1998年8月31日(月)
【熊大第2迷宮:湘南爆走隊】
「あっけなく倒せましたね」
「ティリオス様様やな」
目の前で消滅していくケンを見つめながら平山 裕美が発した言葉に、桜庭 敦子が続けた。ここは熊大第2迷宮。本日地下3階を訪れ、ボスであるケンとの戦いに挑んだ湘南爆走隊であるが、高松 準也が唱えたティリオスの直撃を受け、無事戦闘に勝利している。マニュアルに記載では、このケンというボスはティリオス以外の攻撃はほとんど無効化され、物理攻撃もTNT爆発もほどんどダメージを与えられず、倒す方法としてはティリオスの呪文のみとなっている。だが、一応確認のために、戦闘開始からしばらく戦士の物理攻撃やTNT爆発などの呪文も試してはみたが、やはり効果を発揮しなかった。しばらく戦い、マニュアルの記載が正しいであろうことがわかったので、高松がティリオスを唱えたのである。
「物質回収します。ティリオスって何ですかね?」
物質回収に向かいつつ、戦士とすれ違った沖本 蓮香が声をかけるが、戦士3人にそれがわかるはずもない。先程ケンが消滅間際に発した言葉である“ティリオスとはまさかあの”という言葉に疑問を持ったのであるが、この疑問については今だに解明されていない冒険者組織の謎の1つである。
「だから何であんたはいつも自分から回復するのよ」
「ダメなんですか?」
部隊の場所に戻ると、そそくさと布川 和人が自分の回復を行っており、それに桜庭が大声で突っ込みを入れる。君主である布川は直接戦闘を行っているが、この部隊には僧侶がいないので、回復役も任されているのである。布川的には結果全員回復するので順番は関係ないと思っているのだが、いつも桜庭から指摘を受けている。
「部隊に属している以上あなたの呪文はあなただけの物ではないのよ。あなたの呪文は私のもの。私の剣は私のもの」
「わーたしーはあつこーがーきだいっしょー」
不条理とも思える理論を振り翳した桜庭の声を聞いて、平山と島 可南子が歌を口ずさんだ。それを聞いて布川は軽くため息を吐き、桜庭の回復を始めたのである。