別世界では別職種だった件 ホンダ編 第12話
第12話 超力大将
「お断りします」
「そうか、だが私は諦めないぞ」
真剣な表情を受かべて発したホンダの言葉を聞いて、ハンディルは少し寂しい表情を浮かべながら口を開いた。先日のギルド襲撃事件の際、敵のボスから木っ端微塵とは言われていたものの、何とか命は取り留めていたハンディルであったが、回復や治療を繰り返しても余命いくばくもない状態となっている。自分の命がもうあまり持たないということは自分が一番理解しているので、こうなると命が尽きる前に後継者へと所長職を引き継ぐことを考えないといけない。そこまで規模は大きくないものの、この地区のエスパーギルドを長年預かってきた。色々考えた結果、全ギルド員の中でも在籍期間は短いものの、実力と才能は明らかに群を抜いているホンダに後を任せようと考えたのであるが、キッパリと断られてしまった。
「失礼します」
言葉を発しつつ、ホンダは立ち上がり、入り口方面へと歩いていく。その後方から再度諦めないという発言が聞こえてきたが、何の反応もせずに扉を開けて部屋を後にした。部屋の外にはリンドが待っており、一緒に作業場へと向かう。その中で今話してきた内容をリンドにも伝えた。
「そうなの」
少し悲しい表情を浮かべて言葉を漏らす。ハンディルの命があまり持たないことはリンドも理解しており、所長職を誰かに引きつがないといけない状況であることもわかっている。誰に引き継ぐかについてはリンド自信もホンダが1番適任だと考えてはいるのだ。だが、今のところ頑として受け入れるつもりがないようなので、残念な気持ちになっているのだ。この後、しばらく作業場で業務を行い、本日の仕事が終了し、この後はいつものようにいつもの飲み屋に向かう。そして店に入るといつものメンバーがすでに盛り上がっているのが目に入った。
「おー、本田。こっちこっち」
相変わらずのハイテンションのハラダが自分たちのテーブルに来るように声をかけてきたので、そちらに向かい合流する。そして店員にとりあえずアルコールを2杯注文した。するとすぐにアルコールが運んでこられたので全員でジョッキを手にする。
「では本田とリンドが来たので再度カンパーイ」
元気なハラダの乾杯の声が店内に響き渡る。今日もこの店は陽気な飲兵衛たちで各テーブルとも盛り上がっているようだ。
「ところで本田くん。何か大変なことがあったんだってね」
思ったよりもホンダの出張期間が短いことに疑問を感じていたトミタであったが、その理由をサクヤが調査を行い、その理由がエスパーギルド襲撃事件だったことを聞いていたのである。ただ、もちろん詳しい状況は知らないので、尋ねてみたのだ。
「そうですね。大変でした」
詳しいことは語らず、軽い返事を返すだけにする。どこから話して良いかは難しいし、きちんと話すのは結構面倒なのである。
「だよねー。みんな平気だったん?」
大変だったのは言われなくてもわかっているが、エスパーギルドの仲間たちが全員無事なのかどうかをクラタが尋ねる。それを聞いてホンダはジョッキのアルコールを一気に開けて、次の1杯を注文する。
「基本的には全員退避していたので無事だったんですが、建物に残っていた所長のハンディルだけが敵にやられて、もう長くないです」
淡々とこのように説明する。所長が長くないということを聞いて、全員に疑問が湧く。ギルドというのはエスパーギルドに限らず、拠点には必ず所長もしくはそれに準じる職務の人間が必要である。そのハンディルという所長が所長職を継続できないのであれば、誰かが次を引き受けないといけないというわけである。一般的にそのような場合は、何の問題もなく引き継ぎがされる場合と、その職を狙っている人間が複数人いるのであれば、そこで争いが起こることもある。
「で、誰が次の所長になるかは決まってるの?」
素朴な質問をハラダが投げかける。それに対して正直に返事を返す。
「一応お願いはされましたが断りました」
「何か面倒そうではあるよな」
少し考えてトミタが感想を述べる。基本的にここにいるメンバーは面倒くさがりなので、所長とかそのような役職にはなりたくないのである。
「所長のメリットって何かあるんだっけ?」
再度クラタが質問する。何かしらメリットがないと誰も所長などやりたがらないと考えるのが当然なのだ。これに対してホンダはあまり良くわかってないので、代わりにリンドが答える。
「普通に報酬はあります。あと、エスパー組織はこの大陸中に存在していて、最高位であるエスパー皇を頂点にピラミッド型に組織が編成されてます。今のハンディルの職責は13ある中の1番下になるんですが、定期的な職責変更で上に上がっていくことは可能です。もしホンダが頑張ってエスパ皇とかになると、莫大な報酬を手にすることができます。それこそトミタの借金も簡単に返せる額ですよ」
「本田くん。ぜひ引き受けなさい」
説明を聞いたトミタは反射的に言葉を発する。現在莫大な借金で苦しんでいるので、莫大な報酬という言葉に反応してしまったのである。
「富田さん。目が¥マークになってますよ」
ため息を吐きながらホンダが言葉を漏らす。らしい反応といえばそうであるが、少し節操がない感じがする。ただ、先ほどのリンドの話は初めて聞いた話であり、エスパー自体がそのような組織体制になっていることについては多少興味が湧く。せっかく異世界に転生してきたので、エスパー世界の頂点を目指すのは面白いかもしれない。そのためにはまずハンディルから所長職を受け継ぐということを意味する。この日はこれ以上はこの話はせず、ある程度時間が過ぎた後で飲み会は解散となる。そして次の日になり、エスパーギルドを訪れたホンダに対して、ミレンが声をかける。
「おはよう。ホンダ。またハンディルが呼んでるわよ」
この言葉を聞いて軽く息を吐いた後、所長室へと向かい、ハンディルを訪問する。昨日以上に体が苦しそうなハンディルが笑顔で迎えてくれ、そして声をかけてきた。
「私の後の所長になってくれないか」
これを聞いて、決意の表情を浮かべ、はっきりとした口調で返事を返す。
「やるよ。じいさん」
この瞬間にマルタ王国西部エスパーギルドの長官職がホンダに継承されたことになる。ちなみにこの時ホンダはハンディルのことをじいさんと呼んだ。ハンディルはじいさんと呼ばれるような年齢ではないので、なぜホンダがそう呼んだのかの理由はわかっていない。一説によると、この所長職を受け継ぐというイベントがある漫画に状況が似ているので、このように話したのではないかと考えられている。だが、この世界にはホンダの宿敵と呼ばれる人物は存在していていないので、その人物が乗っている飛行機が墜落するというイベントは発生しなかったのである。
別世界では別職種だった件 ホンダ編 第1部完
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