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久しぶりに思い出した味

幼少期に風邪だか花粉症だかなんだかで粉薬を飲んだ経験はあるだろうか。そう、半透明のプラスチックの袋に入れられたオレンジ色の薬である。粉薬の袋の端を右手の人差し指と親指でつまみ、左手でデコピンして粉を落として封を切る。そこからは5歳児でもできる、封を切って、あのやや甘くて苦い粉末を口に入れて嗚咽が漏れる前に麦茶で流し込むだけだ。うちの家は、子供が粉薬を飲む時に使う『お薬飲めたね』みたいな甘いゼリーなんかくれなかった。あんな甘いゼリーに薬混ぜて飲むドーピングして『飲めたね!』だなんて褒めてくれるなんて、こちら側からするとほんとに羨ましい限りだ。

あれから、20年くらい経った。あの頃と違って週に1回風邪をひくことも無くなった。それに風邪をひいてもいつからかお医者様は件の粉末と違ってあまり味の感じないカプセル錠をくれるのだ。
気づけばあの味を思い出していた。
大学生にありがちな誰も楽しめてないやろみたいなしょうもない飲み会の二次会、韓国の甘ったるい焼酎を数杯頂いて、自宅まで帰る退屈な道中において俺は偶然にこの味を『発見』してしまったのだ。情けないことに未だ飲み方を覚えられないので、少し吐いてしまった。刹那、俺の前頭葉に、あのオレンジ色の粉末がオービスみたいにチカッと光った。唇にまとわりつく胃酸の匂いのする"かつてもつ鍋の具材であったもの"をどさくさに紛れて盗んできたチューハイで洗い流した。
甘くて苦い、苦くて甘いのだ。

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