正月に餅を食べる資格はあるのか?
「金は天下の回りもの」と言わんばかりに、
稼いだら稼いだ分だけ、朝までたらふくお酒を呑む。
そんな生活をしているその日暮らしの職人がいた。
冬になると仕事は少なくなり、財布の中身もついに空になってしまった。
なんでも相談に乗ってくれる、頼ればなんでも解決してくれる
そんな人がいると噂に聞き、冬を越すためのお金の相談をしようと彼のもとを訪れた。
★「あんた評判だね、ちょっとおいらの相談に乗ってくれないかい」
◆「どうされたんです?お困りなのですか?」
★「いやいや大したことじゃないんだけどね、寒くなると仕事って減るもんでね」
◆「仕事を紹介してほしいってことですかい?」
★「ちげえ、ちげえ、仕事は暖かくなれば増えるから、仕事の世話はいいんだよ」
◆「天気や季節は、私には変えられませんよ」
★「そんなことを出来たら、そりゃ神様だよ」
★「感の悪い人だね、冬を越すのに物入りだけど、お金がないって話だよ」
◆「物入りって、何を買うんですか?」
★「母が新しい布団がほしいって言ってたかな」
◆「新しいってことは、持っているけど古いってことですね。」
★「いや違う、妻が正月らしい食べものが食べたいって言ってたかな」
◆「お節なんかじゃなく、お餅が食べたいってことであってるかい?」
★「うちは家族が多いから、餅っていっても金1枚は必要なんだよ」
◆相談役は、少し間をおいて話はじめた。
◆「あんたが食べたい餅は、春に田植えをし、夏に何度も世話を繰り返し、
秋にやった実ったものを百姓が一つ一つ刈り取ったもんだ。それが冬になり
餅になって、最後はみんなのお腹の中だ」
◆「あんたは正月には餅が食べたい。と言うが、
あんたは、どんな春や夏や秋を過ごしてきたんだい。
正月には餅だと?春夏秋冬ちゃんと当たり前をやってきた人間だけが、その餅を口に運べるんじゃないのかい?どうなんだい」
★「すまねぇ。餅じゃねぇんだ。酒のむ金がなくて。
でも今は酒は飲みたいなくなった。今年は酒も餅もいらねぇ。
再来年の正月に、はずかしくない春夏秋冬を過ごして、腹いっぱい餅が食いてぇ」
★「まったく、評判なわけだ、邪魔したな」
◆「待ちな、金1枚だ。何に使うかは、あんたに任せる。
いい職人は、寒くても仕事があるらしいから、忙しくなっても
正月くらいは休むんだよ」
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