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2000年2月21日(月)

【南食レストラン:石渡 實・中江 羽衣子・中森 沙那・田邉 早記・藤木 章司・松沢 大志】
「え、何か急やな」
「本当にごめんなさい」
 いきなりの告白に対して石渡 實が代表して言葉を漏らし、少し涙を浮かべながら田邉 早記が返事を返した。ここはお昼過ぎの『南食レストラン』。たくさんの冒険者や職員たちがランチを楽しんでいる。リリスかわいい部隊のメンバーたちは午前中第1迷宮の地下7階を探索し、探索の後で一緒にここに昼食を食べに来たのである。席について注文を終えて一息ついたタイミングで田邉が口にした言葉に全員が騒然としたのである。
「事情は言えないんだよね」
 あまりの急激な状況の変化に何かが起きたことは間違いないだろうが、その理由を知りたいものの言える内容かどうかはわからず、中江 羽衣子が手探りで声をかけてみる。するとやはり理由は言えないらしく、田邉は静かに返事を返す。
「ごめんなさい。今は言えないです」
「そっか。良いよ良いよ。気にしなくて。時期的にはちょうど良い時期でもあるしね」
 優しい口調で中森 沙那がこう口にし、田邉の肩を優しく2回ポンポンと叩いた。現在2月の後半であり、2月末でたくさんの冒険者が引退を迎える。部隊のメンバー全員が引退する場合があれば、メンバーの中の一部が引退するパターンもある。そうなると残ったメンバーは新しく部隊を組む必要があるので、この時期は比較的に部隊編成がしやすい時期なのである。ちょうど良いレベルの罠解除士がいるかどうかはわからないが、それを願うしかない。
「良し、じゃあ今日は田邉ちゃんの卒業と今後別世界での活躍を祝って俺の奢りでパーっとやろうか」
「本当?じゃあ私、デザートたくさんたっべる♪」
 仲間が引退することは寂しいことだが、明るく見送りたい気持ちももちろんあるので、石渡が威勢の良い声で場を盛り上げ、それに中江も言葉を続けた。
「みんな、ありがとう」
 自分勝手な引退宣言にもかかわらず、明るく見送ってくれる仲間たちを見つめながら田邉は大量の涙を流しつつも笑顔を浮かべたのであった。

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