見出し画像

別世界では別職種だった件 マエダ編 第3話

第3話 帰還前夜

「うーん。おはよう雅美」

「おはよう。良子。もう起きないとね」

「お二方には俺はいないものとして扱われてますかな」

 相変わらず自分の左右で寝ていた2人は自分を飛び越して朝の会話を行なっている。それに対してマエダが少し不満の言葉を述べたのは当然のことであろう。ただ、これぐらいで機嫌を損ねるほど短気ではないので、特に気にする様子もなく3人は行動を開始する。まずは順番にシャワーを浴びて、その間に本日の朝食当番であるマサミが朝食の準備をする。料理は非常に得意らしいので、テキパキと準備をして、あっという間にテーブルには朝食の準備が出来上がった。

「いただきます」

 3人は朝食をいただきながら本日の予定の再確認をする。本日はこの街を出てこの国の中央区へと戻る予定だ。戻る理由としてはリョウコの休みが本日までであり、明日からは通常の業務に戻らないといけないのである。マサミはリョウコとは常に行動を共にしているので、一緒に戻ることとなるのである。

「そういえば移動手段って何になるんだっけ」

 ふと頭に浮かんだ質問を口にする。ここ数日の飲み会の際に、この世界のことについては色々と教えてもらっている。この世界はとてつもなく大きいと思われる大陸の一部であり、北部と西部は高い山脈に、東部と南部は海に囲まれている。そしてその中には3つの大国があり、今自分たちがいるマストクック連邦、この国の西方に位置するスタルゲンツ帝国、南西に位置するマルタ王国である。また、南方にはカルティーブフという名称の特殊地区があり、マストクック連邦とマルタ王国の間にはタルシーム自治領が存在している。とりあえず今は他国のことなど知る必要はないのであるが、今後何かの役に立つかもしれない。また、この国の大きさはかなりの広さであり、ここから中央区までの移動手段によってはとてつもない時間がかかる気がするのである。

「移動手段はまだ検討中だけど、たぶんエスパーに頼むことになると思うわ」

 移動手段についてリョウコが言及する。物理的な移動手段であれば、馬車が一般的であるが、正直馬車で移動するような距離ではない。そうなると、非物理的な手段に訴えるしかないが、その方法は幾つかあるらしい。その1つがエスパーに依頼して瞬間移動をしてもらうというものだ。もちろんある程度の金銭は必要となるので、おいそれと使える手段ではない。他の手段としてはマジシャンの転移や、神職の奇跡などもあるが、この2つの職業はリョウコが個人的にあまり好きではないとのことである。そうこうしているうちに街の中心部へと到着した。とりあえずは当初の予定通り、エスパーギルドへと向かっていく。すると次第に建物が見えてきたが、この街のエスパーギルドはそこまで大きくなく、建物のつくりを見ても多少みすぼらしい感じがする。そのままエスパーギルドの建物に入り、受付を行う。すると1人の女性が近づいてきた。

「あら、良子さん久しぶり」

「何だ、香織もこっちきてたんだ」

 近づいてきた女性が声をかけてきたので、それにリョウコは返事をかえす。この女性は元の世界でマエダも良く知っている間柄であり、こちらを見て向こうも気づいたらしく驚いた表情を浮かべている。

「ねえ、私たち中央に帰りたいんだけど、手配できる?」

「あ、手配はできるけど、明日の午前中でよかったら私も帰るから一緒に飛べるわよ」

 これを聞いてリョウコは少し悩んだ表情を浮かべる。本来であれば明日の朝一で業務に復帰しないといけないからだ。ただ、現在世界情勢は落ち着いており、多少帰るのが遅れたとしてもそれで自分の軍団の評価が下がるようなことはないと推測できる。

「わかったわ。じゃあ明日お願いできるかしら」

「了解です。明日の朝一でやって来る仲間への引き継ぎが終わったら戻れるので、多分11時には飛べると思うわ」

 これを聞いてリョウコは大きく首を縦に振る。これで本日は中央に戻ることなく、もう1日ここで過ごすことが確定したのである。

「じゃあちょっとぶらついてみますかね。香織、夜は多分あそこの店で飲んでると思うから、良かったらおいでね」

 夜の予定をカオリに伝えた後で3人はエスパーギルドの建物をでる。とりあえずお昼ご飯を食べてないので、その辺にある食事処で腹ごしらえをする。その後はこの街の観光ガイドにも載っている公園や美術館、書物館などを順番に回っていく。すると結構な時間が経ったらしく、次第に日が暮れてきた。こうなるとすることは決まっている。連日通っているお店でアルコールを摂取するのだ。

「うまい!」

 1杯目のジョッキを一気に開けたマエダは相変わらず満面の笑顔を浮かべて美味しさを表現している。これを見てリョウコとマサミも何だか嬉しい気分となっている。この後はいつものように美味しい料理と大量のアルコールを消費しながら、楽しい話題や、まだマエダに説明できていない内容についての話を進めていく。するとある程度の時間が過ぎた後で、店の扉が開いた。

「あ、香織!こっちこっち」

 先程エスパーギルドで見たカオリが誘いに応じてやってきたようである。

「あ、香織です。よろしくお願いします」

 先程はきちんと挨拶出来なかったので、こちらを見て丁寧に挨拶をしてくる。そこで返事を返すことにした。

「前田です。よろしくお願いします」

「知ってますよ。向こうでは同じ部隊ですからね」

 何故かよそよそしい挨拶に対して、笑顔で返事を返してきたので思わず2人から笑いが溢れる。転生前の世界ではマエダもカオリも冒険者を職業としており、同じ部隊の戦士として一緒に探索を行なっていたのだ。この後は4人で飲みに飲んで閉店の時間まで盛り上がる。そして店を出た後は、昨日も泊まった宿に戻るのである。

「カオリ、良かったら一緒に来ない?部屋広いから泊まれるよ」

「あ、じゃあお願いしようかな。私の借りてる部屋ここから微妙に遠いんですよね」

 こう話しがまとまり、4人で昨日まで宿泊していた宿へと向かう。宿に向かう間にマエダは何となく嫌な予感を感じていたが、考えないように努力する。そしてこの後、宿に着いてリョウコは自分のベッドに、マサミとカオリはマサミのベッドで一緒に横になり、すぐに眠りについたようである。マエダはいつものようにふかふかの絨毯に横になり目を閉じる。

「やっぱりか・・・」

 少しうとうとした後、人の気配がして目を覚ますと、リョウコが右腕に、マサミとカオリが左腕にしがみついてスヤスヤと眠っている。この状況は予想していた通りであるが、どうすることもできず、静かに目を瞑って朝日が登るのを待ち侘びるマエダであった。

※画像イメージ:右田 良子

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?