短歌連作部門 斎藤君選7

こんにちは。禄高は三十俵二人扶持、令和の貧乏御家人こと斎藤君です。今月も毎月短歌連作部門の選をさせていただきました。おもしろいネタもないので早速発表です。ででん。

一席 封印されしエクゾディア賞

「たたかわないで眠る」 うすいまゆ

明喩と暗喩の使い分け、そして純文学のように示唆に富んだ物語性がすばらしいです。ドキッとするような鋭い比喩が使われたと思えば美しく静かに読者を包んでくれる表現も使われており、緩急の付け方もただただ「凄い」の一言です。もう選者代わってください来月から。

二席 封印されし者の右腕賞

「モノラルの街で」 ほうれんそう(せんぱい)

モノラルで鳴る音をテーマにした連作。主体は片耳が聞こえないのでしょうか。全体的に良い意味での不安定さが滲み出ており、それが読者をより引き寄せます。「感情を直接的に言語化した歌は簡単なようでその実非常に難しい」という個人的な考えがあるのですが、この連作の場合はあまり気にならずさらりと読めました。時折入る破調の歌も効いていると思います。このテーマでもっともっと読みたい!と思わせてくれる作品でした。

三席 封印されし者の左腕賞

「36.6℃」 ぐりこ

「熱」をテーマにした連作。日本の夏という季節のもつ不快さがしっかりと伝わり、その中で動く物語もとても興味深いです。十首という数の中でそれぞれの歌が過不足なくその役割を果たしていて、無駄な歌がありません。作者の確かな技量を感じさせてくれる作品でした。

続いて一首部門です。ででん。

サイクロプスは目を狙え賞
白雨冬子 「めずらしいかたちのなかにさわれない目」より

めずらしいかたちのなかにさわれない目をまばたかせ海と別れた

スタバがあれば都会ですか賞
真朱 「16時間前のあなたへ」より

想像の空気はとても澄んでます 添付ひらけばシアトルの青

あおぞらはおともだちで賞
りんか 「みずいろ」より

油絵は色をまぜると濁るから透明感を空にだしたい

寿司ってあんたこれ助六じゃねえか!賞
間由美 「義父の一周忌」より

法要を終えて戻ればTシャツで寿司をつまんで義父を偲びぬ

夫婦とは忍耐の上に咲く大輪の花で賞
まちのあき 「ひとなつ」より

傷つける明るさだったあの日々の光を向けるように向日葵

中華クラゲ永遠に噛めるで賞
梅雨すみれ 「海」より

海岸に打ち上げられた透明なクラゲの死体きれいに浮かぶ

男は黙ってサッポロビールで賞
りのん 「散骨」より

ふたりでも入らなかったビアパブで町の名を持つビールを空ける

リビングデッドの呼び声賞
杏 「フウセンカズラ」より

盛夏さえボタン一つで終わらせて秋の気配は遠いリビング

エアマックス狩りま賞
藤瀬こうたろー 「ひと夏と、3分の2」より

スプレーで壁にSummerと書かれててたぶん僕らが10代の夏だ

ヨギボーはヨガ用スティックではないで賞
水川怜 「クッション」より

寝ていればかわいいのだけど クッションは子を包むよう形を変えて

フジツボに気をつけま賞
菜々瀬ふく 「裸足でゆくの」より

パンプスでぶらんぶらんと空気を殴る 足裏は傷つけばいい

池畑慎之介とパン食いま賞
西見伶 「透明」より

透明な水もいつかは染まることネバーランドを地図に求めた

毛細血管鍛えま賞
汐留ライス 「整いたくて・・・」より

留置場の中はひんやり冷えていて整いながら裁判を待つ

宇宙と書いてソラと読みま賞
たたみがわろろ 「うねる生活」より

幾重もの障害物をかきわけて5%の空が配られる

単騎千里を走りま賞
帰ってきた笛地静恵 「日常という惰性は」より

短期での地震予知など不可能とわかっていても我の短気は

ATGでは遠雷が名作で賞
葦原真魚 「子守歌」より

幾枚も呼吸重ねて眠りゆく子よ遠雷を夢に招くな

聖なる鹿殺し賞
illy / 入谷聡 「八月の鹿」より

横断鹿道 森から角がつらなって軽トラはそのほころびを待つ

刀舐める演出は財津一郎からで賞
水也 「憧憬の海」より

瑣末事だいじにとっておきたくて硝子を舐める心地でいたの

男性は洋梨型に太るで賞
おんわないぬ 「赤星病」より

洋梨を両手で丸くつつむように秘密を守る近代都市の

以上です。今月は特に力作揃いでめちゃくちゃ読み応えありました。たくさんのご投稿誠にありがとうございました。ではでは。

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