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別世界では別職種だった件 マエダ編 第4話

第4話 帰還

「じゃあ私は一足先にギルドに行って引き継ぎ作業をやってますね」

 こう言ってカオリは先に宿を出発し、エスパーギルドへと向かった。残りの3人はまだ時間に余裕があるので、のんびりと朝食後のひと時をまったりと楽しんでいる。出発する準備自体は全員終わっているので、何となく時間を潰している状況だ。

「それにしても」

 マエダの視線の先にはリョウコの姿がある。長髪ストレートの綺麗なロングヘアーであり、顔やスタイルも抜群である。元の世界においても冒険者の中で圧倒的なルックスをしていたので、それも当然ではあるがまじまじと見つめてみると美しさは一段と際立っている。

「意図的なのかな」

 次にマエダはマサミに視線を移す。右田とは違い、ショートボブの髪型に優しい癒し系の顔をしている。スタイルは戦士のリョウコに比べると多少ふっくらしているが、太っているということでは全くなく、リョウコに勝るとも劣らない可愛らしさを持っている。また、昨日から合流したカオリもこの2人と比べると少し可哀想であるが、一般的には十分可愛いと呼べるレベルである。そう考えると、女性の転生条件として、ルックスが高い女性という条件があるのかもしれないのではないかと考えているのだ。

「どうしたの、何か見つめてるけど」

「いや、何でもない」

 じーっと見つめているのに気づいたマサミが声をかけてきたので、それに軽く返事を返す。先程から見つめてはいたが、特に何か理由があるわけではないのだ。

「じゃあ、そろそろ行きましょうか」

 こう言ってリョウコは立ち上がり、自分の荷物を持ち始める。これをみてマサミとマエダも出発の準備を始めた。この後は宿を出て、昨日と同じルートを通ってエスパーギルドへと向かう。すると、すでにカオリの引き継ぎ業務は終わっていたようであり、早速中央に戻る準備を始めることになった。

「じゃあこちらへ」

 カオリに先導されて3人はエスパーギルドの建物の奥の方へと進んでいく。テレポートは通常的に使用して良い場所が法律で定められており、それ以外の場所で使用するのが発覚すると、結構な重い罪に問われるのである。そしてある扉を開けて中に入ると、そこは何も物が置いていない部屋であった。

「ここからテレポートしますね。床に書いてある円の内側がテレポートする範囲になるので、自身はもちろん荷物も必ず円の中に入れておいてください」

 こう言われてテレポートが初めてなマエダは一瞬動揺したが、自分は特に荷物を持っていないので、ただ円の中に入っていればいいらしい。それにしても。

「俺、収納されれば良くない?」

 考えてみれば、マサミの中に収納されていれば一緒にテレポート出来るわけであり、わざわざ外に出て一緒にテレポートをする必要はないように思えたのだ。

「いやです」

 先程の発言にマサミは瞬時に否定の言葉を発した。なぜ嫌なのかは良くわからないが、まあどうでも良いことだと納得する。

「じゃあ飛びます。テレポート酔いするかもしれませんが、それは勘弁してください」

 こう話をした後でカオリが精神を集中する。すると周りの空間が少し歪んでいくような感覚を覚え、急に重力がなくなったような感じを受ける。

「確かに、ちょっと気持ちが悪いな」

 今までにあまり経験したことのない感覚を覚え、マエダが言葉を漏らす。とはいえ、我慢できないほどの不快感ではないので静かにテレポートが終了するのを待つ。すると程なく、重力が戻ってくる感覚を感じ始める。そして、周りの景色の歪みも小さくなっていき、明らかに先ほどとは違う部屋へと出現した。

「着きましたよー」

「やっぱりまだ慣れないな」

 大きく息を吐いた後でカオリが到着したことをみんなに告げる。それを聞いてリョウコは大きく背伸びをしながら感情を吐露した。この後はテレポート室を出てエルパーギルド内を移動する。流石に中央と呼ばれる地域にあるギルドだけあり、先程までいたエスパーギルドの建物とは大きく違いがあり非常に豪華である。また、たくさんのエスパーが移動をしており、一大組織であることが伺える。

「じゃあ私ら王宮に戻るね」

「わかりました。何かあったら連絡ください」

 こう挨拶をしてカオリと別れ、3人は王宮へと向かう。ここから王宮まではそこまでの距離があるわけではないらしく、歩いて移動することにする。すると程なく大きな建物が眼前に現れ、おそらくここが王宮であろうと認識する。すると王宮の方から2人の男性がこちらに向かって歩いてくる。背が高くすらっとしており、かなりイケメンっぽい雰囲気を醸し出している。

「リョウコ様、おかえりなさいませ」

「お迎えご苦労。ブロンド、何か変わりはなかったか」

「それはプラチナから報告いたします」

 髪の毛が金髪の男性とリョウコが会話をしている。この男の名前はブロンドというようだ。髪の毛が金髪だからなのかは不明であるが、たまたまなのだろうか。

「タルシーム回廊に不穏な動きがあるらしく、主たる軍団は一旦、回廊へと向かいました。そしてその後、スタルゲンツとの国境あたりで盗賊団が暴れ回っているとの情報が入ってます。そこでリョウコ様には即座に盗賊団を討伐するようにとの下知が降っております」

 冷静な表情で髪の毛が銀色のプラチナと呼ばれる男性が丁寧に説明を行う。それを聞いてリョウコは大きくため息をついて軽く肩を落とした。

「報告ありがとう。早速討伐に出かけるから2人も準備に取り掛かって」

「承知しました」

 こう言って2人はマサミとマエダに特に挨拶をすることもなく、そそくさと王宮方面へと歩を進めていく。

「というわけだから、ちょっと休んだら盗賊討伐に出かけますよ」

 出かけますよ?ということは俺たちも行くのだろうか。リョウコが軍隊の軍団長であることは聞いており、その立場であれば討伐に出かけるのは仕方がないことだ。だが、自分とマサミは別に軍に所属しているわけではない。はずだ。

「あのさあ、雅美って軍隊に所属してるの?」

「いえ、でも私、良子の客将扱いだから、基本行動を共にしないといけないの」

 それを聞いて、一緒に行く理由としては納得する。それにしても面倒な話だ。この後は3人で王宮に入り、大臣と謁見する。そしてその後、リョウコの私室で少しだけゆっくりする時間が取れた。この後は盗賊討伐などどいう意味がわからない場所に連れて行かれることに少し嫌気がさしている前田は、ソファーに座った状態で少しだけ目を閉じることにしたのである。ちなみに、今3人がいるマストクック連邦は連邦国家であり、王族というのは存在しない。なのでここは王宮と呼ばれてはいるが、実際は連邦中央組織の建物であり、政治、経済、軍事はここを中心に日々行われているのである。

※画像イメージ:牛嶋 香織

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