別世界では別職種だった件 ホンダ編 第3話
第3話 ファーストミッション
「ホンダは成長が速いわね。びっくりする」
多少ため息混じりな感じでリンドが言葉を漏らした。ホンダがこの世界にやって来てから1ヶ月が過ぎようとしている。その間、エスパーのスキルや使用方法、実戦練習などをほぼ専属でリンドが指導していたのである。ホンダの真面目な性格と、習得能力、素質の高さにより、すでに能力はリンドを越えている。
「いや、リンドの教え方が上手いからですよ。本当に感謝してます」
軽く頭を下げながら、礼の言葉を述べる。現時点でのエスパーとしての能力は、瞬間移動能力、加速能力、回復能力、装甲能力、射撃能力があり、主能力の瞬間移動と副能力の加速能力はこの国に存在する全エスパーをすでに凌いでいる。回復、装甲、射撃に関しても高いレベルで使用することができるのだ。
「そろそろ実践に出ても良いと思うから、どう?依頼を引き受けてみない?」
そう言われて一瞬考えたが、いつまでも鍛錬だけを行っていても仕方がないので、賛同の意を伝える。するとリンドは軽く笑顔を浮かべて、一緒に事務室へと向かうことになった。事務室に着くと、何故か不機嫌な女性が書類をバサバサと整理している。
「はーい、シズク。何か忙しそうね。お手頃な依頼はないかしら」
「お前はいつも忙しい時に来るな。ほら、自分で探せ」
そう言って、ファイルのようなものを渡されて、リンドは閲覧用のテーブルに向かう。しばらくファイルをペラペラとめくりながら確認していたが、何やら良さそうな物があったらしく、立ち上がって、シズクの元へ向かう。
「これ私たちがやるから、登録しといてー」
「リンドと誰がやるんだい?」
「私とホンダとサキアとアクミで登録宜しくー」
右手を挙げながらそう言い残して、事務室を後にする。
「依頼は今日の夜だから夜10時にここに集合ねー。特に準備するものはないし、そこまで危険な依頼でもないと思うから安心して」
軽くこう説明されたが、そもそも依頼と言うものがどんなものかも全くわからないので、安心しろというのが無理な話だ。
「アクミは知らないわよね。まあ紹介はその時でいいかな。あと依頼内容も明日まとめて説明するね。じゃあ、私これからご飯食べにいくけど一緒に行く?」
そう言われ、断る理由もないので、一緒にご飯を食べに行った。その後リンドと別れ、一旦家に帰った本田はティーナに依頼についていろいろと教えてもらう。思っているほどは危険なものでもないようなので安心する。そして特に何も起こることなく、依頼の集合時間となり、再度エスパーギルドに向かう。約束の場所に着くと、すでにリンドとサキア、そしてアクミらしき人が到着している。アクミはホンダを見ると笑顔で近づいてきた。
「君がホンダかー。俺はアクミ、宜しくね」
そう言って右手を出してきたので、握手をする。外見はあまり大きくなく、顔も幼い感じの男の子だ。どんな人が来るか少しだけ不安だったので多少ホッとする。
「じゃあ挨拶も終わったことだし今日の依頼内容を説明するね。簡単に言えば、ある建物内にある金庫から書類を盗んでくることです。難易度はD、サクッと終わらせましょう」
軽い口調でリンドが依頼内容を説明する。
「分担としてはサキアが外で待機、私とホンダとアクミで入手に行きます。もし誰かいたら私をホンダで排除、アクミは金庫をサクッと開けてね」
それを聞いてサキアとアクミは大きく頷いている。それを見て自分も頷くことにする。
「じゃあ早速行きましょうか。場所もそんなに遠くはないので歩きましょう」
そう言ってリンドが歩き出したので、その後ろをついていく。ギルドを出て、20分ぐらい歩くと目的の建物が目に入ってくる。4階建ぐらいのビルで、思っていたよりも大きい。
「私ここで見張っておきます」
そう言って、サキアは立ち止まり、軽く手を振っている。それを気にせずリンドはどんどん先へと進む。入り口の扉の鍵はアクミが簡単に解除し、中に入ることができた。金庫が置いてあるのは4階の事務室であることはわかっているので、階段を登り、4階へと向かう。この建物は1階から2階へ上がる階段と、2階から4階に上がる階段が別の場所にある。なので、2階に登った後で、別の階段までは廊下を歩かないといけない。廊下を歩いていると何か人の気配を感じる。一旦立ち止まり、様子を伺うと、向こうもこちらの存在に気がついたようだ。
「誰かいるようだな。俺の邪魔をしに来たのかな」
そう言いながらその男は向かってくる。その男は体が大きく筋骨隆々で、額に“F”の文字が入っている。
「あいつ格闘家だよ」
「格闘家・・・」
リンドの言葉を聞いて、思案を巡らせる。一旦リンドとアクミを後ろに下がらせ、自分が戦う姿勢を見せる。それを見て男は笑顔を浮かべ、戦闘体制をとる。ホンダは実践訓練を思い出しながら場所を移動しつつ、サイコショットを放つ。しかしその男はそれを華麗に回避して距離をつめ、みぞおちにパンチを叩き込んだ。
「ぐはっ」
ESPパワーで体に装甲を纏っているが、それを突き抜けるほどの威力であり、膝から崩れ落ちる。
「何だなんだ、結構やるかと思ったら、弱えーじゃねーか」
勝ち誇った表情を浮かべ、男は笑っている。その間にダメージを回復させ、立ち上がる。すると後ろからリンドの叫び声が聞こえた。
「ホンダ、後ろ、何かくる!」
反射的に振り返ると、目の前に顔があり、喉元に何かを刺された感覚を覚える。その瞬間やられたことを覚悟するが、目の前にあった顔が、ゆっくりと離れ、喉元に刺さっていた何かも喉から離れる。そして宙に浮かんでいる状態からゆっくりと地面に立ち、軽く笑顔を浮かべる。
「何だ、ホンダじゃん。何でこんなとこいるの」
急に出現したメイからこう聞かれたが、それはこっちのセリフだと言い返したい気持ちを何とか抑える。
「ギルドの依頼でこの建物に用事があったんです」
「ふーん。そっかそっか。私たちと同じだねー」
先ほど喉元に突き立てたであろう長い爪に息を吹きかけながら、何やら楽しそうに言葉を発する。
「流石にここまで無視されると頭に来たので、お前ら全員皆殺しすることに決めたから」
メイが出現してから今まで様子を見守っていたが、イラつきがピークに達したので、男が大きな声で言い放つ。それを聞いてメイが笑顔を浮かべながら口を開く。
「何言ってるの?こっちには世紀の大エスパーであるホンダ先生がいるんだよー。お前なんかチョチョイのチョイよ。さあ、ホンダ、やっちゃって」
「あのー、さっき負けました」
それを聞いてメイは後ろにいるリンドとアクミに目を向けるが、どうも本当のことらしい。
「じゃあ、私がやっちゃっていいのかな」
その言葉に3人が頷いたので、メイは軽く微笑んで、男がいる方に体を向ける。その瞬間、その男はメイに首を捕まえれて抱え上げられた状況になっている。そのまま男が気絶したのでメイはその男を投げ捨てた。
「依頼完了ー、って本田君じゃん。奇遇だねー」
いつの間にか現れていたトミタが言葉をかけてくる。どうもあの男を倒すのがトミタの任務だったようだ。
「本田君達は何しに来たのかな?俺もう任務終わったから良かったら手伝うよ」
「そうですか、ちょっと情報入手というかそういうやつなんですよ。まだあんなのがいたら厄介ですので、良かったら同行していただければ助かります。先ほどメイさんに助けてもらったのもあるので、任務後トミタさん暇だったら俺の奢りで飲みに行きましょう」
「了解ー」
そういって一緒に事務室へと向かい、無事に書類を入手した後、リンドとサキアとアクミはその書類をもってギルドへ戻り、ホンダとトミタはいつもの飲み屋へと向かった。
※画像イメージ:サキア
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?