1996年11月2日(土)《BN》
【ホテルキャッスル:立石 啓二・本田 仁】
「え、ジージさんノープランで来たんですか?」
「そいがさー、ひどかとばーい」
小声で質問した本田 仁の言葉に音量MAXで答えた立石 啓二のこてこての諫早弁がマイクに拾われて会場全体に響き渡った。ここは熊本の老舗ホテル『ホテルキャッスル』。本日は富田 剛と松浦 さやか、大塚 仁と相川 まことの合同結婚式が行われている。披露宴会場の大ホールは富田家、松浦家、大塚家、相川家の家族親戚一同や、たくさんの冒険者仲間、先輩後輩、学生時代の友人などたくさんの招待客が訪れている。最初に2組の新郎新婦の入場から始まり、式次第に沿って順調にスケジュールが進行していく。そして現在は立石が富田の友人代表、本田が大塚の友人代表として一緒に壇上に立っているのである。あらかじめ友人代表を頼まれていた本田は、当日いきなり立石と2人で壇上に立つことは聞いており、事前に立石と打ち合わせは出来ないものの、どのような流れになっても話ができるようにある程度の準備をしてこの場に臨んでいる。一方の立石は実は本日結婚式があることも知らされておらず、単に昼ごはんを食べようと富田に誘われていたのである。食事の場所が『ホテルキャッスル』のレストランだったことは少し疑問が湧いていたが、とりあえず時間通りにやってきた立石が入り口で目にしたのが富田家・松浦家の結婚式という表示だったのである。この状況なのでもちろん友人代表のスピーチなど考えておらず、いまだに良く意味がわからないまま壇上に立っているのである。
「まあ、とりあえず始めましょう。えー、富田さん、松浦さん、大塚くん、相川さん、そして富田家、松浦家、大塚家、相川家の皆様、ご結婚おめでとうございます。たくさんの諸先輩方がいらっしゃる中で、若輩者の私がスピーチなどおこがましいのですが、大塚くんのたっての願いということで壇上に立たせていただいております。挨拶が遅れましたが、私は大塚くんの友人の本田 仁です。そして」
丁寧な挨拶を行った後で、立石に話を振る。すると一瞬頭を整理した後で話し始めた。
「富田くんの友人代表の立石 啓二です。本日はお足元の悪い中、多くの方にご来場いただき、新郎新婦に変わって御礼申し上げます」
「晴れてますけどね」
いつになく真面目な表情で挨拶を始めたが、いきなり本田が突っ込んだことで会場では少し笑いが起こる。この後はお互いの話にお互いが突っ込みあい、まるで漫才でも見ているような友人紹介のスピーチとなって会場は爆笑に包まれる。そして持ち時間の10分を少しオーバーして話し続け、司会からそろそろと突っ込まれて2人はスピーチを終えたのである。会場から割れんばかりの拍手が起こったのは言うまでもない。