【轟音感想】Behemoth 1st〜12th
ポーランドのブラックメタル/デスメタル界の雄、Behemoth
Behemothを聴くとブラックとデスの境目を考えることがアホらしくなるほど、激烈で重厚で重々しくも激しい(大事だから2回言った)
リアルタイムで聴き始めたのは7thの「Demigod」、8thの「Demonica」あたり。一番ハマったのは「Demigod」です。自分でもBehemothがどう変わっていったのか把握しきれてなかったので、感想を書き連ねていきます
Behemothとは
Behemothは旧約聖書のヨブ記に描かれる怪物の一つで、海の怪物である「レヴィアタン(リヴァイアサン)」と対比される陸の怪物と言われる存在。
リヴァイアサンが召喚獣やボスに設定されがちな一方で、ベヒーモスはゲームでは強力なモブモンスターにされがち。
バンドとしてのBehemothはMetallum上では8つ確認されていて、ブラジル、ギリシャ、ポーランド、シンガポール、スペイン、スウェーデンに二つ、アメリカ、と世界中にBehemothは散在していますが、ポーランド以外のBehemothは解散したり改名しています。
ポーランドBehemothの存在感が増したから、駆逐されてしまったんやろか・・・と勘繰ってしまうほどのBehemoth強い。
そんなBehemoth界の生き残りが一番強いBehemothな訳で、それがポーランドのBehemoth
1991年に元のバンド、Baphometを結成したものの当時はBaphometというバンドが多く居たためBehemothへと改名。
メンバー
現在のメンバーは以下の通り
Nergal:Vo,Gt(1991〜現在)
Inferno:Dr(1997〜1999、2000〜現在)
Orion:Ba(2003〜現在)
活動は33年、20年はメンバー交代していないのも凄い。
ちなみにフロントマンのNergalは1977年生まれ、バンド結成が1991年なので、若干14歳でBehemothを作ってます。すごっ。
1st「Sventevith(Storming Near the Baltic)」
記念すべき1stアルバム、1995年発表。
14歳でBehemoth結成後4年間くらいはデモ音源を作成していて、活動が身を結んだのか地元ポーランドの「Pagan Records」からリリースされたこのアルバムは
ポーランドの民族テイスト(ジプシー音楽というのだろうか)を感じさせる、コテッコテのブラックメタルを披露。
不明瞭な音質の録音、寒々しいブラックメタル特有のリフ、所々に入れられたシンプルなメロディ。後年感じられるような厳つい雰囲気は無く、力強さと華奢さの相反する少年性の両面を感じされるブラックメタルの良盤です。
そういえばPagan Recordsのカタログナンバーは「Moon CD 001」なのでレーベルから初めてリリースされたCDみたいですね。
僕が聞いたのはデジタル版で、Metal Bladeからリリースされた2枚組のやつ。
Disc1はオリジナル、Disc2は未発表音源やライブ収録のやつ
2nd「Grom」
1996年に発表された2ndアルバム、Grom。Gromっていうとホンダのオートバイが有名ですが、ポーランド語で「雷鳴」という意味です。
肝心のサウンドは、突進系ブラックメタルに変身しています。あまりの変貌っぷりは単打を狙う技巧派バッターが長打を狙うスラッガーに様変わりしたよう。
それも無理が感じられる変化ではなく、むしろ馴染んだような自然な変化。
ねじれが元に戻ったように感じられるのは後年のBehemothを知っているからか。
とはいえ後年のスタイルへの変化途中といった印象で、突進系のブラックメタルで、僕の数少ないブラックメタルデータベースの中で近しいのは1349かなぁ。
1349よりも前の年代にリリースされているから1349がBehemoth「Grom」に近い音を鳴らしてるってのが正しいんだけども。
1stに比べて変化した点はブラストやツーバス連打といった高速かつパワフルなドラミングが曲の主軸になっていて、そのドラミングを包むように無慈悲で時に美しさを感じさせるギターの旋律が展開していきます。
Voはブラックメタルっぽい悲鳴に似た絶叫系。時にクリーンボイスも。
3曲目の「Spellcraft and Heathdom」、4曲目「Dragon's Lair」が特に好き。
このバランスは無茶苦茶好きです。
録音の質が比べ物にならないくらい向上しているのは、僕が聞いているのがMetal Bladeの再発盤だからかもしれないです。元々はドイツのSolistitium Recordsからのリリース。
ディスク2枚組で、ディスク2にはMayhemの名曲「Freezing Moon」のカバーが収録されてます。
3rd「Pandemic Incantations」
1998年リリース。これはApple Musicにも無くて、何かしら大人の事情でサブスク解禁されてないんだろうなぁと思います。
原盤は2ndと同じSolistitium Records、このレーベルはもう閉鎖しているので音源の引き継ぎとかそういう問題なんでしょう。あまりよろしくないのですが、Youtubeで聴きました。
サウンドの方はなんかキャッチーでノリノリなギターが印象的でした。若干シンフォニックな雰囲気もあり、オリエンタルな匂いが増してきている感じ。
本当にギターのリフ、メロディの種類が豊富で器用かつ引き出しが多いなぁ。
そういえばこのアルバムはNergalとInfernoの2人体制で制作されたようです。
2ndの方が好みでした。
4th「Satanica」
4thアルバム「Satanica」リードギターに L-kaosを迎えて制作されたアルバム
リリースは1999年
突進系ブラックメタルにデス要素として、Nergalの歌唱が絶叫からグロウル(咆哮)にシフトチェンジして加わってます。
僕の印象にあるBehemothサウンドはこんな感じのパワーとアグレッション一辺倒の突進突進&突進サウンド。咆哮、吐き捨てられる怒号。ブラックメタルらしい冷涼な、冷え冷えとしたリフに、休むことなく叩きつけられるドラム。
これよ、これがBehemothなのよ。
5th「Telema 6」
5枚目のアルバム、2000年リリースです。
なんと3年連続リリース。この短いスパンの間にブラックメタルからブラック/デスメタルという路線変更も挟みながら強いモチベーションで活動してはるのは凄い。単純に凄い。
それだけリスナーに求められて、自分たちもアイデアが溢れ出ていたんだろうなぁ。
90年代後半は色んなメタルで歴史的な名盤が続々と生み出された黄金時代だと思っていて、そんな刺激的な時代に20代を過ごしたNargalさん、どんな意識だったんでしょうか。
5thアルバムだけどタイトルには「6」、Thelmaが何を意味するのか・・・
人名、女性名である名前ですThelma。テルマだったりセルマと読む。
青山テルマもそう。映画でも「テルマ&ルイーズ」ってあったり。
ただ古代ギリシャ語の「真の意志」を意味するので、こっちかなぁと。
関心のサウンドはブルデス。VADER系統の突進系ブルデスです。
普段好んで聞いているDisgorgeフォーマットとは異なる、スラッシュメタルを激烈して進化したデスメタルをさらに激烈進化させたブルデス系統、特にヨーロッパで独自進化したスタイル。
このBehemothの5thアルバムだけを切り取って聴くと「そういうバンドなのね」と早合点しそうなくらいブルデス。ただ、前後のサウンドを鑑みると、後のBehemothスタイルを確立するためにブラックメタルとブルデスの間で揺れ動いている一つのピークに感じられます。
6th「Zos Kia Cultus」
いよいよ6枚目、2002年発表。
5作目が”ほぼ”ブルデスという内容(印象)だったのに一転して、ブルデス/ブラックが見事に融合したBehemoth独自のサウンドに到達。
ブラックメタルを演って、ブルデスを演って、そのどちらも飲み込んで両方の荒々しいベクトルを両立させたオリジナリティブルータル。
洗練されつつも荒々しいサウンド、激しくテンポを細かく変える曲展開、速い一辺倒じゃない曲構成は飽きを感じさせませんが、毎日毎日Behemothばかり聞いているのは飽きてきました。
ところでタイトルの「Zos kia cultus」がどんな意味なんだろうと思って翻訳してみたんですが、ミャンマーなどで使われるモン語で「文化の村」という意味になりました。歌詞は反キリスト的にも読み取れる宗教的な内容。
タイトルトラックの「Zos kia cultus」の中にも登場していて、それは呪文のようです。ってなんかAI的な変な日本語になったな。
7th「Demigod」
7枚目。2004年発表。僕はこのアルバムがBehemothとの出会いでした。2005、6年の個人サイト全盛期に読んでいた「ブラストビートが凄いアルバム」紹介みたいな感じで知った気がする。
Demigodは中近東な音色が各所に練り込まれていて、いい感じに”雰囲気”を作っていて、この雰囲気はDemigodが一番強くて独特な空気感を持ったアルバム。
激しさも一番高く込められていて、音で再現された竜巻のような感じ。
タイトルのDemigodは「半神」という意味。Demiは半分を意味するフランス語が語源になっています。
この「半神」がリリースされた翌年にあたる2005シーズンは同じ韻をもつ阪神タイガースがセリーグ優勝してます、日本シリーズはまぁ、、、うん、って結果だったけど。
前作「Zos KIa cultus」リリース後のシーズンもリーグ優勝か、Behemothが新作発表した次のシーズンのどんでん阪神は優勝する説あるな。
8th「The Apostasy」
8枚目。2007年リリース。
Demegodから3年経って発表された今作は「背教」という意味の「The Apostasy」
背教は信じていた宗教から離れるという意味です。
相も変わらずアンチクライストをテーマにしたBehemothさん、シニカルにキリスト教の聖堂を連想させるようなな荘厳さを随所に散りばめています。
「荘厳さ」が今作で感じさせる新しいBehemothサウンド。
スピードもトルクも全開で突っ込むだけがアグレッションじゃないんだぜ、と言わんばかりの横綱サウンド。重厚感たっぷりで、頼れる兄貴っぷりが楽しめます。
毎作、いい感じに正統進化していて凄いなぁっと改めて聞いていて感心します。
9th「Evangelion」
9枚目、2009年発表。
タイトルは「福音」大人気アニメとは全く関係ございません。
今までのアグレッションを煮詰めて濾過して結晶化させて、新たな反応が起きるまで加熱したような、Behemothの一つの到達点。このアルバムを聞けばBehemothが分かるといっても過言ではないくらい激しいアルバム。
Apple Musicでもアーティストの必聴アルバムに挙げられてました。
緩急のついた曲展開は、前作「The Apotopsy」の方が際立っていたかなぁ、って感じ。レコードセールス的にもこれが一番売れたんじゃないだろうか。
言葉数は少ないけどめちゃいいアルバムです。
10th「The Satanist」
原点回帰とは言わずとも、ブラックメタル臭を強くさせてきたのが10枚目「The Sataninst」
前作が傑作と評しましたがこれまた傑作です。スピードとパワーでぶっちぎる方向から、やや内向的で不穏で不吉な暗黒的な激しいサウンド。
聴くひとにとっては「うーん、Behemothに求めていたのはこういうのじゃないんだよなぁ」と感じさせる音かもしれないけど、”いつも同じような音を鳴らす安定感”よりは良いんじゃないかなぁと思います。
まぁDisgorgeフォーマットサウンドを愛する僕が言うなよって話だけど。
多くのアルバムでスタイルを大きく振り幅を変えてきたBehemothだから出せる、根底がガッチリとした音だなぁと感じました。
耳を引く派手さは無いけど、堅実な硬派な音です。
11th「I Loved You at Your Darkest」
うーん、、、明るい。ポップさとかキャッチーさじゃなくて、なんか明るい。
軽いわけじゃない、重い、重さはあるけども、向き合っていける重さ。
これまた消費者のわがままでしかないのですが、お腹が減ってカツ丼ご飯大盛りを食べたいのにヘルシー牛丼を食べさせられたような、肩透かし感のような
違う、そうじゃない。感が、あり、ます・・・
Behemoth自らが耳あたりの良い音のアルバムを出して、マス層への間口=チュートリアル役になってくれているのかなぁと想像しつつも、勝手に幻滅するのも身勝手だなぁと思いつつ、やっぱりこのアルバムは求めているものとは違う方向性だったなぁ。
ただ、ブラックメタル入門編かBehemoth入門編には良いアルバムだと思います。
12th「Ops Contra Natvram」
12枚目、2022年発表。
前作がヘルシー牛丼だったとすると、今作は牛丼大盛り(トッピングは好みのものを一つ)くらいの食べ応えがあります。
アルバムを牛丼で例えるのも変な話ですが、あくまでニーズはカツ丼大盛り。
前作よりはガッツリ志向になってるものの理想のBehemothからは少し軽い。
それでも十二分にヘヴィです。
スピード展開はありつつもメインはどっしりと構えた横綱スタイル(?)
だいぶブラックメタル寄りなサウンドで、録音はクリアでメジャークオリティ
外国のレビューを読んでいると新規ファンには好評、古参勢には不評、と言うのが分かります。
評価が二分されるのは分かりますし、どちらの意見も分かります。だってものたりねぇんだもん。
ただ物足りなさはかつて終始鳴らされてた突進性であり、曲の構成は聞き応えあるものです。
突進さなぁ、と思ってもですよ、Behemothもこのアルバム発表時で31歳です。
1991年から始めたBehemothが2022年にアルバムを出しているんです。
続けていること自体賞賛すべきことだし、長き活動の中で大傑作とも言えるアルバムを何枚も出したことが素晴らしいことです。
ちなみにこのアルバムがリリースされた翌シーズン(2023年)、岡田監督が復帰した阪神タイガースはリーグ優勝&日本シリーズ優勝しています。
Behemothの新譜リリース✖️岡田阪神は優勝するというデータが得られました。
岡田監督がオリックス・バッファローズの監督を勤めていた時代(2010〜2012)はBクラスだったので、関連性は無しですね、阪神にのみ適用される。
総評
と言うわけで、Behemothのアルバム1st〜12thまで聞いてみました。
初期のブラックメタル時代、中期のブルデス時代、デス/ブラックの融合時代、後期の円熟期とバンドサウンドの変遷を聞いて思ったことは、変化を恐れずにそれでも一貫した反キリストを掲げながら激しくもBehemothらしい音を鳴らしているなぁと言うこと。
変化し続ける音に、一部のリスナーは「裏切られた」「思ってたんと違う」と否定的な意見を表すると思うけども、バンドもリスナーも変わっていかないと経年劣化していくだけですし、エネルギーを絶やさずに生き延びていくBehemothに感服しました。
いやぁBehemothっていいですねぇ。