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1997年2月14日(金)《BN》

【僧侶鍛錬場:宮崎 藍・坂上 康太・鹿本 芽衣・道長 寧々】
「これは・・・これはひしゃくじゃな」
「うん。高村くんのと一緒だよ」
 手渡されたチョコレートを見つめながら坂上 康太が発した言葉を聞いて、宮崎 藍が返事を返した。ここは午前中の僧侶鍛錬場。本日もたくさんの僧侶が鍛錬を行っている。13期の僧侶である宮崎と坂上、鹿本 芽衣、道長 寧々は朝から一緒に鍛錬を行っており、現在は休憩時間中である。本日はバレンタインデイであり、鍛錬場内でも各所でチョコレートの受け渡しが行われている。この休憩のタイミングで宮崎も坂上にチョコレートを渡したが、そのチョコレートがあまりにも汎用的なものであったため、坂上が言葉を漏らしたのである。ちなみにこれはひしゃくじゃなという言葉は、冒険者組織で使用されるテンプレのようなもので、これは・・・と言葉を漏らした後に、次の言葉が浮かばない時などに使われる便利な言葉である。
「私たちもあげるー」
「はい、どうぞ」
 笑顔を浮かべながら鹿本と道長もチョコレートを手渡す。2人とも複数のチョコレートを持参しており、特段特別感もないので俗に言う義理チョコなのは間違いなさそうだ。
「ありがたく頂いとくよ」
 軽く右手を体の前にかざしながら坂上が返事を返す。このように冒険者者組織ではチョコレートの受け渡しが大量に行われるのは去年も体験しており、おそらく同期以外の僧侶からも後ほどたくさんいただけることは容易に想像できるのである。
「やれやれだぜ」
 ベンチに座って大きく息を吐いた坂上は思わず言葉を漏らす。宮崎に告白をして断られたものの、友達から始めるというミッションを開始してから2ヶ月経過している。もちろん友達としてではあるが、以前より仲良くはなっており、今日その成果が発揮される可能性を僅かながらには期待してたのである。
「それにしてもひしゃくって何なんだろう」
 先程自分で発した言葉に改めて疑問を感じる。冒険者組織公式テンプレとして登録されているいわば専門用語だが、その詳しい意味や語源については示されておらず、誰もが意味もわからずに使っているフレーズなのである。

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