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1999年8月25日(水)

【AXIS:桑野 絵梨花・富田 剛】
「とっくに終わってるよ」
「そっか、流石やな」
 当然のような表情を浮かべて返事をした桑野 絵梨花に対して、富田 剛は感心しながら言葉をかけた。ここはゲーム&喫茶『AXIS』ゲーセン部。今は午前中の時間であり、店内にはほとんど客がいない状況である。いつものように桑野は朝から『AXIS』にやってきており、いつもの場所で読書をしている。その桑野に、そろそろ夏休みも終わりになるので、宿題が終わったかどうかと富田が尋ねてみたのである。
「もう25日だから終わってて当然だと思うけど」
「いや、終わってないやつも一定数いると思うよ」
 自分の感覚ではこの時期には夏休みの宿題が終わっているのが当たり前なので、それを桑野が口にし、それに対して富田は笑いながら反論する。夏休みの宿題などというものはきちんとやる派とやらない派に分かれる。前者が桑野であり、後者が小学校時代の富田である。きちんとやる派の人はおそらく計画的に余裕を持った期間で宿題をこなしていき、計画通りに宿題が終わると考えられる。ただ、やらない派の思考は、まず宿題は夏休み後半になってからやれば良いという理論から始まり、後半に入ると、最後の1週間でやれば良いと考えるようになる。そして残り1週間になると、3日あれば出来るという思考になり、残り3日になるともう無理ということを悟り、宿題を終わらせるのを諦めて先生に怒られる覚悟を決めるのである。
「まあ、とりあえずあと1週間で学校始まるから、きちんと準備しておくんだよ」
「わかったー。ありがとう店長」
 言葉をかけた後で富田は持ってきたお茶缶を渡す。するとそれを受け取った桑野は笑顔でお礼を言い、お茶を口にしたのであった。

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