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オペラ歌手×ダンサー対談『道化師』清水勇磨[トニオ]×小浦一優(芋洗坂係長)[富男]

 2022年度全国共同制作オペラは歌劇『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』と歌劇『道化師』の2本立てでお届けします。
今回対談していただくのは、『道化師』のトニオ[富男]役でご出演されるオペラ歌手の清水勇磨さんとダンサーの小浦一優(芋洗坂係長)さんのお二人。
前回に引き続き、歌手とダンサーという全く異なる世界でご活躍するお二人に、さまざまなテーマで語っていただきました。今回はオンラインでの対談です。

ヴェリズモ・オペラと“温度感”

――同じ役を演じるお二人。稽古場でのお互いの印象はいかがですか?

清水:ダンサーの皆さんが、休憩中も台本を持って「もっとこうした方がいいんじゃないか」と修正されていくその速度に驚かされます。翌日には全く別の、クオリティの高いものができていて、すさまじいなと。色々とご迷惑をかけてしまっていますが、とても楽しいですね。小浦さんは先日も、合唱の人たちがハケるタイミングについてぼそっと鋭い提案をされていて、僕は家に帰ってビデオを見ながら「ああ、そういうことをおっしゃっていたのか」と。その場に必要なことを察知する力がおありですごいんです。

小浦:僕は清水さんの歌の存在感やご本人の空気感に圧倒的なパワーを感じます。家に帰っていつも家族に「オペラ、すごいよ」と話すんです。これまでミュージカルやストレートプレイには出演してきましたが、オペラは立ち入ることのなかったジャンル。とんでもない刺激で、ちょっと鳥肌が立つぐらい。ご一緒していてこちらこそ楽しいですし、皆さんの歌を身体で表現するこちらもしっかりついて行かなくては、とダンサーチームで言い合っています。 

―― 『道化師』はトニオが歌う印象的なプロローグで始まります。

清水:プロローグでのトニオの歌は、コンサートのプログラムに入れるのにも勇気がいるような難曲なんです。前半はあまりメロディーにしすぎず喋るように作曲されていますが、後半は技巧的にも非常に難しい歌になっていて。それだけではなく、ヴェリズモ・オペラ全体の話をしていると僕は思います。歌手の間ではよく「temperatura」、つまり「温度感」と言われるのですが、ヴェリズモはその前の時代のオペラよりももっと高い温度を込めないと伝わらないような言葉であり音楽になっている。そこが大事だと考えています。

――清水さんはイタリア留学時、先生から「あなたはtemperaturaがあるからヴェリズモ・オペラが歌えるかもしれない」と言われたそうですね。

清水:同じ言葉、同じ旋律を聴いても、感じるか感じないかという違いはありますよね。ヴェリズモは愛について語っていて、言葉の強さや人を愛する感情が、行き過ぎてしまうほど突き抜けているからこそ、皆が感動すると思うんです。

――ヴェリズモの曲自体に温度感があり、それを表現できる歌い手とできない歌い手もいるということですね。小浦さんは清水さんの温度感についてはどうお感じですか? 

小浦:聴いていて引き込まれます。プロローグでは「このオペラはこういうふうに進んでいきますよ」「こういう見方をしてくださいね」というのを清水さんが歌われる。その歌によってお客さんの温度も導かれていくわけなので、ものすごい大役を担っておられますし、私もついていかなければ!という思いですね。 

話し合いを重ねながら

――そのプロローグでは、小浦さん演じる富男をかたどった富男人形と清水さん演じるトニオとのシーンがあるとか。

小浦:富男人形は他のダンサーの方が操るのですが、人形と清水さんが絡んでプロローグの歌が歌われ、私は、今から始まりますよ、というところで人形と替わって、人形のような動きをし始めます。本編でも一座の人間としての場面と人形っぽく動く場面とがあり、詳しくは観てのお楽しみなのですが、清水さんとも絡みます。僕が操られる立場となっている時には清水さんと身体が前後していて、お互いをよく見ることができないので、動きや音の取り方などを話し合って調節したり、ちょっと触れている部分があれば「今ですよ」とタイミングを合わせたり、そういうふうに作っています。 

清水:オペラ歌手とダンサーと一緒にやるのは初めてのことだから、最初からは混じり合わない。分からないことがお互いあるし、「もっとこうしなくちゃいけないんじゃないか」みたいなものもそれぞれにあって。僕は割とはっきり言う方なので、上田さんとも小浦さんとも侃々諤々かんかんがくがくの議論をする中で、お互いに大切にしていることが見えてきましたよね。

――本番の日も近づきつつありますが、残りの稽古をどのように過ごしたいですか? 

小浦:今、振りやお芝居がある程度、自分の身体に入ってきたので、あとは、富男とトニオがどこまで一体化できるか。私はとにかく清水さんの歌を聴き込んで、歌が表現しようとしていることと自分の動きをすり合わせていきたいですね。本当に同じ人格かと言ったら、そこはまたからくりがあるのですが、まずは2人で1人という部分がお客さんにきちんと伝わることを目指しています。 

清水:小浦さんがトニオの内心というものをすごく表してくださる。同じ表現者として清々しいものが感じますし、こちらももっと突き詰めて表現するということに立ち返らなければと、普段以上に思います。稽古場には音楽家同士ともまた違う、ピリッとした空気感があって、お互いに「ここで踏ん張らなくては」「もっと高めなくては」と感じている状態。そのプラスとプラスで“倍々”のものがお客さんに伝わるようにしたいですね。

文・高橋彩子


公演情報

【上演順 変更について】
本公演は、総合的な判断により『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』『道化師』の順序で上演することになりました。

東京公演

愛知公演