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1997年2月26日(水)《BN》

【冒険者組織大ホール:引退セレモニー】
「いやー、また寂しくなるねー」
「もう慣れっこでしょう。皆さんは」
 挨拶に来た今回引退する戦士のメンバーたちに対して前田 法重が漏らした言葉に、宮下 亜希が笑いながら返事を返した。ここは冒険者組織大ホール。本日は17時から今期で引退する冒険者たちのための引退セレモニーが盛大に行われている。基本的に現役冒険者や職員たちは原則全員参加なので、たくさんの人たちで会場はごった返している。式次第に沿って順番に行事が行われていたが、現在は自由時間であり、引退する冒険者たちがお世話になった長官や教官、先輩たちに挨拶に回っているのである。前田と原田 公司、中尾 智史の3人はとにかく会場の隅の方にあるアルコールコーナーの近くの席を陣取り、長官の足立 賢治の乾杯の掛け声を聞いて以降は特段行事を気にすることなく飲みに飲んでいたのである。するとそこに引退者達が挨拶に来たのだ。
「今回のメインは8期9期だよね。早いなー8期9期が引退期だもんな」
「俺らも歳を取るはずですよ」
 冒険者の引退の目安は基本的には4年となるので、今回は8期9期がそれに当たることを前田が口にし、時が経つのが早いことをしみじみと感じた原田が感想を述べた。この2人は冒険者組織立ち上げ当初の1期生であり、1期生はこの2人しか残っておらず、次に来るのが大塚 仁と本田 仁の3期である。中尾は6期なので意外と入隊が遅いのであるが、若い冒険者たちからすると7期以前は一派一絡げで全員がレジェンド扱いとなっているのである。
「前田さん、原田さん、中尾さん。お疲れ様っす」
「お世話になりました」
 遅れてやってきたのは猪瀬 亮と浦田 範明、金森 穂高の3人であり、礼儀正しく挨拶をし、深々と頭を下げた。
「そうかー。お前らも引退かー。早くない?」
「早いですよね。でも12期では3番目ですよ」
 挨拶に対して返事を返した原田の言葉を聞いて、猪瀬が返事を返す。12期はまだ3年しか経っていないので、本来の引退時期ではないが、なぜかこのタイミングでの引退を決めている。詳しい理由ははっきりとは語られていないので、詳細は不明である。また12期は探索初期に冒険がはじまる部隊が探索失敗により2人の冒険者が命を失い、残り4人の内3人も冒険者を引退した。残る1名の松浦 さやかは冒険者継続を選択し、たまたまそのタイミングで別途引退した神田 順と入れ替わりにチーム・カイシン部隊へ合流する。そして昨年松浦の結婚に伴ってチーム・カイシン部隊も解散したので、12期の部隊は現在3部隊となっていたのである。
「とりあえず、俺たちは俺たちで頑張るから、お前らもいろいろ大変かもしれんけど頑張れよ。乾杯!」
 集まってきた引退者の全員に目配せをしながら挨拶をし、最後にきちんと乾杯の言葉を発した前田は、手に持っていたジョッキのビールを一気に開けて、満面の笑みを浮かべたのであった。

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