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オペラ歌手×ダンサー対談『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』森山京子(ルチア)×ケイタケイ(光江)

2022年度全国共同制作オペラは歌劇『道化師』と歌劇『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』の2本立てでお届けします。
今回対談していただくのは、『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』のルチア[光江]役でご出演するオペラ歌手の森山京子さんとダンサーのケイタケイさんのお二人。
歌手とダンサーという全く異なる世界でご活躍するお二人に、今回の公演について、さまざまなテーマで語っていただきました。

19世紀のシチリアと現代の大阪の共通点

――稽古はいかがですか?

ケイ:演出の上田久美子さんも振付の前田清実さんも出演者の皆さんも素晴らしい方ばかりなので、これからチームワークができていくのが楽しみです。先日、森山さんがダンス稽古を見にいらして。

森山:上田さんから「立ってみてください」と言われて急遽、私もケイさんの横に立ったのですが、踊りの人はまた歌い手とは違うエネルギーの量があってすごいなと思いました。どこを切り取っても表現しているというか、常にテンションが切れないようにされている。歌手も本当はそうでなくてはいけないのですが、やはり歌う直前や歌っている時にスッと集中しがちですから。

ケイ:場面によって、歌手とダンサーが別々の世界にいることもあるのですが、あの場面は一緒に立ってみたんですよね。森山さんはどんとした落ち着いた存在感が素晴らしくて。私って随分と小さいなと感じました(笑)。

――外見も表現方法も当然ながら異なるお二人が、一つの役を演じる。共通項は何になるでしょう。

森山:やはり役でしょうね。私達が演じるのは一番年季が入った人物なので、その色が出るといいなと思っています。それにしても面白いのは、『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』も『道化師』も、最後が歌ではなく言葉だというところ。で、『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』の最後はイタリア語で言うと「Hanno ammazzato compare Turiddu!」、つまりトゥリッドゥは決闘でアルフィオに殺されたから単数形のはずなのに、わざわざ複数形で「彼らがトゥリッドゥを殺した」となっている。要は、19世紀のシチリアの貧しい村での閉塞した人間関係があり、その結末が決闘なので、社会に殺されたということなんだと思うんですよ。サントゥッツァはトゥリッドゥと婚前交渉して子供を儲けていて、それはあの時代のシチリアの小さな村では罪だから、教会にも入れてもらえない。ルチアがサントゥッツァに対して初めは面倒を持ってこないでくれ、という態度なのも、息子のことは愛しているけれどそういう村にあって、寡婦が1人で酒場をやっていて、生きるのに精一杯だからなのでしょう。

ケイ:ダンスのほうは、大阪に実在する労働者の街がモデルになっていて、光江は閉ざされた人々の中で居酒屋の女将をやっているという設定。稽古が始まる前、大阪の友達を頼ってどういうところなのか見に行き、イメージを膨らませました。こちらの設定では、光江は、聖子(オペラのサントゥッツァ)が護男(オペラのトゥリッドゥ)を葉子(オペラのローラ)から取り戻そうと一生懸命になるあまり、彼にお金をあげるために何か犯罪に手を染めて「パクられた」ということを噂話で聞くんです。どろどろした性欲の世界の道徳的な罪じゃなくて実際的な罪を犯したっていうふうになっているのは、現代では婚前交渉なんて当たり前になっているからでしょうね。それを踏まえた上での役作りをしていくことになります。

ルチア/光江としての声/動き

――光江の動きとしてはどんなことを心がけていらっしゃいますか?

ケイ:光江はダンスシーンというより、カウンターの後ろで準備していたり掃除をしたりと、日常生活の中で出てくる動きが多いんです。私は常々、日常の動きってきれいだなと感じているのですが、舞台上でそのままやってもダメだし、その辺りと舞踊の動きと自身の存在をどう繋げていくかが結構難しいですね。

森山:でも今回も、だんじり祭の提灯をつける場面があって、そこでは光江にもダンスシーンがありますよね。

ケイ:そうですね。ただ、あの場面は生活苦の中で祈る踊りなのに、この間の稽古では音楽が綺麗だから思わず乗ってしまったというか、それに身を任せて踊ってしまって反省しています。そうではなく、音楽は日常生活の中で吹いてくる風のような、あるいは美しい空のようなものととらえ、あくまで光江らしさを、その労苦も含めて踊りにしなければならないのですから。

森山:そんなふうに思われるなんて素敵ですね。私達も歌詞がありますので、たとえオーケストラやコーラスが美しくても、役の苦しみ、その声の色みたいなものは大事にしなければなりません。そこはケイさんのおっしゃることと通じるところがありそうです。

――お二人ともそれぞれの世界でキャリアを積んでいらして、今ここでこういった新しいことに挑まれることに関してはどう感じますか?

森山:色々とやってきたご褒美と考えています。普段会わない人とも会えるし、初めてってなんとなくわくわくするでしょう? それにしても、ダンサーの方を観ると同じ人類と思えない!(笑) 演出家の上田さんの言うことも逐一、「へえ」っていう感じですし、さらにはイタリア人の指揮者と歌手も加わるわけだから、楽しみです。

ケイ:私は最初、オペラなんて無理、無理、と思ったんです、でも上田さんがご親切に色々と話してくださり、ダンスのほうは現代の大阪が舞台だと聞いて、じゃあもしかしたらできるかもしれないと恐る恐る参加して(笑)。ダンサーと歌手が一緒にやるという試みは斬新で、上田さんがこういう冒険をなさるのは素晴らしいこと。自分がこのオペラの中でどう生きていけるのか、まだ不安もありますが、作品全体を後ろで支える役として、しっかりと役割を果たせたらと思っています。

文・高橋彩子


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