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2000年2月22日(火)

【魔術師鍛錬場:井口 咲江・水井 華代・坂野 幸美】
「あ、出来た」
「すごーい。おめー」
 目の前で起きた現象を見つめながら井口 咲江が漏らした言葉の後で、水井 華代が祝福の言葉をかけた。ここは午前中の魔術師鍛錬場。本日もたくさんの魔術師が鍛錬を行っている。16期の同期トリオである井口、水井、坂野 幸美の3人は朝から一緒に鍛錬を行っており、TNT爆発の呪文習得に向けて精神を集中していた。そしてたった今井口がTNT爆発の発現に成功したのである。
「さすが咲江だー。おめでとー」
「華代も幸美もありがとねー」
 祝福の言葉を坂野も口にし、呪文に成功した喜びで笑顔を浮かべている井口が2人に御礼の言葉を返した。TNT爆発は魔術師の最高ランクの呪文と位置付けられており、これを習得することができれば魔術師として一人前と言える。この呪文を覚えるのにはどうしても時間がかかるので、先ほどのタイミングまでは15期までの魔術師しか使用できなかったが、これで16期もTNT爆発レベルに到達できたのである。ちなみにTNT爆発より後に習得する呪文としてティリオスがあるが、この呪文は現状特殊な空間である第2迷宮地下3階のボス戦でしか利用機会がないので、魔術師の魔法ランクとは別の特殊魔法の位置付けになっている。
「引退前に同期がTNT爆発打てて嬉しいよ。私は打てなかったけど」
「華代がいなくなって同期が2人になるけど私らは頑張るからね」
 今週の金曜日で引退する水井の言葉に、坂野が少し寂しそうな表情を浮かべながら返事を返す。
今週の金曜日に冒険者組織全体での引退式が実施される予定となっている。そのタイミングでかなりの人数の冒険者が引退することになるが、その中には水井が所属するカイジさんごめん部隊も含まれるのだ。
「純粋に16期と考えれば残り12人か。少なくとも来年まではこの人数かな」
「こんなもんだと思うよ。下は確実に入ってくるから上が抜けないと数が多くなりすぎるからね」
 16期の残り人数を数えた坂野の言葉に、相変わらず笑顔で井口が返事を返す。毎年冒険者募集は行っており、60人の人数が冒険者になる。引退者がいなければ純粋に冒険者の数が増えていくのは自明の理であり、そのことは全冒険者が理解している。なので、仲間の引退は寂しいことではあるが、仕方がないと毎回割り切る理解力を冒険したちは持っているのであった。

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