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1996年12月30日(月)《BN》

【熊本競輪場:立石 啓二・富田 剛】
「十文字が逃げて神山後閑で仕方ないかな」
「小橋に頑張って欲しいけどね」
 車券を握りしめながら富田 剛が漏らした言葉に、立石 啓二が願望の言葉を返した。ここは『熊本競輪場』。本日は立川競輪場にて“KEIRINグランプリ’96”が行われることになっており、ここ『熊本競輪場』でも場外車券の発売が行われている。本日は開催日ではないため、実際にレースが行われるわけではないが、場内のテレビにてレースを観戦できるようになっているので、競輪ファンにとって年末最後のBIGレースということもあり、たくさんのファンが集まってきている。立石と富田は昨日は忘年会と称してグランプリの予想をしつつ街でお酒を飲んでおり、明け方に一旦別れた後、競輪場通りにあるパチンコ屋『21世紀水前寺店』で再集合することにした。そして時間までスロットを打ちつつ、グランプリの時間を見越して競輪場に移動し、車券を購入したのである。ちなみに富田はこの時点で競輪の電話投票権を持っていたので、わざわざ車券を買いに行かずとも購入自体は出来たのであるが、やはり実際に競輪場に行って車券を購入するのは気分が違うというものである。また、今回のメンバーでは立石は小橋選手のファンであり、富田は後閑選手のファンである。
「流石に十文字と吉岡のスピードに三宅じゃ敵わないと思うけどね」
「頑張って逃げれば小橋が何とかしてくれるかもしれんが」
 お互いにレースの展望を予想しながらレースの発送を待つ。競輪に限らず、公営競技というものはレースそのものはもちろん面白いが、レースが実際に行われるまでの予想合戦というものが醍醐味でもある。お互いの知識を総動員しながら友人や仲間達と自分の予想を発表し合うことで楽しい時間を過ごすことができ、これにお酒が入ったりすると最高の時間となるのだ。
「さて、いよいよ発送だな」
「十文字が超早めに仕掛て最後後閑がちょい差しでお願いします」
 場内の熱気がピークを迎えてKEIRINグランプリ‘96がスタートする。結果は2人が考えていた展開とは全く違うものとなり、車券的には立石は的中、富田は惨敗で終わったのであった。

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