毎月短歌連作部門 斎藤君選9

こんにちは。つい先日、角川短歌賞で私の連作が候補に残っていたので「今日はお祝いじゃい!」とか言ってケーキを買ってきたりピザを頼んだりちょっと良い肉を焼いてみたりしたのですが、結局そこは野郎の独り暮らし。静かな部屋で淡々と響く自分の咀嚼音に耐えきれず、思わず涙がこぼれました。知ってましたか?人は本当に孤独になった時、全裸でタクシードライバーを観るんですよ。まぁトラヴィスのように私に救いは用意されてないんですが。ふはは。自嘲。

そして今月も毎月短歌連作部門の選をさせていただきました。なんと今回は過去最多の投稿数です。たぶん。皆様本当にありがとうございます。それでは発表です。ででん。

一席 湖面 わくわくコチュジャン探検隊

この筆名をもってして、どうした?何かあった?話きこか?と言いたくなるような完成度の作品でした。語の思わぬ組み合わせから生まれる、言葉だけでしか成し得ない世界観の広がりや、伝わってくる感覚の奥行きがすばらしいです。どの言葉も代替がきかない、確固たる透明感をもった美しい連作でした。

二席 ぬいぐるみ引退 onwanainu

語の思わぬ組み合わせによる世界観の広がり、という点で一席の作品と並ぶ素晴らしさがあり、さらにこちらの作品には一席の作品にはなかった良い意味での「軽さ」がありました。こちらもかなり完成度の高い連作だと思います。じゃあなんで二席なの?って言われたらもう「ギリギリで好みの差」としか言いようがありません。ほら、私の作品て重いのばっかりじゃないですか。なのでより共鳴したのは一席の作品、より憧れるのはこちらの作品、くらいの違いです。二人とも来月から私と選者変わってください。

三席 アウト・オブ・ファッション 海老珊瑚

作歌に挑戦的な試みが感じられ、とても興味をそそられました。ハートマーク、四句切れ、読点、大胆な破調、括弧など、僅か八首の中に見所が沢山あります。それでいて大事なところは定型の歌でキッチリ決めにきており「こやつ・・・できる!」感がハンパないです。連作としてのクオリティを保ちつつ、前衛的な姿勢がとても良いと思いました。

続いて私が勝手に設けた一首表彰のコーナーです。ででん。

ぼ、ぼ、ぼ、ぼくはおにぎりがすきで賞
仁藤えみ 「肉を削ぐ」より

生きるため詰め込んでいるおにぎりの一粒ずつが胃液に絡む

レンズ豆はカレー派で賞 
水の眠り 「遠景に映える」より

透明なレンズをあらう美しい横顔のひとの白いゆびさき

一本逃したら終わりで賞 
わかば 「旅立ち」より

平日の田舎の駅に始まりも終わるドラマもちゃんとある事

おい!俺のことで賞 
川瀬 凪 「改札口がわからない」より

本好きなちょっと気持ち悪い人の読書の時間は守りたい

ショパンの耳って高級食パンみたいで賞 
杏 「花切り」より

中秋のショパンの耳をとき伏せて絡まる風にあなたの声を

Park of the dead賞 
あさの つき 「五時になったら帰りましょう」より

地球から皮と肉とを剥ぎ取ったような遊具でふたりは廻る

意外とLが困るで賞 
くらたか湖春 「テトリス」より

噛み合わぬことがだんだん増えてゆきもうこれ以上消せぬテトリス

やっぱりMONOで賞 
小仲翠太 「ユスリカ」より

消しゴムをかけるみたいにこする目になかったことにできない記憶

ちいさいあきって何で賞 
宇井モナミ 「まどろみの箱」より

園児らはお散歩カートに乗せられてそれぞれに秋を指差している

俺は「泣ける!」って宣伝を許さないで賞 
反逆あひる 「過ぎた日に」より

ごめんなさい私も子どもだったのにきみの涙を疑っていた

フンじゃなくて土地転がしま賞 
もくめ 「空になる部屋」より

そうだけど家族がいるということに安堵する日もあるよスカラベ

市場規模では負けないで賞 
別木れすり 「人形にも」より

怪獣のソフビに踏まれたバービーが弱いだなんて誰が決めたの

クリーニング屋直行で賞 
納戸青 「甘ちゃん」より

制服にまだ毅然とは反対の意味で消せないベリーソースが

Wが4画なの納得できないで賞 
梅雨すみれ 「love song」より

やり直すことはいつでも出来るはず例えば九の書き順だとか

コンタクト外しま賞 
楼瑠 「Claude Monet」より

アトリエに舟をうつして揺蕩えば水晶体に流れるセーヌ

何はなくとも保険証で賞 
りのん 「明日への鞄」より

明日への肩掛け鞄に詰めこんだ必需品とは私のかたち

あえて止めはしないで賞 
宇佐田灰加 「水族館にいこう」より

まいばすでアルミホイルを買い込んでわたし今からペンギンになる

一応リップ塗っときま賞 
白川侑 「アイスクリーム」より

数学のテスト そのまま春風は口角だけに作用するはず

ふるさと納税は毎年メロンで賞 
真朱 「ロールケーキの幅を決めてる」より

果実から省かれた種 きみといる煩わしさも「好き」に含めた

女は海で賞 
吉田岬 「夢」より

創世を指示するように透明な手が回るたび海が呼ばれる

地を蹴らずに体軸を倒せば楽で賞 
まちのあき 「輪郭を足す」より

踏み出せばかたちの残る雪の日にここまで何歩あるいて来たの

以上です。今月もものすごい数の投稿ありがとうございました。とてもうれしいです。来月もよろしくお願いいたします。孤独が私を殺していなければ。ではでは。

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