2025年2月19日（水）《GB》

《2月末にたくさんの部隊が引退します。まあ、毎年60人入ってくるので上が抜けないとパンクします》
【カラオケ館：高山　学・工藤　清次・竹内　舞衣子・石井　稜・藤井　穂奈美・中尾　静馬】
「書記のチカ、書記のチカ、ラー♪」
「やっぱりかわいい」
　振り付けも完璧に全力で“チカっとチカ千花っ”を歌っている藤井　穂奈美を喰い入るように眺めながら石井　稜が思わず言葉を漏らした。ここはカラオケ屋『カラオケ館』下通り店。本日の午前中、秀知院学園生徒会部隊はいつものように中尾　静馬をヘルプにつけて、第2迷宮地下3階の探索を行った。秀知院学園部隊としては本日が最後の探索となり、ヘルプの中尾以外は全員引退することが決めていた。冒険者者活動を始めて4年。部隊を組んだ時は行けるところまで行こうと話し合っていたが、昨年急に魔術師の新熊　芽衣奈が失踪していなくなり、そのあたりから全員のモチベーションが少しずつ下がってきたのである。そのタイミングが大学卒業とも重なったので、ここで引退という決断に至ったのである。
「でも地下3階をクリアする発想はなかったな」
「この前地下3階降りたばかりでしたからね」
　可愛い声が部屋に響く中、高山　学が感想を漏らし、それに中尾が笑顔で返事を返した。2週間前に地下2階のボスを倒し、先週から地下3階探索を始めたばかりである。とうぜん地下3階をうろつく程度を体験して引退だと思っていたが、地下3階のボスは中尾のティリオスの呪文があれば倒せるのである。問題はボス部屋の扉にかかった罠なのだが、冒険者人生最高のひらめきによって石井が罠解除に成功したのである。そこでボス部屋に突入し、ボスである大きな剣を持った亜獣に対して中尾がティリオスを唱え、瞬殺したのである。これにより地下3階のボスを倒したすなわち地下4階レベルでの引退という扱いになったので、引退部隊名簿にもそのように記載されるのである。意気揚々と迷宮を後にした隊員たちは、昼ごはんを『南食レストラン』で一緒に食べる。そして夜は“冬こそビール”が座右の銘である工藤　清次の提案を受けて全員で銀座通りにあるビアレストラン『オーデン』でたらふく飲んで食べた後、下通りにある『カラオケ館』にやってきたのである。
「森へおかえり」
「千花ちゃーん」
　歌い終えた藤井に向かって石井が大声で千花コールを送る。自称藤原　千花推しにとって抑えられない衝動と言えるだろう。
「ちょっと疑問なんだけど」
　歌が終わって少し落ち着いた石井に竹内　舞衣子が声をかける。
「石井くんは穂奈美見ながら千花ちゃんかわいいかわいい言ってるけど、それって穂奈美が可愛いってことじゃないの？」
　これを聞いた石井は少し考えて返事の言葉を述べる。
「千花ちゃんを演じている藤井さんが可愛いと言うのが正解だけど、まあ藤井さん自体も可愛いと思いますよ」
「やだー、恥ずかしい」
　可愛いと言われた藤井が恥ずかしそうに言葉を叫ぶ。これをやれやれという表情で見つめていた工藤は、思いついたように言葉を述べる。
「竹うっちゃんも可愛いよ」
「はいはい、フォローありがとう」
　藤井だけ可愛いという話題になっていたので、軽くフォローを入れたつもりだったが、竹内に軽くあしらわれて軽くため息をついた工藤なのであった。