見出し画像

創作ストーリー「森さんと、子熊」

母さん熊は、お腹が空いていた。

生まれた子熊たち
とても元気で
よくお乳を飲んだ。

「昼間、穴から出たら、危ない」と

母さんの

母さん熊から言われていた。

でも、お腹が空いている。

春だから

ふきのとうは、あるだろう。

ちょうど、子熊たちは眠っている。

「ちょっとだけ、ちょっとだけ」と

のそのそ

穴から抜け出して

フキノトウを見つけた。

「近くにあって良かった。」

お腹がいっぱいになった母熊が

振り返った瞬間

全身に痛みが走った。

母さん熊は
フキノトウを食べていただけだ。

でも人間達にとって

自分が見えるところにいた

熊は

殺し屋か

恐ろしい生き物にしか見えなかったから

用意した銃で撃った。

男達は、2人

撃った1人には、来週1歳になる息子がいた。

自分の仕事は、やり終えた。

しかし、やりきれない気持ちで
いっぱいだった。

なぜなら
近くにある巣穴に
小さな、小さな2匹の子熊達がいたのだ。

もう1人が

無口になった彼に言った。

「撃たなければ、

こちらが殺られる」

そう言われても
車の中の
子熊たちの鳴き声が
泣き声に聴こえる。

正義感が強く、真面目な彼は
役に立ちたい、と選んだ仕事だった。

いつもは、仕留めて帰り道

清々しい気持ちでいた。

でも、その時には
胸を張ることが出来なかった。

見つけた子熊達を

とりあえず、車に乗せた。

2人は
山奥に住んでいる
森さんの家に泊まっていた。

車を停めると
後ろの座席で泣きつかれて眠っている、子熊たちを置いて

荷物を片付けていた。

荷物を片付け終わり
車に戻る。

おや?

子熊がいない。

いない!

あわてて探したが

いない。

いや、座席の下に入って
眠っていた。

2人は、何故か、安心した。

子熊は、一頭しかいないのに。


なぜなら
2人共、実は
実際に撃つ現場に立って間もなかった。

焦ってしまい
かなり動揺していたのだ。

それにしても
忘れる、とは考えにくいが

子熊は、消えた。

彼らは、森さんにお礼を言うと、帰った。
見送り、家に入ると

酷い匂いがする。


居間に入ると黒い犬が、丸いテーブルの上の
朝食を荒らしていた。

余程、お腹が空いていたのだろう。

気づかずに、食べ続けていた。

それは犬ではなく

子熊だった。小さな小さな熊は、昨日、彼らの車から降りて、近くに停めていた、
森さんの軽トラの下で、眠ってしまった。

けれど、お腹が空いて、いい匂いに誘われて、ここに来たのだ。

さて、森さんは迷ったが

しばらくは、自分を襲えないだろう、と思い、この子と暮らす事にした。

森さんの家は、山のかなり奥にあり
めったに人は来ない。

それは、好都合だった。

子どもは、欲しかったが恵まれず、
静かに眠る様に、奥さんが旅立ってしまってから、2年になる。森さんは、80歳

子熊との暮らしが始まった。

口に入れて危ない物は、全てしまった。

自分のために野菜を作っている畑に行く時には、
助手席の下に段ボール箱にを置いて
その中に入れた。

畑仕事の間は、可哀想だが
長い長い縄付きの首輪をつけた。

いつも、食べ物をくれるからなのか
子熊は、暴れることはなかった。

自由に転がったり、動き回って遊んでいた。

お昼になると
用意してもらった、山菜や、木の実を食べた。

夕方、家に帰ると、お風呂の時間。

ぬるいお湯で、綺麗に洗ってもらう。

この後に、ご飯、を知ってるかの様に

大人しく気持ち良さそうにしていた。

子熊からは、見える。森さん。

でも子熊が自分の姿を見る事は、ない。

子熊にとっては母熊に見えたのかもしれない。
夕ご飯の時間、勢い良く食べる子熊を

森さんは、愛おしそうに眺めていた。

お腹がいっぱいになると
いつの間にか、森さんの近くに来て
眠り
子熊の1日は、終わる。

だが、森さんの仕事は、まだ終わらなかった。

これから、子熊の毛のカットなのだ。

いくら、人が来ないとはいえ

万が一という時がある。

熊を、飼う、なんて誰にも言えない。

日に日に大きくなって行く子熊

いつかは、大人の熊になる。

いや、今や

恐怖の動物と言われている熊。

いつからなのか

誰がそうしたのか?

考えるとやるせない気持ちになる。

山を降りた、ではない。

降りなければ、食べ物がないのだ。

人間の敵、

そうしたのは?

おじいさんは、「大きくなんなよ」と
子守歌の様に言いながら、子熊を毛を整えていた。


ふと、寝顔を見ていた時に
昔、飼っていた犬を思い出した。

そして

ダメで元々、と、子熊のトイレトレーニングを始めた。

ご褒美は、ハチミツ。

シートを用意して教えた。

上手くいかない。

けれど森さんは

「お前、熊だもんな」と笑う。

大声で叱る事はなかった。

「大丈夫、大丈夫、覚えるさ」と毎日続けた。

週に1度か2度、成功する。ハチミツを一さじもらえた。

初めて食べた時の子熊の目を、おじいさんは忘れない。丸い目の奥の瞳が大きくなったから。
初めて3ヶ月、する場所を覚えた。

「お前、賢いな」と頭を撫でられ、嬉しそうにぐるぐる、回っていた。

奥さんの、花柄ブラウスを着せてみた事もあった。もちろん、袖はない。

あまりにも、ぴったり。

まさか、熊が着るとは、思わなかっただろう。

ブラウス子熊を見て、笑った。

その声は、森の中に響いていた。

子熊は、丸い目で、じーっと見ていた。

さて、毎日毎日続けていた。

毛のカットだが、厳しくなって来た。

どんどん大きくなり、セントバーナード犬の様になってしまった。

おじいさんが「どうしたもんか」と思っていた。

ある日、たまたま見た番組が「サーカス団特集」
そして、そこには、飾りを付けた熊がいた。

芸をする熊?か

おじいさんは、ニヤリとした。
「うちのは、トイレだって覚えた。芸が出来たら、この社会で生きられる」

襲う事も知らない、あの子

おじいさんの「子熊、社会進出計画」のスタートだ。

おじいさんは、ワクワクしてきた。

次の日は、青空だった。
畑仕事に行く前に、庭の木に鈴入りのビーチボールをぶら下げた。

そして、いつもの様に子熊を迎えに行き、縄のついた首輪を付け、違う木に結んだ。

車には、乗らないで
子熊に「見とけよ〜!」と言いながら

ボールをパンチし始めた。

まあ、パンチと言っても、ひょろひょろではあったが、さすがに山に住んでいるから、
足腰は、しっかりしている。

まあまあ、いい感じだった。

ボールの鈴の音が気に入ったのか、子熊は楽しそうだった。

時々、転びそうになったが、笑いながら、右、左、とパンチを続けた。

何故か、子熊には、「してみるか」

と言う事はなかった。自分だけ、パンチをすると止めた。

来る日も来る日も
パンチを続けた。

パンチが、だんだん上手くなって行く。

少し様になって来た。

80歳にしては、なかなかだった。

子熊は、したくなったのか、近づいてみるが
させては、もらえなかった。

一ヶ月くらい経ったある日、外に出た子熊は、急いでボールに近づき、立ち上がると、触ってみた。

「チリン」鈴が鳴る。勢いよくパンチしたら、戻って来たボールが顔に当たった。

びっくりして、座り込んでしまった。

「やりたくなったのか」と言いながら、

子ぐまに、靴下で作ったグローブをはめた。

子熊は、おじいさんを真似てみたが、上手くは行かなかった。それでも、止める事なく
ボールを叩いていた。

子熊は、日に日にバンチが上達して行った。


「さて、ここからどうする?」
おじいさんは考えた。

そして母熊を撃った男達に、連絡した。


「熊が出た」と言うと、
すぐに来た。

そして家の中の子熊に驚いた。
彼らが動揺したのも無理はない。

短く毛を刈られた子熊は、
おとなしく座っていた。

でも、おじいさんの話を聞いて、ひきつった彼らの表情は、和らぎ、そして、協力する事を約束はしてくれた。



実際に子熊かパンチする姿に、彼らは、驚いた。
そして、おじいさんのパンチをする姿は、80歳とは思えなかった、

もちろん、子熊がパンチするなんて、前代未聞だ!

2人の男達は、スマホで撮影し
知り合いのTV関係者に送った。

始めは「合成だ」と疑われた。

結局

撮影になった。

珍しいネタには、違いない。

しばらくして、山の家に、たくさんの人が来た。

怖がるかもしれないと言う森さんの話を聞いて、こっそり、撮影して行った。

そのまま、放映されると思っていたが、違った。

合成画像と疑われるという事になり
おじいさんと、子熊がスタジオ呼ばれた。

オリ付きの車にのせられ
スタジオに行くと
銃を持つ、男達に囲まれた。



おじいさんは、がっかりした。

落ち込んでは、いられない。

急いで、終えて帰りたい。

嫌な気持ちをありったけ抑えた。



怖がる子熊に声をかけながら

「大丈夫、大丈夫」



そして、自分がパンチした。

無理やり笑う森さんの顔は
悲しそうに見えたが

子熊も真似てパンチを始めた。



みんなが、びっくりしたのは
森さんの動きだった。

見ていた人達は、喜び、
拍手があがった。
森さんは笑いながら

子熊に言った。

「もう、大きくなっても良いぞ」





風にのって、ボールの鈴の音が聞こえて来る。






いいなと思ったら応援しよう!

ふぅ
アレルギーっ子が主人公の絵本を出版し、それを全国の園児や低学年のお友達に読み聞かせをしたいという夢があります。頂いたサポートは、それに使わせて頂きたいと思います。よろしくお願いします。