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1999年8月30日(月)

【AXIS:本田 仁・水井 華代・富田 剛】
「こーいのーよかーんがーただーかっけーぬけるだけー」
「あ、富田さんお疲れっす」
 店に入ってきて急に歌い出した富田 剛に気づいた本田 仁が平然と挨拶を行った。ここはゲーム&喫茶『AXIS』喫茶部。お昼過ぎの時間であり、店内はある程度の客で賑わっている。本田と水井 華代も先ほどやって来て、今は料理を待っている最中である。また、富田は現在隣のゲーセン部を運営しているが、現在厨房にいる富田 さやかに用事があったので、こちらに足を運んだのである。
「お疲れーって、えっと」
「あ、私、水井 華代と言います」
 どこかで見かけたことはあるかもしれないが、おそらく初対面の女性に富田が視線を向けると、水井は丁寧に自己紹介をした。
「これは丁寧に。おいらは富田です。この店の店長やってます」
 軽く頭を下げながら富田も丁寧に挨拶を返す。そしてそのまま厨房の方へと移動して行った。
「さっきのが富田さん。昔同じ部隊で罠解除士だった人で大学の先輩」
「噂は聞いてます。採用試験の時に名前が出ました」
 先程の挨拶の補足を本田が行い、それに対して水井が名前は知っていたことを口にする。冒険者の後衛職の採用試験で最初に課題となるのが、鍛錬場内で指先に光を灯すというものだ。基本的には試験期間中に成功すれば合格の可能性が高いが、今までの試験の歴史の中でこれを1番早く成功させたのが富田であり、このことは採用試験時にいまだに話題になるのである。
「はい、ランチ2つお待たせー」
 そうこうしていると富田がランチを2つ持ってきて、その2つをテーブルに置く。そして2人が食べ始めたタイミングで気になることを質問してみた。
「で、お二方は今日は何をしてるんだい」
 最近あまり女性と2人きりなのを見たことがない本田がこの状況になっているので、もしやと思ったのである。だがその返事は富田の期待とは違っていた。
「いや、今日魔術師鍛錬場でたまたま一緒に鍛錬をしたんですけど、その時に水井さんの趣味がスロットって話になったんですよ」
「そうなんです。前彼がスロット好きだったので」
 質問に対して本田が冷静に答え、水井も言葉を付け加えた。
「だからこの後一緒にスロット行ってきます」
 いつものように何気なく本田がこう口にしたので、富田は全てを理解する。初めに期待したような“恋の予感”ではなかったようである。この後、富田は2人に言葉に対してサムズアップを返し、先程の歌を再度歌いながら、自分の持ち場に戻るべく喫茶部を後にしたのである。

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