2024年6月10日(月)《GB》
《恋愛話はいつ聞いても楽しいものです。ドロドロ話は好きではないですが、ドキドキ話はご馳走です》
【戦士鍛錬場:富田 正継・黒瀬 舞人】
「はあ、はあ、はあ」
「そこまで全力で動けるのはなかなか凄いと思うぞ」
ベンチの隣に顔を下に向け、苦しそうに呼吸を繰り返している黒瀬 舞人に向かって、富田 正継が軽く笑顔を浮かべて声をかけた。ここは午前中の戦士鍛錬場。本日もたくさんの戦士たちが鍛錬を行なっている。昨日遅くまで友人たちと飲んでいた富田は、今日は少し遅れて鍛錬に行く予定にしていた。いつもは遅くまで寝ていると、一緒に鍛錬場に行く前田 綺羅や大塚 陽菜に叩き起こされるのであるが、今日は事前に遅れていくと言っていたので、2人は先に鍛錬場に向かったようである。昨日結構な量を遅くまで飲んだので、まだ多少お酒が残っている感はするが、鍛錬で体を動かせば酔いも覚めるだろうということで、冒険者組織本館へと向かう。戦士鍛錬場に入ると、随所で鍛錬や模擬戦が行われていたので、とりあえず軽く準備体操で体をほぐしていく。すると、たまたま休憩をしていた黒瀬に見つかって、模擬戦をして欲しいと頼まれたのである。それから約40分の間、黒瀬は全力で攻撃を続け、それを富田が交わしたり、受けたりしながら模擬戦は続く。結果黒瀬は富田に対して1度も有効打を打ち込めなかったが、それは実力差からすれば当然のことであり、それを悲観する必要は全くない。ただ、40分間を全力でフル攻撃出来る体力に関しては特筆すべきものであり、その点は富田は非常に評価している。
「あ、ありがとうございます」
だいぶん息が落ち着いてきた黒瀬はお礼の言葉を返す。この体力の回復具合に関しても、他の戦士たちとは明らかに違うものであり、それについても富田は非常に評価しているようだ。
「ところで舞人くんよ聞いてもいいかな」
「え?何でしょう」
急に何か質問をしてきたので、黒瀬は少し驚いて返事を返す。すると富田は少し声のトーンを小さくして質問した。
「高校生の彼女がいるというのは本当かい」
これを聞いて黒瀬はこの様な質問をされる理由が全く理解できなかった。
「いないですよ。何でですか?」
「いや、高校生の女の子と仲良く歩いている姿が目撃されてて、結構な噂になってるよ」
否定した後で疑問を呈した黒瀬に対して、富田はその理由を話した。これを聞いて、黒瀬は大きくため息をつく。
「違うんですよ。俺、夕方立田山でほぼ毎日体鍛えてるんですけど、島津さん、その女の子島津さんって言うんですけど、彼女もほぼ毎日立田山に何かをしに来てるんですよね。で、少し話すようになって、帰る方向も一緒だから一緒に帰ってるってわけです」
このような説明を聞いて、富田は状況を理解する。ただ単に一緒に歩いて帰っているだけのことらしい。ただ、そこから恋愛に発展することもなくは無いが、今の所はとりあえずないと結論づけた。この後は黒瀬の要望で再度模擬戦を行う。相変わらずの黒瀬の体力に感心しながら、今後が末恐ろしいと感じる富田であった。ちなみにこの噂の出どころは有村 藤花である。ただ、有村はこの話を富田 水無にしか話していない。もちろん誰にも言わないでという定型分付きでである。ただ、その願いも虚しく、この噂は四方八方に漏れ広がっていくのであった。