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1997年1月29日(水)《BN》

【森の小径:野本 侑花・左村 亜香里】
「何か楽しいことはないものかねえ」
「そうそうないよ。ないものねだりの子守唄」
 食後の紅茶を楽しみながら思わず野本 侑花が漏らした言葉を聞いて、左村 亜香里は中原 理恵さんが歌う名曲“東京ララバイ”の一節を引用して返事を返した。ここは喫茶店『森の小径』。お昼過ぎの時間であり、ランチメニューを目的にたくさんのリーマンや学生たちが訪れている。野本と左村も午前中の鍛錬の後で、美味しい料理を食べにここにやってきたのである。日々午前中は冒険者活動を行い、午後に大学がある日は大学まで移動して講義を受講する。もちろんそれは自分で選んだ道ではあるが、何かもう少し楽しいことがあっても良いのではと考えているのである。
「侑花は何をしたら楽しいの?あれだったら付き合ってあげるよ」
「何だろう。そう言われると良くわからないな」
 楽しいことがないのであれば何かを始めればと考えた左村が提案した言葉に対して野本は微妙な返事を返す。世の中楽しいことはおそらくたくさんあるのだが、自分にとって何が楽しいのかは良くわからないのである。
「じゃあ今日はとりあえずいろいろやってみて、何か楽しいことを見つけてみようよ」
 こう左村に言われたので、野本は納得して首を縦に振った。そして2人は店を出てアミューズメントビル『VIP』へと向かう。そこでボウリングやビリヤード、ビデオゲームやコインゲームなどを順番にプレイする。やってみるとどれもこれも楽しいものだったが、野本に一番刺さったのはコインゲームだったようなので、今後一緒にコインゲームに通うようになることが決定したのであった。

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