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別世界では別職種だった件 マエダ編 第6話

第6話 梁山泊

「変に刺激しない方が良いと思うからね」

「承知しました。我々はRSCの外で待機いたします」

 現在作戦会議が行われており、リョウコが口にした言葉に、ブロンドが平伏しつつ返事を返した。

「じゃあ雅美、前田くん行くわよ」

 笑顔を浮かべながら発したリョウコの言葉を聞いて、マサミとマエダも席を立つ。現在盗賊から襲撃された村から半日ほど戻ってきた場所に陣を張っている。この場所から西に進むと梁山泊の方向になる。梁山泊とはマストクック連邦とスタルゲンツ帝国、そしてタルシーム自治区の国境にある大きなリョウ山という山を拠点している武装集団である。その規模はかなり巨大であり、もし本気で事を構えようとすれば、国家全軍を差し向ける必要があるほどである。だが、現在の国際情勢で梁山泊に軍を向ける余裕がある国はなく、いわゆる放置状態となっている。また、以前と違いあまり組織的な犯罪行為を行うこともなくなっているので、いわば共存していると言っても過言ではないかもしれない。ただ、今回は処罰すべき盗賊の頭領たちが逃げ込んだとのことなので、これを看過すると連邦の今後の国家運営にあまりよろしくない影響を及ぼしてしまうのである。そこで逃亡した頭領たちを引き渡すように交渉をしたいのであるが、ここで1連隊とはいえ兵隊を引き連れて行くと相手を刺激することになってしまうので、交渉をおこなうためにリョウコとマサミ、マエダの3人で梁山泊に向かうことにする。そして残りの兵士たちはRSCの外側で待機することにしたのである。ちなみにRSCとは梁山泊が(R)侵入不可を主張する(S)地域(C)の略称である。

「ブロンドもプラチナも良く簡単に引き下がったよな。こういう時ってリョウコ様1人を行かせるわけには参りません。ぜひ私もお供にって流れだと思うけど」

 梁山泊に向かう道すがら、先程から考えていた正直な疑問をマエダが口にする。これを聞いて笑顔を浮かべながら返事を返す。

「まあ、あの2人も前田くんの強さは薄々感じてるんだと思うわ。前田くんがいれば大丈夫。であれば何かあった時のために自分たちは待機だという選択をしたんだと思う」

 このような話していると、前方から砂埃が見える。おそらく梁山泊の連中が自分たちに気付いた様である。

「ここは梁山泊の支配範囲である。もし知らずに侵入したのであれば早急に退避して頂きたい」

 馬に乗った3人の斥候のうち、1番偉そうな人物がこちらに声をかけてくる。それを聞いて、こちらも一旦馬を止めて話を始める。

「私はマストクック連邦軍団長のリョウコだ。総頭領と話がしたい」

 名前を聞いて一瞬驚いた表情を受かべた斥候たちであるが、すぐに冷静になり1人を引き返させる。そして再度声をかけてきた。

「私は梁山泊の頭領シュナン。こいつがカイエンだ。先程戻っていったのはライケイで先程の要望を伝えにいった」

 流石にリョウコが軍団長レベルだったのを聞いて、自分たちでは対応が出来ないと判断したようだ。そこで1名を伝達で戻し、2人は警戒を込めて残ったようである。ただ、こちらの人数が3人だと言うこともあり、そこまで深く警戒はしていないようである。

「ここで待つのもアレなので、少し先に茶屋があるのでそちらへ案内します」

 こう言ってシュナンが馬の踵を返したので、自分たちもそれに付き従うことにする。しばらく進むと道沿いに質素な茶屋らしきものが現れる。

「ヒャクネイ!いるか!」

 建物の前についたシュナンは店に向かって大声で叫ぶ。すると中から、少し太った男性が慌ただしく走って出てきた。

「シュナン様、ヒャクネイここに。何か御用でしょうか」

 明らかに慌てた様子のヒャクネイに向けて、シュナンは厳しい表情のまま話を始める。

「客人を3人連れてきた。もてなせ」

 こう言ってシュナンは梁山泊方面へと走っていったので、それにカイエンも付き従っていった。この後、ヒャクネイに導かれて店へと入り、お茶と軽い食事でもてなされる。一応警戒はしていたが、毒などは入っていないようだ。

「それにしても良子は梁山泊とは何か繋がりがあるのか?さっきのやつらも名前は知ってたようだけど」
「うん。何人か知ってる人はいるのよね。いろいろあって。だから私自体も梁山泊からは客人扱いをしてくれてると思う」

 これを聞いて先程の一連の流れに納得が行く。おそらく自分より階級が上の人物が客人と認めている人物であれば、勝手な判断で対応することはできないのである。

「ところでお客人。おかわりなどはご所望ではないかな」

 笑顔を浮かべてヒャクネイが話しかけてくる。何となくの感覚であるが、どうも暇を持て余しているらしい。

「いや、大丈夫だ」

 こう返事を返すと少し残念な表情を浮かべたが、その後、マエダをじっと見つめてヒャクネイは口を開く。

「あんた相当に強いね。私見る目だけはあるからね」

 何を感じて強いと判断したのかわからないが、表情だけは自信満々である。これを聞いて、マエダは少しだけ興味を惹かれる。そして、暇つぶしにこちらからも話しかけてみた。

「強い人物をたくさん知ってそうだけど、良かったら教えてもらっていいかな」

 するとこれを聞いて非常に嬉しそうな表情を浮かべながら語り始めた。

「まずは梁山泊の3傑が総頭領のソウカイ、副頭領のロシャンガク、武術師範のリンタンの3人。彼らは非常に強いね」

 まずは自分が属する梁山泊の英雄3人の名前を口にした。

「マストクックだとダスティンとフナヤマが2強になるけど、あんたも相当強く見えるよ」

 フナヤマ?フナヤマとは自分が知っているフナヤマの事だろうか。知っていそうな名前が出てきて少し表情を曇らせたマエダであるが、それには気にせず話は続く。

「スタルゲンツにはナカタニとニシカタ、カナタという名前の強いやつがいるらしい」

 流石にスタルゲンツの情報はあまりはっきりしたことは知らないらしく、内容が薄くなっている。

「あと、カルティーブフにはリッチマンの最高権威者がいるのと、マルタには持たざる者と巨人、あとお前みたいな召喚者に1人強いのがいるという噂だ」

 最後の部分はいよいよ名前もわからない噂レベルの話なので、あまり信用はできないが、自分と同じ召喚者に強い奴がいるという話は少しだけ気持ちが惹かれる。

「ヒャクネイ!」

 ちょうど話が終わった頃に外からシュナンの叫び声が聞こえる。それを聞いてヒャクネイは慌てて店の外へと飛び出していった。しばらくすると、大きな体をした非常に威厳のある男性が店に入ってきたので、リョウコ、マサミ、マエダも席を立って、礼を持って迎える。

「お待たせしてすまなかった。私は梁山泊の副頭領のロシャンガクだ」

 先程名前に出てきた副頭領のロシャンガクがわざわざここまで来てくれたようだ。これを聞いて、リョウコが返事を返す。

「丁寧なご挨拶痛み入ります。私は連邦軍団長のリョウコ、こちらがマサミとマエダです」
「おお、あなたがリョウコですね。お噂はかねがね」

 こう口にしたロシャンガクは3人に椅子に座るように促し、自分も向かい側の席に座った。この後は、ここに来た目的を丁寧に伝える。街や村を荒らした盗賊団の頭領たちが梁山泊に逃げ込んだとの情報を得たので、引き渡しを要求しに来たのだ。これを聞いたロシャンガクはこの件について認識しておらず、ライケイを呼んですぐに調査するように依頼し、梁山泊へと急がせた。

「リョウコよ。以前の梁山泊ならいざ知らず、今はそのような不届者をかくまうようなことはしない。こちらで調べて、それが事実であったならばこちらで捕らえて引き渡すという算段でも良いか」

 この言葉に対してリョウコは少し考える素振りを見せたが、現状これ以上の成果を望むべくもないので、悩んだふりをした挙句に了承し、固く握手をした。そしてこの後は、ヒャクネイが作ってくれたお土産を渡され、自分の部隊の場所まで引き上げたのである。ちなみに数日後に梁山泊より連絡があり、盗賊の頭領たちの件は調査が済み、捕獲済みとのことであった。そこで部隊を派遣して引き渡してもらい、現在頭領たちは連邦収監状に収監中となっているのである。

※画像イメージ:ロシャンガク

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